アガットの逆鱗
「そもそもだ。お前たちが二人そろって酒盛りしているというのに、そのアガットはどこへ行ったんだ?」
ジャン=ルイは、自らの酒杯を呷り、ルディランズとジェシカを見て、首を傾げた。
「だってねえ・・・・・・」
「そりゃなあ・・・・・・」
二人は顔を見合わせ、同時に応えた。
「「今頃は、かわいい彼女としっぽりやってんじゃない?」
それを聞いて、ジャン=ルイは、ほう、と感心する。
「あの男、いかつい顔して、やることはやっているのだな」
「俺らも知らん間に彼女作っててびっくりした」
「ある日突然見知らぬ女性を恋人だ、と紹介されたときの衝撃ときたら」
「・・・・・・・・・・・・なんというか、お前たちの関係性はよくわからんなあ」
ジェイソンが、しみじみとした口調でつぶやく。
三人とジェイソンは、パーティー結成当時どころか、冒険者としてのデビュー時からの付き合いになる。
それこそ、新人だった三人の指導を担当したのは、ジェイソンだったのだから。
そんなジェイソンからして、三人の関係性、というのは不思議に映るのだろう。
「アガットの彼女は、かわいいんだぞ」
「そうよ? 冒険者でもない普通の子だもの。・・・・・・よくアガットに話しかけようと思ったわよね。あの子」
「ああ、それな。なんでも、チンピラに絡まれてるところを助けたらしいぞ?」
「ベタねー」
「アガットらしい」
「それはそうね」
「で? 貴様らには、そういう相手はいないのか?」
ははは、と二人で笑い合っているが、そこにジャン=ルイがにやっとした顔で茶々を入れる。
それに対し、二人は顔を見合わせてから、肩をすくめた。
「別に困ってないからなあ」
「そうよねえ? アガットみたいに、相性いいのと会えるならともかく」
「お前ら二人は?」
「「こいつと? それだけはない」」
二人で期せず、言葉が合う。
とはいえ、特に嫌そうな雰囲気もない。
それはともかくとして、
「まあ、お前たちの関係は、よくわからんことが分かった。・・・・・・で? 話の続きだ」
「ん?」
「アガットがバーサーカーになったとかなんとか」
「ああ、その話ね」
ふむ、とルディランズは考える。
「そもそも、巨人種ってのは、バーサーカーになりやすいんだよな」
「ほう?」
「竜なんかは、逆鱗もあるし怒りやすいイメージあるけど、実際は長続きしないしね」
「大概の種族がそうだ。怒って、種族特性が発揮される例は珍しかないが、その怒りが長続きすることはまずない。発揮された力がでかいならなおな」
それだけのエネルギーは、怒りだけでは賄えないのだ。
ただ、
「『巨人の怒り』ってのは、そのまま自然現象だ。嵐だったり地震だったり、と様々ではあるが、基本的に巨人の怒りは自然に引くことはない。なぜなら、自然現象として荒れた結果、その荒れた自然現象に引っ張られて巨人が怒り、その怒りに呼応して自然が荒れってな具合で、ループする」
だから、『巨人の怒り』は、外部から何か手を入れてなだめない限り、ほぼ半永久的に続く。
これは、巨人族の血を継ぐ、巨人種にも受け継がれている特徴であり、
「巨人種の連中ってのは、そうそう怒ることはないんだが、一遍怒ると長いし、仮にそれで種族特性発揮して暴れたりした日には、まあ、ひどいことになるな」
怒りによる種族特性の開花は、場合によっては、血の元である『力ある隣人たち』の存在に近づくようにもなる。
力の強い巨人種が怒って、荒れ狂う嵐になった挙句、そのまま消えてしまった逸話なども、世界には存在する。
「アガットも例にもれずってなもんで」
「何をやらかした?」
「別に俺たちがやらかしたわけじゃねえよ・・・・・・」
「・・・・・・ああ、ひょっとして、あの件か」
にやにやとしたジャン=ルイの問いかけに、ルディランズは憮然とした顔をした。
その顔を見て、ジェイソンは思い当たることがあったのか、ぽん、と手を打った。
「ん? ジェイソンも知っているのか?」
「わしも、何が起こったかは知らんよ。ただ、一時、三人が都市を離れて、どこぞの異界が崩壊した事件があったことを思い出した」
「ああ、それそれ。たぶんそれ。アガットが暴走入っちゃったせいで、『サイサリスの花宮』の異界を崩壊させちゃってさあ・・・・・・」
「あの事件、お前たちのせいだったのか」
「重ねて言うが、俺らのせいじゃないからね?」
竜殺しを成し遂げ、バルガハルら、ベテランのトリオを取り込んで六人パーティーになり、報酬で新調した装備の慣らしなど、リハビリ目的で異界に挑んだのだ。
その場所としたのが、アビロア近郊の『サイサリスの花宮』。
たまに存在する、安定しており、かつ有用であるがゆえに、異界のまま存続させておくことが決まった異界だった。
こういう異界は、異界核を見つけても、それを持ち出したり、破壊したりして、異界を破壊することは禁止されている。
「何があったんだ?」
「大したことじゃないんだが、竜殺し終わらせて、しばらく休みにしたときに、アガットは件の彼女に出会ったらしくてな?」
「浮かれてたわねえ」
「確かに、今思い返すと、アガットらしくなく浮かれてたな」
それで、
「なんか、異界に挑むって時に、お守りみたいなものをもらっててな」
「でも、それが異界の主の目に止まって、まあ、平たく言うと、盗られちゃって」
「おや?」
「で、それだけならまだよかったんだが、その主、そのお守りを壊しちゃってなあ」
「それを見たアガットが、まあキレて」
放っておいたら、異界の主を殺しかねなかったため、
「みんなで止めることになったんだけど、まあ、力すごくて」
「ほう?」
興味を惹かれた、とジャン=ルイが身を乗り出す。
「守りの硬さは認めるが、力もか」
「くっそ強かった」
「ルディの魔術全部耐えられたもんね」
「殺さねえように手加減したつもりで、全然そんな手加減要らなかったとか、笑い話にもならん」
「私もそうよ。ルディの魔術が効かないから、竜殺しの剣でぶっ叩いたら、まさか逆に壊されるとか・・・・・・」
「俺も、魔術を耐えきられて距離詰められた挙句、殴られるのを杖で防いで折られたしな」
二人で、はあ、とため息を吐く。
「結局、異界の主殺されちゃって、異界終わっちゃったし」
「それで、領主に呼び出し食らって、唯一無事だったアガットの『竜殺し』の武器を賠償に差し出すことになったしなあ」
「踏んだり蹴ったり」
「まさしく」
うんうん、とうなづき合う二人に、ジャン=ルイは、腹を抱えて笑いをこらえている。
「なるほど。フェルナンデス卿の屋敷に飾られている竜殺しの槌。あれは、アガットのものか」
二人は、苦々しい顔でうなづくのであった。
・巨人の怒り
巨人族が怒る場合、周辺環境の自然が極端に荒れる。
嵐や地震、津波、あるいは干ばつなども発生しうる。
さらに、その自然環境に込められた怒りは、巨人全体に波及するため、怒りの当人も含めて、内部にるすべての巨人が、怒りに支配される。
結果、その自然の荒れは、それらの怒りによってさらに持続。持続した自然の荒れによって、内部の巨人の怒りも持続、というループに陥り、巨人の怒りは半永久的に続くようになる。
鎮めるためには、外部から誰かがなだめることが必要になる。
少なくとも、気のすむまで怒ればそれで済むというものではない。
巨人種にもこの性質は受け継がれており、巨人種の怒りは基本的にすごく長い上に、原因を排除しても収まらないことが多い。
暴れるだけ暴れた後、力を使い果たして気絶すると収まるが、その間は、周囲の被害などまったく気にせずに暴れることから、巨人種の怒りは、バーサーク、狂化、などと呼ばれる。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




