世界の終わり
宴は、盛り上がっている。
当初こそ、魔王討伐の英雄を称える、という名目で、何度となく乾杯し、称賛の歓声もあった。
だがそれも、夜が更けるに従い、ただの乱痴気騒ぎへと変わっていく。
おそらく、明日の朝には、都市全体が二日酔いにでもなっているのではないか、とそういうテンションだ。
最初こそ、ジャン=ルイが高いところに勇者の席を用意していた。
だが今は、なぜかソウタがそこに座り、その席ごと神輿のように運ばれて、あちらこちらと移動している。
「・・・・・・で?」
そんな騒ぎを、少し遠くに聞きながら、ジャン=ルイとルディランズ、そしてジェイソンは同じ卓について、酒を酌み交わしていた。
同じ部屋では、ジェシカがブレアやベアトリスに絡んでいる。
そこに、ジャン=ルイの腹心とも右腕ともいえる、ナタリー・エラヌーニが一緒に絡まれている。
その様子を横目にしつつも、和やかな雰囲気であることに満足しながら、ジャン=ルイは杯を傾けた。
「魔王は、どうだった?」
話題を振るのは、ジャン=ルイの方だ。
それに対して、ルディランズとジェイソンそれぞれで返答をしている。
「魔狼の王。『神喰』のフェンリル。・・・・・・正直、魔王化してなくても厄介な相手だな」
『神喰』は、単純に神術を弱体化する、というだけではない。
そもそも、『神喰』の対象である神力は、すべての始まりの力だ。
使い方次第では、ありとあらゆる戦法の起こりをつぶす、というやり方で、相手の戦力を無効化する、ということもあり得る。
「今回のフェンリルは、若い部類だな。あれで、もっと老練なやつだったら、・・・・・・正直、アビロアまで戦争に巻き込まれてたかもしれん」
「『百識』のルディランズがそう言うなら、その見立ては正しいのだろうな」
「わしは、直には、そのフェンリルを見ておらんからな。どうとも言えん」
ジェイソンは、そう言いながらも、ルディランズとジャン=ルイの二人を見る。
「それより、二人の見立てを聞いておきたい」
「お? 『決戦』が聞きたいこととは。なんだ一体?」
「茶化すな『金鎧』。・・・・・・帰り際に、お前がつぶしたアレのことだ」
少し、空気が重くなった気がした。
だが、ルディランズは気にせず杯に酒を注ぐ。
「いたからな。『終末』」
「いたか」
「いたねえ。もしかすると、今回の魔王騒動、アレの仕業かもしれん」
「・・・・・・だとすると、アビロアはやはり危険か」
「今回、ジャン=ルイが吹っ飛ばしたからな。ある程度は大丈夫だろう」
ルディランズは、のんきにそういった。
凱旋の際に、パフォーマンスの一種として、ジャン=ルイが放った一閃。
それにより消滅した存在について、だ。
「・・・・・・ああいうのは、どこにでも湧くからな。正直、気にしすぎても仕方がないさ。ジェイソンさん」
「そうかもしれんが」
*****
「あの三人は、何の話をしておるのだ?」
む、と顔をしかめ、酒のつまみの乾物をかじかじとしながら、ベアトリスがうめく。
「あら。気になるかしら?」
ジェシカは、そのベアトリスの様子をにやにや見ている。
ブレアの方は、燻製肉をかじかじしながら、むー、とうなっている。
「まあ、世界の敵の話よね」
ふふ、とジェシカは笑う。
それととも、自分の杯が空いていることに気づき、
「あら、ありがと」
そこにすっと酒を注いでくれたナタリーに礼を言う。
「いえ。どういたしまして」
ナタリーは、と言えばちらちらとジャン=ルイの方を確認しながらも、ジェシカ、ブレア、ベアトリスの三人のもてなしに終始していた。
「世界の敵、というのは?」
「ほら、なんだっけ?」
んーあははー、と酔っているジェシカが笑う。
それに対して、アルコールの入っていない飲料を飲んでいるベアトリスとブレアは、む、とうめく。
「適当にごまかす気か?」
「・・・・・・ご主人様」
むう、と不機嫌になるベアトリスと、同じ部屋とはいえ、離れたところで酒を飲んでいる三人、正確にはルディランズを見て、不安そう、というか、寂しそうな顔をするブレア。
その二人を抱きしめて、ジェシカは笑う。
「ルディランズー! せつめー!!」
「あいつは、酔っぱらうとほんと厄介だな」
まったく、と肩をすくめながらも、ルディランズは苦笑をうかべつつ説明した。
「異界と同じように、『力ある隣人たち』の世界との摩擦で発生するもの。・・・・・・世界を終わらせる、終末存在。そういうのがいるのさ」
ルディランズは、そう語る。
「『スキャンダル』」
世界との摩擦によって発生するそれは、ただ世界の崩壊を狙って動く。
「欲求も、理屈もない。ただ本能として、世界の終わりを狙う存在。そういうのがいる。この世界に生きる、すべての者の敵だな」
どういう形で生まれるのかはともかく、結局は、そうして生まれてしまうもの。
ただ、倒すしかない存在。
それだ。
「倒せない存在じゃないが、異界と同じく、発生を防ぐことのできない。見つけた端から倒すしかない。そういうものだと、覚えておけ」
ルディランズは、そう語る。
・スキャンダル
世界の終わりを狙う存在。
ありとあらゆる方法で、世界の崩壊を望む。
小さいものは、共同体の崩壊。大きいものは、文字どおりに世界の崩壊。
とにかく、すべての終わりを望む存在。
魔族の担う属性である『終焉』とは違い、その終わりには続きがない。
ただ、世界の崩壊と、すべての終わりを狙う存在。
世界に生きる、すべての存在の敵としかなりえない存在。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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