表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/197

決着直前

 敵の攻勢が激しくなった。

 森の隙間から、敵がにじみ出てくる。

 それは、魔王フェンリルの後ろの空間だ。


「・・・・・・んー」


 宙を蹴り、飛び回って、周辺を吹き飛ばす。

 ジェシカは、できるだけ広範囲を薙ぎ払うようにしながら、魔王を抑えるアガットのサポートに回っていた。

 アガットの周囲に雑魚を寄せないようにしながら、強そうなのを先手を取ってつぶしていく。


「ルディは・・・・・・」


 ルディランズの方を振り返ると、ルディランズの周囲を光の輪が取り囲んでいた。

 囲んでいるその輪の正体は、ブレアが走った後だ。

 燐光をまとうブレアが走ると、その尾が揺れた後が、光の線として残る。

 ほんの僅かな間に消えてしまう光だが、ブレアの速度が速いため、輪となるまでに残っているのだ。


 その輪に近づくて敵は、軒並み蹴りつぶされていた。


「あの動きって・・・・・・」


 ブレアの動きは、速い。

 その動きの中で振るわれるのは、獣人種特有の武術だ。


「ルグローム湖畔近郊の人狼種が使うやつだ」


 ジェシカは、へえ、と感嘆の声を上げる。

 獣人種が使う武術は、ジェシカ達が使う武術とは違う。

 獣人種特有の獣人武術は、化生術を使うことを前提して技が構成される。

 今、ブレアが使っているものがそれだ。


「真似できないものなあ。あれは」


 化生術は、人型と獣型を行き来する獣人種固有の術だ。

 獣人武術は、当然その特性を生かす技になる。


 二足歩行で立つブレアの喉笛へとかみつこうとする狼に、四足歩行の獣型へと瞬時に変化して、下を潜り抜ける。

 そこから前へと踏み出しながら、人型へと変形、頭上を抜ける狼の尾をつかんで地面へとたたきつけ、踏み潰す。

 腕先だけを獣に変えて、腕を敵へと突き立てれば、爪が敵を切り裂く。

 身体構造を人と獣の間で自在に変化させるブレアの動きは、どちらにも寄らずとても柔軟だ。

 しなやかな体躯は、最小限の動きで敵をかわし、最短の距離を進んで敵を貫く。


 獣人種特有の動きであり、ああいった武術が使えるからこそ、獣人種の冒険者は前衛になりやすい。


「ブレア。強いのねえ」


 冒険者業がうまくいかなくて奴隷落ちした、というだけに期待していなかったのだが、戦闘力があそこまで高いなら拾い物だろう。

 見つけてきたルディランズは、さすがの目利き、ということか。


 そして、ブレアに守られるルディランズの周囲では、影が生み出した手が、それぞれに手で印を結び、術の並行詠唱を実現している。


「ルディ。本気ね」


 影を使っているのは初めて見たが、自分の手以外のものを使って、詠唱を多重化する技法は、ルディランズがよくやる方法の一つだ。

 あんなことをするとその分だけ魔力消費が極端に重くなるため、他の魔術師はまずやらない。

 ルディランズがあれをやるのは、それだけ魔力へと変換可能な生命力が多いからだという。


 ただ、それにしても、多重化した詠唱で、それぞれに違う魔術を詠唱するとか、そういう器用なことを平然とやるのがルディランズである。

 普段でも、火や風を使って、似たようなことをやっている。

 何をやっているのか、はともかく、ルディランズの使う魔術が、周囲を掃討していっているのは間違いない。


「ルディ! あとどんだけ!?」

「三十秒」

「了解!」


 宙へと跳び上がる。

 そして、ジェシカは咆哮を上げる。

 竜気をより広く、より強く展開するための咆哮だ。


「アゲていくわ!!」



*****



 魔術師の戦闘法は、大きく分けると二種類になる。

 術者優位の領域を広げ、自分は有利で相手は不利、という状況を作り出すこと。

 そして、それらの領域に適応し、領域の影響を無視して、自分の性能を出し切ること。

 この二種類の戦闘法を組み合わせ、常に優位に立ち回る、というのが、魔術師の戦闘法だ。


 そして、ルディランズは、前者の自分に有利な領域の創成をメインとする魔術師である。


 だからこそ、ルディランズにとって、竜気によって周辺の環境を変えられるジェシカは、いい仲間だ。

 何せ、その変化した環境によってバフを受ける魔術を、仲間全員にかければ、それだけで仲間全員を強化できる。

 逆もまた然りだ。


 だからこそ、ルディランズが参加する戦闘では、損耗率が下がる。

 ルディランズが魔術で領域を作り、バフとデバフを管理することで、味方は強く、敵は弱くなる。


「・・・・・・ベアトリス」

「なんだ?」

「影での拘束、任せてもいいか?」

「ここまでおぜん立てされているなら、我でも制御は可能だ。任せるがいい」


 ふふん、とささやかな胸を張るベアトリスを見て、ふ、と笑みを浮かべ、ルディランズは詠唱内容を切り替えていく。

 目を閉ざし、さらに魂現の魔眼も意識的に閉ざすことで、感覚範囲を強化。

 集中し、領域内の情報収集を優先。


「・・・・・・・・・・・・よし」


 そして、


「勇者ベイナス」

「む」


 少し離れたところで力を溜めるベイナスへ、声を『飛ばす』。


「一撃を入れて、魔王の動きを止める。見逃すなよ?」

「ふ。任せろ」

・多重詠唱

詠唱を並列で行う技法全般を指す。

一人でもやれるものとしては、指で印を結びながら、口で詠唱する、などの類。

異なる魔術を同時に詠唱したり、あるいは同じ魔術を違うやり方で詠唱することにより増幅したり、といった使い方をする。

なお、どちらにせよ、詠唱の難易度は上がるし、魔力の消費量も倍増以上に増加する上、どれか一つでも詠唱をミスると、他の詠唱まで連鎖的に失敗するため、確実な魔術を信条とする魔術師には、嫌うものも多い。

大体三重詠唱くらいが多いが、杖や触媒を併用することで、理論的には十でも百でも詠唱手段は増やせる。

ルディランズはあえて多用する上、異様なほどの集中力でほぼ失敗しないため、戦闘中に魔術がまず途切れない。




------------------------------------------------------------------

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ