決着
ルディランズは、魔術狂い、と知り合いによく評される。
魔術の研究に寝食を忘れる、などというのは日常茶飯事。
新しい魔術の知見を得るために、金と労力を費やすことを全く苦にしない。
そのため、駆け出しのころなどは、ジェシカやアガットに要らない苦労をかけ、非常に迷惑をかけている。
そこそこ名が売れ出したころ、魔術のためならいくらでも金を出す、という条件で来た引き抜きに応じた挙句、引き抜き先を魔術のための費用で破産させて出戻った逸話は、アビロアの冒険者協会では未だ語り継がれている。
それを面白がって、同じ条件で引き抜こうとした者もいたが、二度も同じことがあってたまるか、と協会支部長ライアンが直接出張って止めたことも含めて、笑い話にしたい話として有名だ。
ともあれ、ルディランズは、そういうレベルの魔術狂いである。
それは、ルディランズ自身も、自覚していることだ。
「・・・・・・・・・・・・」
ルディランズは、集中している。
その集中力に、ベアトリスは戦慄していた。
ベアトリスは今、ルディランズが行っていた影による拘束の魔術の制御を引き継いでいる。
もともと、ベアトリスは影と闇を操る魔術を得意としている。
だからこそ、その制御を任されて、驚嘆していた。
その魔術は、ベアトリスの扱うものに比べて、精度が極めて高い魔術になっている。
ベアトリスの魔術は、デイウォーカーである体質と、ベアトリス個人の資質と、その二つを合わせた、まさしく天賦の才によって制御されていたものだ。
正直な話、影や闇の魔術でなければ、ベアトリスの魔術の腕は、せいぜいで二流である。
もちろん、努力をしていないわけではない。
唯一の得意な魔術だからこそ、ベアトリスはその魔術に関してだけは、とにかく磨いてきている。
だからこそ誰よりもわかる。
ルディランズの魔術師としての技量が。
一芸特化で鍛えてきたベアトリスの魔術を、同じ分野で凌駕しているのだから。
何よりも、この状況だ。
多重詠唱を好んで使うルディランズは、とても器用な魔術師だ。
そのルディランズは、影での拘束を行いながら、仲間たちへのバフも同時に行っていた。
今、ベアトリスは、影の魔術の制御だけで、手一杯だというのに。
「くぅ・・・・・・!」
ベアトリスは、制御の難しさに呻く。
だが、それ以上に、その目は期待の輝きに満ちていた。
これだけの魔術が使えるルディランズが、その一部を他に任せてまで集中し、何かの魔術を構築している。
その魔術はきっと、ベアトリスが今までに見たことのない、最高のものであると確信があった。
*****
ルディランズは、集中する。
ジェシカの竜気を利用し、自分の領域として広げた魔術領域。
これが広ければ広いほど、ルディランズの魔術の威力は上がる。
「・・・・・・はー」
息を吐いた。
そして、魔術を展開する。
その魔術は、ルディランズにとって思い出深いものだ。
ルディランズが、魔術に魅せられた契機となった魔術。
「・・・・・・領域圧縮」
両腕を横に広げる。
そして、胸の前へ、両手を持ってくる。
右手を上に、左手を下に。
手のひらで、球体を包み持つような仕草だ。
「・・・・・・構築確認」
薄く、目を開ける。
手で挟んだ間に、包み持たれるように、目には見えない、だが確かに存在する真球が存在する。
「・・・・・・反転解放」
持った真球を裏返すように、右手を下に、左手を上に回す。
そして、そっと、その真球を押し出した。
その真球は、魔術である。
その真球は、世界で最も重い。
その真球は、世界で最も硬い。
その真球は、世界である。
『世界最強』の魔術師も、『世界最古』の魔術師も、『世界最巧』の魔術師も、理論は知りつつも再現できなかった、『世界最優』と呼ばれた魔術師の、最大魔術。
「―界重破潰―」
世界から、光と音と風が消えた。
*****
魔術の結果は、一瞬だった。
そ、と魔王フェンリルに向かって、静かに押し出されたルディランズの掌中の真球は、まっすぐに飛んだ。
ルディランズの手元から放たれた直後、真球は膨張。
人一人くらいは飲み込めるサイズとなって、ゆっくりと進んでいく。
周りで見ている者達の目に、その速度は決して速いようには見えなかった。
むしろ、その真球の進む様は、誰の目にもきちんと映っていた。
だが、その真球がまっすぐに進み、視界の彼方へ消えるまで、誰も動くことはなかった。
まるで、時がとまっているかのように
そして、真球が視界の彼方へ消えたとき、止まった時が動き出す。
「!」
それは、まず押しのける動きだ。
真球が通り過ぎた後にあった何もかもが、円形に押しのけられ、押しつぶされた。
そのあとに残るのは、横倒しの円筒状の何もない空間だ。
そして、直後に、今度は周辺のすべてが、その何もない空間へと引きずり込まれる。
「ふん」
ルディランズは、素早く魔術を構築。
仲間たちだけは、影を伸ばしてつかみ取り、引き込まれる動きに巻き込まれないようにした。
だが、周囲にいた、魔王の配下は思い切り巻き込まれた。
押しのけられ、直後に引き寄せられた魔獣やモンスターたちは、その空間のねじれに巻き込まれて多大なダメージを負った。
それは、魔王も例外ではない。
「・・・・・・!」
真球は、魔王には直撃していない。
だが、魔王の傍らを通り抜けた真球の一撃は、魔王の右半分をえぐっていた。
本来なら、致命傷だ。
だが、魔王ともなると、まだ生きている。
そして、
「終わりだ!」
横から振り下ろされた聖剣が、魔王の首を切り落とす。
これで、魔王と勇者の戦いは、決着となった。
・世界最強、世界最古、世界最巧
世界最強の魔術師、オレアス・ブレックライズ。
とある森での決闘の末、同格だった魔術師を下して名実ともに世界最強となった魔術師
世界最古の魔術師、リュミエナリア・ファブリエス・ニーモル・メイ・ディハムバリエ。
エルフと呼ばれる種族の始祖。原型にして至高にして太古のエルフ
世界最巧の魔術師、エラード・バイシェル。
世界で最も巧みに魔術を操る、魔術を扱う、ということについては、無双の魔術師。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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