凱旋と金の鎧
魔王討伐隊が進む先に、アビロアの都市壁が見えてきた。
ぐるりと都市周囲を囲む頑丈な壁だ。
壁の四方には、巨大な門がある。
巨大な門は、ほぼ常時開いており、閉じるのは、一年に一度の定期メンテナンス以外では、大規模なモンスターの群れなどがアビロアに攻め寄せるときくらいである。
「見えて来たな」
先頭を行くジェイソンは、アビロアの都市壁が見えてきたことに、安堵の息を吐く。
道中の襲撃は散発的にあったが、『虹の飛島』のメンバーを中心として、冒険者で対応できる範囲だった。
「いい若手を育てている」
中核の三人に加え、主力であろうバルガハル、リナス、ミリディアの三人も馬車の中で待機していたが、ビアンがメンバーの指揮を執っていた。
危なっかしい面もあるが、十分に及第点だろう。
ジェイソンは、あれがクランをなすための四番目のパーティーのリーダー、と聞いて、納得の思いもあった。
「さて」
「ついたか」
「ルディランズ」
見えたところで、一時停止を指示したジェイソンのそばに、ルディランズが現れた。
「どういう状況になっているか、見えるか?」
魔王討伐隊は、それなりに大所帯である。
今の時間は、昼時。
都市の門は、入市を目的とした商人や旅人たちがいるだろうから、こういった大所帯が門を通るときは、代表者が先んじんて手続きをしておいて、スムーズに進むようにしておく必要がある。
この場合、その処理をするのはジェイソンの役割だろう。
だから、ジェイソンは一行を止めたわけだが。
「・・・・・・いや、手続きはいらなさそうだ」
「どういうことだ?」
「あの目立ちたがりにとって、自分のいない間に魔王討伐なんてイベントがあったのは、悔しいことなんだろう」
「・・・・・・ああ」
なるほど、とジェイソンは頷く。
「そういう時、他のところで、あいつは目立とうとするからな。根回しは完璧だろう。全員で進んでいい」
「見えたのか?」
「・・・・・・もう少し進めば、あんたも見えるさ。いやでも」
「・・・・・・ああ、まあ」
目をまぶしそうに押さえているルディランズを見て、ジェイソンはああ、と苦笑を浮かべつつうなづいた。
そして、一行に前進の指示を出すのだった。
*****
「よくぞ帰った!!!」
どーん、という効果音でも背負ったような様相で、その男はそこに立っていた。
金色である。
金色の全身鎧に身を包んだ、金髪の男だ。
しっかりとした体躯と、見栄えのする精悍な顔立ちをした、とても目立つ男だ。
「余の不在の間、アビロアを守った英雄たちよ! 余は、汝らの帰還を歓迎する!!」
はっはっは、と大声を上げて笑っている。
ジャン=ルイ・アルベルト・マルティネス。
アビロアを代表する、一等級冒険者であり、おそらくは、アビロアの最高戦力。
『金鎧』のジャン=ルイと呼ばれる、名実ともに最高位の冒険者だ。
「おお! ジェイソン・ブラックモーア。それに、ルディランズ・マラハイト。汝らが先導か!」
しゃりしゃりと涼やかな音を立てながら、全身鎧を動かして、ジャン=ルイは二人に歩み寄ってくる。
「目立ちたがり屋め」
「ふ。そう言うなルディランズよ。魔王討伐などという一大行事に参加できなかったことは口惜しいが、それで汝らに嫉妬するほど、余の器は小さくないぞ」
一行を迎え入れるジャン=ルイの姿は、周りを囲む市民たちの注目の中にある。
その中で、ジャン=ルイの言葉はよく響く。
「汝らの成した偉業によって、アビロアの都市は存亡の危機より救われた! この都市に暮らす一人の人間として、余は汝らに感謝をしている!」
「・・・・・・ならば、その感謝は、皆に」
「もちろんだとも」
そして、頷いたジャン=ルイに、ルディランズはそっと近づいた。
「まあ、あんたがいるなら、俺が力を溜めておく必要もなかったな」
「ほう?」
「祝儀代わりによ。派手に頼む」
「ふ。場の盛り上げ方、というものをわかっているな!」
ルディランズの肩を叩き、ジャン=ルイは前へ出る。
そして、腰の剣を抜き放った。
その剣は宝物であった。
優れた剣であるのはもちろんだが、それ以上にごてごてと飾りがついてる。
金で作られた拵えに、大振りの宝石がいくつもついている。
芸術的にはどうかと思うが、使われている貴金属だけで一財産を築けそうな剣である。
「では、祝砲と行こうか」
その剣を、ジャン=ルイは、大きく振りかぶる。
剣に光が集まり、
「祝砲代わりだ。光の波に消えるがよい!」
振り下ろされる。
剣に溜まった光が、まるで柱のように斜めに中空を貫いた。
「・・・・・・よし」
ルディランズの目が、その光の柱の中に、見えない『何か』が飲み込まれて消滅したのを確認する。
「お疲れさん」
「何を言うか! 疲れているのは汝らだろう!」
「というか、今の一撃、いくらだ?」
「気にすることはない! はした金だ」
今の攻撃は、ひたすらに派手である。
その代償として、ひびが入り、粉々に砕け散って原型をなくした剣を惜しむこともなく、ジャン=ルイは笑う。
「余の私財で、宴の準備を進めている。まずは少し休め。夜になったら、勝利の宴だ! せいぜい楽しむがよい!!」
ば、と両腕を広げ、さらに叫ぶ。
「もちろん! 市民の皆も楽しめるようにした! 全員、食って飲んで騒ぐがよい! 勝者を称えよ!!」
そして、門の周囲で歓声が上がった。
・金鎧
『金鎧』のジャン=ルイの名の由来となった魂現
金色の鎧ではなく、カネの鎧。
魂現発動中、攻撃を受けるとそのダメージを資産の減少という形で代替する。
さらには、資産を消費することで、攻撃力を極大に増加が可能。
使えば使うほどにカネを失う能力である。
その喪失は、彼の資産の喪失と同期している。
例えば、攻撃を受けると、彼の持つ船便などが沈みすべてが海の底に沈んで失われる、などの形で発現する。
その資産の消費量は、受けるダメージで変化。
一応、ジャン=ルイに近いところにある資産から消費されるため、ジャン=ルイは普段から自分の周囲をできるだけ高価なもので固めている。そのため、ごてごてと派手に飾り立てるために、全体的な趣味が悪くなってしまうことだけは、悩みの種である。
なお、現状の彼は、人に金を貸し、その借用書を腕に巻き付けることで、資産の消費を借用書を優先するようにして、使いこなしている。
もともとは彼の権力の及ぶ範囲で、彼の持ち物などをささげることを宣誓することで、攻撃や防御の代償とするものだったが、現在は呪いにより常時発動するようになっている。
故に、本人は帝国保有の国宝の一つである、金色の鎧の聖具を使い、呪いを軽減している。
その能力に頼らなくとも強いが、能力を使うと卑怯としか言いようのない強さを発揮する。
ちなみに、ジャン=ルイは王権領域だけではなく、国際的に展開する大商会の会頭であり、その資産総額は、世界最大国家である帝国の国家予算すら凌駕する、と言われている。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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