表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/197

時飛ばしの剣聖

 竜が飛来する。


 『力ある隣人たち』が、自分たちの世界へと移住した後、この世界に残ったのは、人間と『隣人たち』の眷属、あるいは、その力を継いだ者達ばかりだ。

 基本的に、『隣人たち』とは比べるのもおこがましいほどの力の差があるとはいえ、強い生物は、強い。


 人間が弱い方なら、竜は強い方だ。


 生物としての竜は、周辺環境を自分に適した環境に作り変える力を持っている。

 『力ある隣人たち』の竜族は、作り変えるどころか、新しく自分の領域を作り出すほどの力を持っていたが、さすがにこの世界に残った竜に、そこまでの力はない。


 ただ、人間にとっては、脅威だ。

 街の近くにでも巣を作られれば、街中の環境が変わってしまう。

 火竜が住み着けば、気温が上がり、日照りや干ばつの危険がある。

 水竜が住み着けば、洪水などの水害の危険がある。

 他の竜たちでも、どれにせよ、竜の環境の中では、脆弱な人間は生活を営むことは難しい。


 だから、竜が人里近くに現れた場合、それは最優先での討伐対象となる。


 まずは、接近が確認された段階で、冒険者が派遣される。

 大体は、この段階で竜は討伐される。

 過去、『虹の飛島』が竜を討伐したのも、この段階だ。


 ただ、冒険者にはあたり外れが多い。

 隔絶した個人がいる一方で、強さはさほどではなくとも運だけで生き残ってきた冒険者もいる。

 竜の討伐依頼は、リターンは大きいが、リスクも大きい。

 時に、百人を超える冒険者を集めても、一蹴されることなど珍しくもない。

 だからこそ、『虹の飛島』が、三人で竜を、しかも番を討伐したことが、有名になったのだ。


 では、冒険者による討伐が失敗したらどうなるか。

 人里への距離がまだあるなら、再度冒険者の討伐隊が組織されることもある。

 ただ、帝国の場合は、一度冒険者が対応に出れば、その間に帝国軍が討伐準備に動く。

 たとえ冒険者が討伐を成功させても、竜によって荒らされた土地の整備に帝国軍が当たるため、どちらにせよ帝国軍は出る。


 冒険者の討伐の成否が関係するのは、その帝国軍に、帝国所属の隔絶した個人が同道するかどうか、だ。


 帝国は、国家である。

 人里を竜につぶされれば、それだけ税収に、ひいては国益に影響する。

 そのため、帝国では、冒険者による討伐が失敗した場合は、竜の討伐を確実に成功しうる人材を送る。


 それがたとえ、過剰戦力を派遣することになっても、だ。



*****



 竜が飛来した。


 帝国六大都市の一つ、『ベニオン』。

 帝国首都『ラクリア』の南東に位置する都市だ。

 その都市に、竜が近づいていた。


 黒竜。

 名の示す通り、黒色の竜だ。

 竜の中では、人界に悪影響を与えることの多い竜である。

 黒竜が近くに来ると、周辺の環境は荒れ、瘴気がまき散らされ、害獣や害虫が多く生まれ、飢饉や疫病が発生する。

 時に、ただ存在するだけで国家を滅ぼしうる竜である。


 その討伐は、最優先として実行されるものでなければならない。

 『ベニオン』の冒険者協会は、都市所属の一等級冒険者を中心とし、上位冒険者で討伐隊を編成し、派遣した。


 そして、全滅した。


 戻ってきたのは、ごくわずかな冒険者のみ。

 これから先の『ベニオン』で、冒険者界隈は荒れるだろう。

 その前に、都市が滅びなければ、だが。


 だから、帝国は、発見されたものが黒竜である、とわかった時点で、帝国の保有する最大戦力の一つの派遣を決定した。



*****



 黒い竜の姿が見える。


 ばさり、とマントを翻し、馬上で、その影を見る。


「団長」

「馬と、それからマントを頼んだ」

「は!」


 その人物は、馬を下りると、傍に控えていた侍従へとマントを外して手渡す。


 腰に長剣を差した、長身の男だ。

 頭に白いものが混じり始めた初老。

 だが、その体格はしっかりとしており、鍛えられた肉体がうかがえる。


 その人物は、腰に差した剣の鞘に手を触れたまま、前へと歩く。

 その身に、あふれるほどの武威を漲らせて。

 その背を、男が連れて来た、百騎ばかりの騎士が見送る。

 これから一人、黒竜に挑む男を見送るにしては、騎士たちの目に不安はない。

 むしろ、期待に輝く目で、男の背を見送っていた。


 やがて、黒竜は、眼下のちっぽけな存在から自分に向けられる、殺気を感知した。


 黒竜にとっては、取るに足りない相手のはずだった。

 先日蹴散らした、小さな者達と同じ種族だが、少し興味を惹かれた。


 だから、黒竜は地へと降り立った。

 前足を振るえば、軽く男を吹き飛ばせる距離。

 男からすれば、十歩かニ十歩か、駆け寄らなければ剣も届かない距離である。


 だが、男は剣を抜いた。

 その姿を見る者達が、瞬きをしたときには、男は後ろへと振り返り、剣を鞘へと納めながら歩き出していた。

 ただそれだけを見ていれば、まるで黒竜に恐れを抱いて逃げ出したようにも見える。

 だが、そうではないことは、見えていた。


 男の背後で、剣を抜いた男が、ゆったりとした仕草で走り出していた。

 そのまま黒竜までの距離を詰めると、静かに長剣を横に一閃。

 それが、地についていた竜の前足を切り飛ばす。

 そのことにより、黒竜の体が前へと傾ぎ、首がちょうどいい高さに下げられた。


 つまり、男の間合いだ。


 横に一閃した剣が、振り上げられ、振り下ろされる。

 切断の音は聞こえなかった。

 ただ、長剣は竜の伸ばされた首をまっすぐに切り落とした。


 そして、男は元の場所へと戻っていく。


 先に振り返り鞘に剣を納めて戻ろうとしていた男と、竜を斬ってから剣を鞘に納めながら戻ってきた男の姿が重なる。


 瞬間、男の背後で、首を切り落とされた黒竜が、命を終えて崩れ落ちた。


「お疲れさまでした」

「うむ。後始末を頼む」

「は!」


 マントを羽織り、馬にまたがり、男は去っていく。

 その背を、騎士たちは敬礼とともに見送った。



 男の名は、オシア・レビエナス。

 世界最強の一角、帝国最強のレベルの保有者。

 『剣聖』と称えられる、帝国の最大戦力である。


・時飛ばしの剣聖

『剣聖』オシア・レビエナスに与えられた異名。

剣を抜いて、敵を斬って戻るときには、すでに斬り終えて、剣を鞘に納めている。

極めて最適化された最速の剣は、むしろ目には遅く見える。

故に、『剣聖』の戦いを見る者は、『剣聖』が剣を抜いて鞘に納めた後に、『剣聖』がいかにして敵を斬ったのか、を残像という形で見ることになる。

その様が、まるで剣を抜いてから敵を斬った後に、時を超えて移動したように見えることから、『時飛ばし』と称されるようになった。

『剣聖』と敵対した者は、自らが『剣聖』の剣に斬られて死ぬところまでを見た上で、自分の死を理解してから死ぬ。

オシアが、『剣聖』と呼ばれるようになってから、彼と『斬り合い』ができた剣士はいない。




------------------------------------------------------------------

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 非常に豊かな世界観要素 [気になる点] 各人種間の実力ランキングは何ですか? [一言] 「無解宇宙」から!
2024/02/01 23:53 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ