決着(勇者)
力の塊が森を貫き、魔王フェンリルが半身をえぐられて傾く。
それを見て、ベイナスは聖剣を振りかぶり、駆け出していた。
そのあとに続いた周辺一帯を引き込む力の流れも、ベイナスは聖剣の加護を使って切り抜ける。
「第三聖鍵『アロベル』」
聖剣から引き出せる、三つ目の能力。
これで、ベイナスが引き出せる能力は最後にして、現状の最強だ。
全身から聖剣から引き出した力を纏い、さらにユリア、ノノの二人から施された神気のバフを自分のうちに取り込んでパワーに変える。
そのまま、聖剣『ジャンクリーシュ』へと力を流しこむと、その刃が煌々とした光を発し、巨大化する。
「おおおおおおおおおおぉぉっ!!」
気合を込めて、振り下ろす。
「終わりだ!」
そして、聖剣の刃が、魔王の首を切り落とした。
*****
ふう、と息を吐いて、剣に着いた血を払い、鞘に納める。
「おっしゃ! やったでー!!」
ゼットが叫んでいる。
ベイナスは、残っていた皆の方を振り返った。
聖遣隊は、全員無事。
巡礼騎士隊の面々も、負傷は多くあれど、全員生きている。
冒険者チームも、全員生き延びている。
『虹の飛島』のメンバーについても、言うまでもない。
それぞれ、残党の処理と、負傷者の回復に当たっている。
それらから少し離れたところ。
ルディランズ・マラハイトは、そこでブレア、ベアトリスに挟まれていた。
二人は、ルディランズを挟んで座っており、ルディランズは二人に挟まれて、何かしらの詠唱を行っている。
「何をしているんだ?」
ベイナスが、ルディランズの方を見ながら口に出すと、
「後始末」
思いのほか近くから声が返ってきた。
ジェシカが、剣をぬぐい、鞘に納め、体のあちこちからにじみ出る竜の気配を鎮めながら、こちらに歩いてくる。
「後始末、とは・・・・・・」
「ルディランズ、使い魔にしているブレアちゃんはともかく、ベアトリスのお嬢ちゃんにも結構深いところまで経路をつないでたらしいから。いきなりぶった切ると、互いに悪影響出るらしいのよね」
魔術師が、互いに魔術の制御権を融通できるレベルでつながっていた。
そのつながりが深い分、下手に切ってしまうと、今後の魔術に影響が出ることがある。
それも、双方にだ。
だから、少しずつ、丁寧につながりを解除しなければならない、という。
「なんか、今回は、戦闘中に略式でつないじゃった部分が結構あるとかで、外すのも大変になってるらしいわ」
きちんとした手順を踏んでつなげていれば、解除は簡単になる。
逆に、簡単につないでしまったときは、解除が難しくなる。
そのあたりは、どちらで手間をかけるか、という話らしい。
ちなみに、ルディランズとブレアの間に結ばれている、使い魔契約を介したつながりの方は、きちんとした手順を踏んだもので、解除にもきちんとした手順を踏まなければならない、強固なものだ。
だからこそ、適当につないだベアトリスとのつながりが、双方に影響を及ぼしてしまっているが。
「ふーん。結局、これが魔王か」
ジェシカは、首を落とされた巨大なフェンリルの死体を眺める。
「・・・・・・見るのは初めてかね」
「ええ。魔王は初めて。大きいのね。それに、死体からでも、厄介そうっていうのはわかるわ」
ふむ、とベイナスは頷く。
「今回は、君たちにはずいぶんと助けられた」
「その『君たち』っていうのは、アビロアの冒険者全体に言ってる? それとも、『虹の飛島』の私たち?」
「両方だ。『虹の飛島』の君たちは、特に、ということだよ」
には、と稚気を混ぜた笑みを浮かべるジェシカに、ベイナスは笑みを浮かべて素直な礼を言う。
「今回の規模は、教会の規定なら、勇者を数人派遣するところだ。それが、我々三番隊のみが派遣された。きっと、アビロアの冒険者がいれば、必要ない、ということを知っていたのだろう」
いや、とベイナスは首を振り、ルディランズを見る。
「彼がいるなら、大丈夫、ということか・・・・・・」
「どーかしらねー」
ふふ、と笑い、ジェシカは肩をすくめた。
ルディランズが評価されているのは事実だが、
「たぶん、ルディランズだけじゃなく、『金鎧』がアビロアを拠点にしているから、だと私は思うわ」
「『金鎧』、か」
話だけは聞いている。
この広い帝国で、最強の一角に数えられる一等級冒険者だ。
「ま、何はともあれ、死亡者なしで魔王討伐できているんだから、誇っていいんじゃない?」
「ああ、なるほど。確かに」
ベイナスは、納得ともに、安堵のため息を吐いた。
「仲間が一人も死ななかった。なるほど。誇っていい話だ」
ふ、とベイナスは晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
その笑みを見て、ジェシカも笑みを浮かべ、アガットの方へと向かう。
「・・・・・・大丈夫なの?」
心配そうに聞くのは、アガットがまとう鎧があちこちへこみ、傍目にはかなりの重体に見えるからだ。
だが、返答となるアガットは、軽く笑う。
「心配いらんさ。いつものことだ」
くく、とアガットが笑ったときだった。
どぐん、と空間がたわんだ。
「あら・・・・・・」
「異界が閉じるか」
「ルディランズの方へ行きましょ。外に出たとき、変に離されると困るし」
「そうだな」
それぞれの面々も、パーティー単位で集合している。
そして、異界が終わった。
・異界の終わり
多くの場合、異界核、と呼ばれる異界を生成しているコアは、異界で最も強い生物の中に宿っている。
この場合、そのボスモンスターを討伐すると、異界が消滅する。
異界が消滅する際は、異界の中にいる生物はすべて異界の外へとはじき出される。
樹木などの地形物は、生物でも外に出てこないが、ある程度の『力』を籠められると、そこらにある石でも外にはじき出される。
その際、はじき出される場所は、異界の中で近くにいる者同士で近くに寄る。
内部にモンスターが大量にいる状態でこれをやってしまうと、内部のモンスターが異界の消滅とともに外にあふれ、近隣の集落などを襲う事件が発生するため、推奨されない。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




