決着直前
敵の攻勢が激しくなった。
森の隙間から、敵がにじみ出てくる。
それは、魔王フェンリルの後ろの空間だ。
「・・・・・・んー」
宙を蹴り、飛び回って、周辺を吹き飛ばす。
ジェシカは、できるだけ広範囲を薙ぎ払うようにしながら、魔王を抑えるアガットのサポートに回っていた。
アガットの周囲に雑魚を寄せないようにしながら、強そうなのを先手を取ってつぶしていく。
「ルディは・・・・・・」
ルディランズの方を振り返ると、ルディランズの周囲を光の輪が取り囲んでいた。
囲んでいるその輪の正体は、ブレアが走った後だ。
燐光をまとうブレアが走ると、その尾が揺れた後が、光の線として残る。
ほんの僅かな間に消えてしまう光だが、ブレアの速度が速いため、輪となるまでに残っているのだ。
その輪に近づくて敵は、軒並み蹴りつぶされていた。
「あの動きって・・・・・・」
ブレアの動きは、速い。
その動きの中で振るわれるのは、獣人種特有の武術だ。
「ルグローム湖畔近郊の人狼種が使うやつだ」
ジェシカは、へえ、と感嘆の声を上げる。
獣人種が使う武術は、ジェシカ達が使う武術とは違う。
獣人種特有の獣人武術は、化生術を使うことを前提して技が構成される。
今、ブレアが使っているものがそれだ。
「真似できないものなあ。あれは」
化生術は、人型と獣型を行き来する獣人種固有の術だ。
獣人武術は、当然その特性を生かす技になる。
二足歩行で立つブレアの喉笛へとかみつこうとする狼に、四足歩行の獣型へと瞬時に変化して、下を潜り抜ける。
そこから前へと踏み出しながら、人型へと変形、頭上を抜ける狼の尾をつかんで地面へとたたきつけ、踏み潰す。
腕先だけを獣に変えて、腕を敵へと突き立てれば、爪が敵を切り裂く。
身体構造を人と獣の間で自在に変化させるブレアの動きは、どちらにも寄らずとても柔軟だ。
しなやかな体躯は、最小限の動きで敵をかわし、最短の距離を進んで敵を貫く。
獣人種特有の動きであり、ああいった武術が使えるからこそ、獣人種の冒険者は前衛になりやすい。
「ブレア。強いのねえ」
冒険者業がうまくいかなくて奴隷落ちした、というだけに期待していなかったのだが、戦闘力があそこまで高いなら拾い物だろう。
見つけてきたルディランズは、さすがの目利き、ということか。
そして、ブレアに守られるルディランズの周囲では、影が生み出した手が、それぞれに手で印を結び、術の並行詠唱を実現している。
「ルディ。本気ね」
影を使っているのは初めて見たが、自分の手以外のものを使って、詠唱を多重化する技法は、ルディランズがよくやる方法の一つだ。
あんなことをするとその分だけ魔力消費が極端に重くなるため、他の魔術師はまずやらない。
ルディランズがあれをやるのは、それだけ魔力へと変換可能な生命力が多いからだという。
ただ、それにしても、多重化した詠唱で、それぞれに違う魔術を詠唱するとか、そういう器用なことを平然とやるのがルディランズである。
普段でも、火や風を使って、似たようなことをやっている。
何をやっているのか、はともかく、ルディランズの使う魔術が、周囲を掃討していっているのは間違いない。
「ルディ! あとどんだけ!?」
「三十秒」
「了解!」
宙へと跳び上がる。
そして、ジェシカは咆哮を上げる。
竜気をより広く、より強く展開するための咆哮だ。
「アゲていくわ!!」
*****
魔術師の戦闘法は、大きく分けると二種類になる。
術者優位の領域を広げ、自分は有利で相手は不利、という状況を作り出すこと。
そして、それらの領域に適応し、領域の影響を無視して、自分の性能を出し切ること。
この二種類の戦闘法を組み合わせ、常に優位に立ち回る、というのが、魔術師の戦闘法だ。
そして、ルディランズは、前者の自分に有利な領域の創成をメインとする魔術師である。
だからこそ、ルディランズにとって、竜気によって周辺の環境を変えられるジェシカは、いい仲間だ。
何せ、その変化した環境によってバフを受ける魔術を、仲間全員にかければ、それだけで仲間全員を強化できる。
逆もまた然りだ。
だからこそ、ルディランズが参加する戦闘では、損耗率が下がる。
ルディランズが魔術で領域を作り、バフとデバフを管理することで、味方は強く、敵は弱くなる。
「・・・・・・ベアトリス」
「なんだ?」
「影での拘束、任せてもいいか?」
「ここまでおぜん立てされているなら、我でも制御は可能だ。任せるがいい」
ふふん、とささやかな胸を張るベアトリスを見て、ふ、と笑みを浮かべ、ルディランズは詠唱内容を切り替えていく。
目を閉ざし、さらに魂現の魔眼も意識的に閉ざすことで、感覚範囲を強化。
集中し、領域内の情報収集を優先。
「・・・・・・・・・・・・よし」
そして、
「勇者ベイナス」
「む」
少し離れたところで力を溜めるベイナスへ、声を『飛ばす』。
「一撃を入れて、魔王の動きを止める。見逃すなよ?」
「ふ。任せろ」
・多重詠唱
詠唱を並列で行う技法全般を指す。
一人でもやれるものとしては、指で印を結びながら、口で詠唱する、などの類。
異なる魔術を同時に詠唱したり、あるいは同じ魔術を違うやり方で詠唱することにより増幅したり、といった使い方をする。
なお、どちらにせよ、詠唱の難易度は上がるし、魔力の消費量も倍増以上に増加する上、どれか一つでも詠唱をミスると、他の詠唱まで連鎖的に失敗するため、確実な魔術を信条とする魔術師には、嫌うものも多い。
大体三重詠唱くらいが多いが、杖や触媒を併用することで、理論的には十でも百でも詠唱手段は増やせる。
ルディランズはあえて多用する上、異様なほどの集中力でほぼ失敗しないため、戦闘中に魔術がまず途切れない。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




