招待
「うぃ~・・・・・・」
のんびりと夜道を歩く。
夜を徹して続くであろう祭りの雰囲気は、今も騒がしい。
ただ、その騒ぎは都市中央部に集中しており、末端に向かうほどに、静かになっていく。
中央の大広場で、聖遣隊を中心に教会が盛り立てているのだから、当然だろう。
「どこへ向かうのだ?」
だから、ルディランズのように、都市の外端部へと向かう動きを取ると、街の喧噪には背を向けることになる。
「飲み足りんが」
「じゃあ、残って飲んでりゃよかったろうが」
同行者は、使い魔であるブレア。
それから、なぜかベアトリスと、ベアトリスがリーダーを務めるパーティー『暗黒の反旗』のサブリーダーである男が一人だ。
ジェイソンやジャン=ルイらは、このまま聖遣隊を称えている広場へと乗り込み、騒ぎに参加するらしい。
ジェシカもそれに付き合うらしい。
竜の血を引いているからか、彼女はものすごい大酒飲みだ。
まだ飲み足りないらしい。
ルディランズは、付き合いきれないので、そのまま家に帰ることにしたのである。
クランのホームにも一応寝室はあるが、ルディランズは都市内にもう一つ自宅を持っている。
自分の魔術研究のための工房を設置するのに、共用の館であるクランホームはちょっと都合が悪いからだ。
「というか、マジでなんでついてきたんだ? 広場の方へ行っとけば、英雄の仲間入りだぞ?」
「キサマはどうなのだ? 『百識』」
「ジェシカが行った。『虹の飛島』としては、それで十分」
俺個人は、そういう名声はいらんね、とルディランズは軽く笑う。
「お嬢、俺らも帰りませんか? このまま、『百識』さんの家までついてく気ですかい?」
「む? なんだ、デヴィッド。不満か?」
「不満、というか・・・・・・」
ベアトリスに同行していた『暗黒の反旗』のサブリーダー、デヴィッドが、ベアトリスに声をかけた。
それに対し、ベアトリスは、にらむような眼でデヴィッドを見返すが、デヴィッドはちら、とルディランズを見て、あー、と呻く。
言いにくそうな雰囲気に、ルディランズは察して言葉をかけてやることにした。
「『侍従長』ってのは、大変だな。お姫様のわがままにぶん回されてよ。俺はムリだわ」
「! ・・・・・・お気づきでしたか」
ハッ、と息を飲んだ後、デヴィッドは、態度を改め、恭しく礼をした。
「ベアトリスは、デイウォーカーだからな。『ブラドアート』家としては、保護者もなしに放置はせんだろ」
「保護者とは失敬な。我はもう大人である」
むん、とベアトリスは胸を張って答えた。
「ご存じだったのですか。お嬢様の出自については」
「『デイウォーカー』が出るような血筋は、帝国内じゃごくわずかだからなあ。半分はカマかけだ」
「おっと。これはやられましたな」
ははは、とデヴィッドは笑う。
「ブラドアート?」
「ブレアは知らんか。・・・・・・帝国には、『十大公家』ってのがあんだよ。簡単に言うと、帝国内の有力種族のまとめ役みたいな家だ」
「まあ、歴史の長いだけの、かび臭い家柄だ」
ベアトリスはそう嘯くが、帝国内にあっては、下手な爵位持ちの貴族なんかより、ずっと『怖い』相手である。
「そんなことより、だ。『百識』」
「・・・・・・なあ、ベアトリス。その二つ名呼びやめてくれん? 自分で名乗ってるわけでもないし、正直落ち着かんのよ」
「む? では、ルディランズ」
「なんだ?」
「さっきから使っている魔術、これなんだ?」
「・・・・・・・・・・・・見えるのか?」
「うむ。なんていうか、ベールみたいできれいだな」
「そうか。見えるのか・・・・・・」
眼帯をしていない右目をきらきらと輝かせるベアトリスに、はあ、とルディランズは肩を落としてため息を吐く。
「む?」
「密度下げるかなあ・・・・・・。でもそれやると、見逃しが増えるし・・・・・・。むう」
「おいこらルディランズ。説明しろ」
「む。別に大したもんじゃない。ただの感知用の魔術だ」
「感知用? ルディランズ、魔眼があるだろう?」
「俺は、自分の魔眼で取れる情報をそこまで信用してない」
「む?」
ルディランズの『魔眼』は、魂現由来だ。
だから、ルディランズが見たいものはよく見えるが、興味のないことはあまり見えないことがある。
「何より、どんなことでも手段が一つってのは好きじゃなくてね」
複数の手段を用意しておくのは、冒険者の基本だろ、とルディランズは軽く笑う。
「なるほど。しかし、ち密な魔術だな。・・・・・・教えてくれんか?」
「・・・・・・んー。だったらベアトリス。お前、ウチ来るか?」
「む?」
「仲間なら、教えてやれることもある」
「ふむ」
「てか、前からジェシカが誘ってたろ。いい機会だから、ウチ入れよ」
「・・・・・・いいのか?」
「誘ってんのはこっちだよ」
「ふふ。そうかそうか」
ふふふ、とベアトリスは嬉しそうに笑っている。
「ならば、お邪魔するとしよう!」
「そうかい。じゃあ、そういうことでジェシカに伝えとくわ」
「うむ。期待しているぞ! ルディランズ」
「? まあ、こっちも期待している」
そう言って、分かれ道で二人は別れた。
*****
「ふっふっふ。デヴィッド。聞いたな?」
ベアトリスが不敵に笑う。
それに、デヴィッドは恭しく礼をした。
「は。確実に、あれは招待でした」
「うむ。家に帰ろか。で、帰ったら手紙書かんと」
「最速で送れる手配をしておきます」
「ええね。頼んだよ?」
ふっふっふ、とベアトリスは笑う。
「やっぱ、ルディランズも酔ってたんかね? ウチが『吸血鬼』やのに、ウチ来るか、やなんて」
ふっふっふ、と笑いながら、くるくるとベアトリスは回るように踊る。
「いやあ、楽しみやあねえ」
その赤い目が、怪しく輝いていた。
・十大公家
帝国の中にいる有力な人種をまとめる十の家のこと。
帝国の公な役職とは無関係ではあるが、一つの有力な種族をまとめている、ということから、巨大な影響力がある。
帝国は、種族間区別が少ない多種族国家だが、それでも人種による生活習慣の違いなどから、衝突が発生することはよくある。
それらの問題を回避しようとすると、同じ人種でまとまるのが一番いい。
同じ人種でまとまると、そこには確実に十大公家の影響力が発生する。
ブラドアート家は、帝国内に在住している魄猟種のまとめ役。その当主となれば、まさしく統領であり、種族の王とも言える。
他の公家もまた、それぞれの種族に対して、厳然とした影響力を持っている。
少なくとも、爵位持ちの貴族などより、よほどに気を使わないといけない相手。
------------------------------------------------------------------
評価などいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




