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杖の補充

 ルディランズにとって、魔術とは趣味である。

 本人は生きがいと言い、周囲はキチガイと言う。

 だが、ルディランズにとって、魔術とは、趣味である。


 そんなルディランズだから、基本的に暇なときは、工房にこもって魔術の研究に明け暮れている。

 たまに、ルディランズを先生と慕うウィシアに魔術を教えたり、精霊術師であるフィアマや、他クランの術師達と意見交換をしたりしている。


 ただ、今日のルディランズがやることは、それらとは違っていた。


「・・・・・・よっと」


 ルディランズは、家の庭にいた。

 その一角は、土を耕して、畑となっている。

 そこに、指先ほどの大きさの種を落とし、水を撒いて、手をかざす。


「・・・・・・」


 撫でるような仕草と、それからその畑に埋められた呪文を刻まれた小石。

 魔術の発動により、種が発芽し、すくすくと育つ。

 それは、ルディランズより少々背が高い程度に成長し、止まった。

 自然界に存在しえない、まっすぐに伸びた樹木だ。


「よし」


 葉も枝もないまっすぐな、それこそ柱、とでも言えそうな白い樹木である。

 太さとしては、片手でつかむには少し無理がある程度。

 その樹木の側面に手を触れ、


「よ」


 軽い声とともに、足で根本を蹴る。

 すると、軽い音で、その樹木が根元から折れて、ルディランズの手の中に収まる。


「・・・・・・」


 そして、樹皮に対し、指で絵を描くように動かし、魔力を籠めると、そこそこの太さのあったその樹木が、片手でつかんで振り回せるほどの細さに圧縮された。

 それの杖を振る。

 軽く振り回し、バランスを見て、


「問題ないな」


 うむ、と満足そうにうなづくルディランズ。


「ご主人様。お茶です」

「おう」


 飲み物を持って、ブレアがやってきた。

 受け取り、ずず、とすする。


「何をされていたのですか?」

「ん? 魔王戦で、いくらか杖を使い潰したから、その補充だな」

「杖・・・・・・」


 魔術師の杖は、大体は生物素材を使って作られる。

 多いのは、樹木、あるいは、動物の骨だ。

 生物というのは、その中に力の通り道、回路とでもいうべきものがある。

 魔術師の杖は、その回路に魔力を通すことで、杖の先端まで魔力を通すことを目的とする。

 そのため、下手に加工してしまうと、その回路をつぶすことになるため、杖としての品質は悪くなる。

 だから、質のいい魔術師の杖なら、その素材としてはできるだけ年経たまっすぐな樹木を用いることが最善とされる。

 ちなみに、生物素材、特に動物の骨などを使う場合、その動物の生前の能力の影響を受けたりもする。

 そういう個性がない、扱いやすい素直な素材として、樹木素材の杖が多い。


 ただ、そういった杖に適した木材、というのは、手に入りづらい。

 ちょうどいい長さで、適度にまっすぐ、というのは、なかなかないし、ただの木では強度も低い。

 杖職人は、木材を仕入れたら、その木材を乾燥させ、圧縮。そして、研磨することで、手に持ちやすい杖を作るわけだ。


 そういう観点で言うと、ルディランズは少々ずるい。


 ドライアドの血を引くルディランズは、その種族特性から、植物の成長をある程度操ることが得意だ。

 それを使い、杖の素材として適した樹木の種から、杖に適した形で樹木を成長させ、杖にしてしまうことが可能だからだ。

 このあたり、ルディランズが他の魔術師より有利な点だろう。


「俺の場合、このやり方で作った杖は、俺の魔力がなじむからな。他の杖より使いやすい、というのもある」


 ふっふっふ、とルディランズは自慢げに笑う。

 ブレアは、そんな自分の主を見て、それから左足の脚甲にそっと手を触れた。


「これも、そういう作りの一つ、ですか?」

「まあな。このやり方で作った神性持ちの木を薪にしてる。ただ、アレは種がもうないからなあ。そのうち採取に行かないと」

「いつでも行けます」

「そうだなあ」


 ルディランズは、ブレアをちら、と見て、


「とはいえ、普段使いだと、それごついよな」

「・・・・・・特に邪魔ではありませんが?」


 ブレアの脚甲は、ブレアの呪いの軽減のためには、常に着用している必要がある品だ。

 とはいえ、戦闘用の脚甲である。

 街中では、明らかに浮いている。


「・・・・・・冒険者だから、それでもいいっちゃいいんだが」


 そのままだと、できるおしゃれに制限がある。

 ルディランズは、女の子には着飾ってもらいたい派である。


「そのうち、聖具のアンクレットも作ってやろう。いつも戦闘装備じゃあ、休日に連れまわすには無粋だしな」

「それは・・・・・・」


 ブレアは、迷いを持って、言い淀む。

 だが、しばらくして、頷いた。


「ありがとうございます」

「おう。素材が手に入ったらな」


 からから、とルディランズは気軽に笑った。

 そして、ルディランズは、次の杖を作るため、畑に種を播いていく。


「・・・・・・」


 ふんふん、と鼻歌を歌いながら作業をするルディランズを見て、ブレアは、ふ、と表情を和らげる。

 天気も良く、穏やか。

 休日として、いい日だ。


「・・・・・・うん」


 掃除でもしようか、とブレアが思い立ったところで、


「たのもー!!」


 甲高い少女の声が、響いた。



*****



「来たのだ!」

「のだ、じゃねえよ。せめてアポくらいとれ。仮にも貴族出身だろうがよ。お前」


 ベアトリスは、胸を張って、どーん、と玄関先で仁王立ちになっていた。

 そのベアトリスに、ルディランズは、はあ、とため息をつきながら応じる。


「何の用だ?」

「ウチに来ないか、と言っていたではないか」

「なんでこっち来てんだ。クランホームの方へ行けよ」

「あっちには、貴様がいないではないか!」


 ばーん、と、テンション高く、なぞのポーズを決めるベアトリス。

 その様を見て、むう、とルディランズは唸る。


「・・・・・・つまり、俺に用か?」

「うむ!」


 満面の笑みでうなづいたベアトリスに、ルディランズは嫌な予感を高めていった。

・素材の魔力伝導率

素材には、魔力の伝導率、というものが存在する。

生物素材なら、内部に魔力の通りやすい回路を持っているため、伝導率は決して悪くはない。

ただ、回路を通りやすい魔力の性質などがあるため、素材によって伝導率は大きく変わる。

一方で、金属や石材などの、非生物素材の場合、伝導率は素材によって違う。

非生物素材の特徴は、魔力を流すとその素材全体に魔力が等しく伝道すること。

生物素材は、回路以外の場所には魔力が通りにくいのだが、非生物素材は全体的に満遍なく広がる。最近の技術で作られる杖は、この性質を利用し、魔力絶縁体の素材に、魔力導体の素材を回路状に彫り込むことで、生物素材に近い性質を持たせた素材を作り、それを杖にしていることもある。

金属で作ることもできるため、武器としても用いることのできる強度を持たせることもでき、安定して作ることもできるため、一面では優れている。

ただ、魔力の伝導率そのものは、やはり生物素材から作った杖の方が上。



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評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

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