帰還中の馬車の中
聖遣隊を中心とした魔王討伐隊は、後続の『紅炎遊撃隊』のメンバーに後始末を譲り、アビロアへの帰途についた。
魔王の討伐は、うまくいった。
一行は、凱旋を行うのだ。
*****
『虹の飛島』の割り当ての馬車の中の雰囲気は、気怠い。
ルディランズは、まだ残っている『破魔』の影響の除去のため、瞑想中。
ブレアは、そのルディランズの膝を枕に眠っている。
ジェシカは、竜気を使用した影響で体力を消耗しており、アガットは受けた傷の回復のため、眠りについている。
他のメンバーは、帰りの警護のために馬車の外に出ているのと、別の馬車に乗り込んでいる。
この馬車の中にいるのは、三人と、ブレアとベアトリスである。
ちなみに、ベアトリスは、他の馬車に自パーティーのメンバーが乗っているが、出発の直前にするっと乗り込んできた。
「なあなあ。百識の」
「・・・・・・なんだ?」
瞑っていた目を開き、ルディランズはベアトリスへと目をやる。
自分の杖を磨いていたベアトリスは、首を傾げながら、ルディランズへと問いかけた。
「あの、最後の大技よ。あれは、どういう魔術なのだ?」
「・・・・・・人の切り札を、あっさりと聞くね。お前も」
「ふむ。そうは言っても、貴様とて、我の魔術を好き勝手操ってくれたわけだし。・・・・・・魔術の式も詠唱も、盗み見しておいて、何もなしか? ん?」
「それは盗まれるお前が悪い。・・・・・・まあ、隠すようなもんでもないが」
ふむ、とルディランズは顎に手を当てて考える。
「面倒だから今度でいいか?」
「我は今暇ぞ?」
「暇ぞ、じゃねえよ。寝てろ。お前だって、消耗ねえわけじゃねえだろうが」
「ならば血を寄越すがよい。さすれば我はすぐさま全回復だ」
「・・・・・・狙いはそっちかよ」
ルディランズは、やれやれ、とため息を吐く。
「今血を吸わせるのはなし。俺の回復も、自分の種族特性引き出している最中なんでな。血を抜かれると困る」
「む。そうか」
ルディランズとしては、回復は急いでおきたい理由がある。
ジェシカとアガットが、今回復のために睡眠をとっているのも、似たような理由だ。
「帰ったら、宴だな。凱旋だ」
「魔王討伐の宴は、教会が派手に金出すからな。アビロア全体が祭りになるだろうよ」
「よいよい! 我の武勇伝がまた一つ、というわけだ!」
はーはっはっは、と笑うベアトリスを、やかましい、とたしなめる。
「と、それは良いから、魔術の話をせよ」
「しつこいね?」
「我の『眼』は魔眼ぞ。なれど、あの魔術はほとんど見えなかった。・・・・・・初めてのことだ」
その言葉を聞くに、ルディランズは顔をしかめる。
才能の差、というものを感じて、だ。
ルディランズの『魔眼』は、あくまでも魂現の産物である。
『力ある隣人たち』の血による力として発動する天然モノの魔眼と異なり、ルディランズの魂を由来とする魂現の『魔眼』は、性能がピーキーだ。
魔術師は、魔術の詠唱に隠ぺいやだましを入れることで、詠唱の内容を隠すのが普通だが、ルディランズの『魔眼』は、その隠ぺいの類はすべて見抜いてしまう。
一方で、ルディランズの『魔眼』が魔術を見抜くためには、その魔術の内容を推察するだけの知識が必要だ。
知識がなくても魔術を見抜くようなベアトリスの魔眼は、ルディランズとしては、破格の性能である。
ぶっちゃけほしい。
「うらやましいもんだ」
「ん?」
「いや・・・・・・」
思わず素直に漏れた内心をごまかし、ルディランズはため息を吐いた。
ベアトリスは、一魔術師としての力量も、『暗黒の反旗』というパーティーの実力を見ても、今後の付き合いを維持したい相手だ。
それに、魔術を一つ開示するくらいは、悪くないだろう。
「まあ、とは言っても、未完成魔術についてしゃべるのもなあ・・・・・・」
「未完成? あの威力でか?」
「ああ。あの魔術は、指定した領域内の情報熱量を収束、圧縮した上で、それに質量を持たせてぶつけるって代物だからな」
「・・・・・・・・・・・・なんかとんでもないことを言っていないか?」
「実質、トンデモ魔術だよ。俺も、これの理論を解析できた時は、作ったやつの正気を疑った」
それを、実践レベルまで持っていっているところが、一番おかしいとルディランズは思う。
「そんな魔術を、一体だれが・・・・・・?」
「あれを作ったのは、当時世界最優と言われていた魔術師だよ。本人は、星界魔術、と命名したらしいが」
「星界・・・・・・」
ルディランズにとっては、瞼を閉じれば脳裏に浮かぶ、鮮烈な光景ではある。
とはいえ、
「本式はな、小規模な異界のダミーみたいなのを作って、それをぶつける。・・・・・・俺は、そっちができないから、自分の領域内を『いろいろ』やって、それを自分の手元に収束させてって、かなり手順が必要だ。特に、情報熱量を必要とする分、『場を暖める』っていう段取りが必要でな。タメが長い」
「面倒な魔術だな」
「俺の『魔眼』で場を俯瞰できるから、どうにか使えてる魔術だな。正直、使い勝手っていう面でいうなら、もっと優れた魔術はある」
ただ、あの魔術には、一点優れた特性がある。
「防御ができない。ありとあらゆる手段の防御を無効化するあれは、ああいう怪物を相手にするには、便利でな」
ふ、とルディランズは笑みを浮かべる。
「当たれば、必ず倒せる。当てるための工夫は必要だが」
「強い魔術だな」
「あんまり、好きくないけどな」
「なぜ?」
問いかけられ、ルディランズは、目を瞑って、黙り込む。
「・・・・・・ま、好みじゃないってね」
おどけて、ルディランズは、そう笑った。
・世界最優の魔術師
名を隠していたらしく、その名は伝わってはいない。
ただ、その足跡や功績は、魔術史の中にいくつも発見できる。
新しい魔術分野の開拓や、魔術の詠唱方法の体系化、古代魔術の解読など、その功績は枚挙にいとまがない。
それだけに、個人ではなく集団ではないか、という説もあるが、本人を知る者達は、一様に個人だと答える。
十五年前に、当時の世界最高の魔術師と決闘を行い、死亡している。
なお、世界最高の魔術師は、その決闘の後、世界最強の魔術師と呼ばれるようになる。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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