『虹の飛島』(5)
魔術の雷撃は、自然の雷とはモノが違う。
自然の雷は、ただ発生し、落ちる、あるいは、昇るだけ。
それは、自然現象であり、その現象の動きは自然法則に則るため、準備さえあれば術者以外が誘導することも不可能ではない。
だが、魔術における雷撃は、術者の『意思』が乗っている。
おおよそ自然法則に則るが、術者が構築した術式によっては、自然の雷ではありえない動きをさせることも可能だ。
例えば、発生した雷撃が散ることなく、敵を囲むように輪を描き、その内側へのみ放電して、さらに焼き尽くす、などといった具合だ。
「おお!」
雷光によって、周囲は明るく照らされている。
その中で、ベアトリスは発動した魔術を見て目を輝かせている。
そんなことをしても目がつぶれないのが、魔術の雷だ。
自然の雷で、こんな近距離で雷を直視していたら、まぶしくて目を開けることはできないだろう。
ルディランズが、魔術で魔王配下の軍勢を次々に攻撃していく。
その隙を縫って、ジェシカが跳び上がった。
翼を広げて滞空。
全身に力を込めて、放出。
竜術の放出だ。
その結果、ジェシカの力が周辺へと振りまかれる。
竜の力は、竜気と呼ばれることもある。
それは、周辺の環境を、竜気の発生者にとって、都合のいい環境へと作り変える力だ。
本物の竜族なら、何もない地形に火山や湖を作り出したり、強大なものになってくると、いるだけで周囲に夜が来なくしたり、逆に常に闇に包まれる空間を作ったり、とそんなことが起こる。
さすがに、竜人種であるジェシカには、そこまでの力はない。
だが、自分の竜気を振りまいて領域の性質を作り変えれば、ジェシカは環境からの強いバフを受けるようになる。
「おらあ!!」
雄たけびとともに、アガットがメイスを振り下ろす。
フェンリルはそれを避けるが、アガットはさらに盾を押し込み、さらに界術と魔術を併用して、敵の足止めを行う。
「追加だ! 食っとけ!!」
ルディランズが、さらに詠唱を追加。
ジェシカが広げた領域に合わせて、魔術の性質を変更することで、環境によるバフを魔術に合わせ、追加で攻撃力を上げていく。
ルディランズの魔術が激しくなれば、その分だけ環境の変化も激しくなり、ジェシカの竜気による環境変化が加速、ジェシカの能力も上昇する。
加えて、環境が大きく変化すると、敵の動きも鈍化していく。
その中を、アガットは界術を利用して、環境の影響をほぼ無視して、敵へと肉薄。
攻撃を続行する。
『虹の飛島』の初期メンバー、ジェシカ、アガット、ルディランズの三人が行う、連携の一つの形だ。
ジェシカが竜気を広げることで環境を変更し、それを利用してルディランズが魔術を強化、かつ環境の変更を促進。
ジェシカは、環境が変わることでさらに強いバフを得て、戦闘力が各段に向上するし、敵対者は環境の変化に適応できなければ、戦闘力が低下する。
その中で、アガットは、界術を使って環境の変化を無視できるし、場合によっては界術の操作によって環境を利用もできる。
ジェシカの竜気を起点に、全員の戦闘力を向上させ、利用する。
必勝パターンの一つだ。
「このまま、周辺は殲滅する!!」
*****
「やるな」
勇者ベイナスは、うむ、とうなづき、聖剣を握る手に力を籠める。
「私も、負けてはいられない」
聖剣の輝きが増していく。
「・・・・・・ベイナスよお。準備、しとくぜえ」
ゼットが、傍らで、次々と武器を生成しながら言う。
「そうだね。魔王を倒すのは、勇者の仕事だし。・・・・・・俺じゃなく」
ソウタが、銃の弾倉を確認し、構える。
「・・・・・・こちら、大丈夫ですか?」
そこに、ブレアが駆け寄ってきた。
「ご主人様から、伝言です」
「む?」
「『周辺を相当して、魔王までの道を開ける。タイミングが来たら突っ込め』。以上です」
「心得た」
「では」
伝言を終えたブレアが、即座にその場を離脱。
ルディランズの近くへと戻り、敵を蹴り飛ばしていく。
「・・・・・・別に、彼女か、あるいは『百識』の彼でも、聖具持ちのようだから、魔王の討伐はできるだろうが・・・・・・」
ふ、とベイナスは笑う。
「勇者の責務は譲れない。私自身の、誇りのために」
「お。恰好いいねえ」
「茶化さないの。・・・・・・いいわ。ユリア」
ノノの呼びかけに、ユリアが首を傾げた。
「なんでしょう?」
「二人でベイナスに神術の強化かけるわよ。聖剣には、それが一番効果が高いから」
「そうですね・・・・・・。フェンリルの力が、少々心配ですが」
「神喰の力があるからって、神術がまったく効果がないってわけじゃないわ。むしろ、ああいう手合いは、耐性がない分、神術の方が通るでしょうね。当たれば」
そうなる前に食い散らかされて無力化されるため、効果は発揮されない。
だが、ベイナスへの強化は、意味がある。
「タイミングを待ちましょう」
「うむ」
聖遣隊は、力をためながら、じっと待つのだった。
・竜気
竜の力の俗称、とでもいうもの。
竜人種は好んで使うため、一般的な呼称でもある。
ばらまかれると、発生者に一番適応した環境に、周囲の環境が変化する。
竜人種は、そこまでの濃度は発生できないため、たとえば火属性の竜人種の場合は、周囲の温度が多少上がるくらいで、それほど大きな変化は起きない。
ただし、周囲の環境にその変化する方向性を持たせることができるため、魔術などの外的な要因で強化することが可能。
竜気による変化がそれほど大きくできないとしても、竜人種はその竜気によって変化する方向の環境に対しては、強く適応する。
例えば、火属性の血が濃い竜人種の場合、竜気を発散している状態ならば、火山の溶岩に突っ込んでも無事で済んだりする、こともある。
------------------------------------------------------------------
評価などいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




