表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/197

狼の記憶

 いつからそうだったか、というのは、ぼんやりとしか覚えていない。


 その日は、いつもと変わらない一日だった。

 いつも通りに朝日とともに目を覚まし、朝の支度をする母の隣を通って、井戸で水を使って顔を洗う。

 そのまま、水を汲んで、水瓶を満たし、弟妹達を起こす。

 朝ごはんを終えた後、父の訓練を受ける。


 午後からは、弟妹達や、他の同年代の村の子供たちとともに、村近くの森で採集だ。

 山菜や果物、木の実などを拾い、かごに入れていく。

 時折現れる獣は、年上の子供たちが対処してくれた。


 そして、帰り道のことだった。


 何かを、踏んづけた。


 ぐにゅり、とした感触に顔をゆがめ、足裏についたものを振り払っているうちに、置いていかれて、慌てて追いかけた。


 今思えば、あの時踏んだものこそ、生まれたばかりの魔王だったのだと思う。

 だが、その時は、虫か何かを踏んだ、としか思っていなかった。


 村に着いて、その日の成果を親に渡した。


 その日から、世界は変わった。


 何をしても、ため息を吐かれるようになった。

 周りにいる者たちは、皆こちらを下に見るようになった。

 父の訓練で、昨日はできなかった技ができるようになっても、父はまだできない弟妹達をほめ、此方をけなした。

 あからさまに、他の子供がひいきされるようになった。


 村に住む者たちも同じだ。

 必死に駆け回り、他の子供たちより多くの採集物を集めても、ほめられるのは他の子供たちばかりで、自分は決してほめられない。

 それどころか、この程度か、とため息を吐かれる。

 村の仕事の手伝いをしても、その仕事が認められることはない。

 常に、下に見られ、成果を褒められることはない。


 そんな生活が、ずっと続いた。


 原因がわからず、がむしゃらに必死に、やるしかなかった。

 自分の頑張りが足りないのだと、必死にやった。

 訓練では、血を吐くほどに訓練した。

 結果、どの子供より早く、部族に伝わるすべての闘法をマスターした。

 村の周囲で恐れられていた、ヌシと呼ばれた巨大な獣を、深い傷を負いながらも一人で討伐した。


 どの成果も、認められなかった。


 怪我が癒えるまで、食料と水と傷の手当は、面倒を見てもらえた。

 だがその間、ずっと失望の言葉を言われ続けた。

 ことここに至って、ようやく自分が、この村で必要とされていないのだ、と悟った。

 負傷に熱を出し、ろくに体を動かすことも難しくなり、夢と現の間をまどろみながら、悲しさに涙を流した。


 そして、傷が癒えた後、黙って村を出た。



*****



 村を出た後も、結局状況は大きくは変わらなかった。

 冒険者として登録するも、どうせうまくいかない、とそんなため息を吐かれた。


 パーティーを組もうにも、誰も受け入れてはくれなかった。


 村で納めた格闘術を主体とした闘法を見せても、あるいはケンカを吹っ掛けてきた他の冒険者を吹っ飛ばしても、誰も、その実力を認めてはくれなかった。


 仕方なく一人で仕事を請けた。

 だが、常に成果は最小で見積もられた。

 そして、ある時だ。

 少し大きめの仕事を幸運にも請けられた。


 そして、失敗した。

 いや、結果自体は、成功だった、と思う。

 だが、依頼主が、それを失敗といった。

 お前になんか、成功できるわけがない、と。

 そして、協会もその言い分を認めた。


 依頼失敗は、違約金という契約だった。

 ロクな依頼を成功したことがない身で、高額な違約金は払えなかった。


 そして、奴隷となった。



*****



 奴隷となってからも、環境は変わらなかった。

 誰もが、こちらを見て、失望の息を吐いた。


 奴隷商も、売れないだろう、とそんなことを言った。


 街から街へ、奴隷市から、奴隷市へ。

 次から次へとたらいまわしにされ、移動した。


 どこでも、買われることはなく、値段は下がっていった。

 処女という希少価値すら、認めてはもらえなかった。


 売れ残るたび、自分の価値が下がっていくようだった。


 そしてある時、買われた。



*****



 その人は、檻の向こうから、こちらを見た。

 他の人とは違う目つきだった。

 その目に、失望はなかった。


 だから、思わず黙って見返した。


 そして、買う、とその人は口にした。



*****



 今、左足から全身にほとばしる力を感じる。

 聖具の脚甲。

 それを起点にすると、全身に力が満ちる。


 化生術もいつもよりずっと、高効率に発動している。


 今なら、どこまでだって走れそうだ。


 幼いころから血のにじむ訓練をして身に着けた格闘術は、今、敵を倒すのに役に立っている。

 無駄にしたくなくて、ひたすらに駆け回って鍛えた足は、敵を翻弄する役に立っている。

 時折、主とのつながりから魔術が流れてきて、周囲の敵を薙ぎ払う。

 それに合わせ、敵を見つけて襲い掛かり、蹴りを使って吹き飛ばす。


 体は、高揚していた。

 どこまでも行ける気がした。


 ブレア・フェス、と名を与えられ、今までの名は捨てることになった。


 それでいい。

 もう、過去に何も期待しない。

 今の自分は、ブレア・フェスだ。


 ルディランズ・マラハイトの使い魔。

 人狼のブレア・フェス。


 だから、魔王だろうが、なんだろうが、狼ごときには、負けてやらない。

・獣人種の闘法

獣人種は、化生術、という自分の肉体を獣との間で行き来するように変化させる術を使う。

この化生術は、肉体の構造自体が変化するため、人間の格闘術だけでは、性能を活かしきれない。

そのため、獣人種の部族ごとに、特有の戦闘術を持っており、闘法、として受け継がれている。

この闘法を修めているため、獣人種は多くの場合、近接系の戦士として有能。



------------------------------------------------------------------

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ