『虹の飛島』(4)
『虹の飛島』で、最強は誰なのか。
内情をよく知らない者は、唯一の二等級冒険者、ということで、ルディランズを挙げる。
魂現を発動可能なことを含めて、ルディランズは頭一つ抜けていると思われている。
実際、今回の魔王討伐などのような大規模戦闘でルディランズが出ると、冒険者の損耗率が半減する、とも言われており、その実力を認めている者は多い。
何より、いっそ偏執的とすら言える魔術バカっぷりは、その界隈では有名で、遠方の魔術師が意見を聞きに訪れることも多い。
ある程度内情を知る者は、リーダーであり、竜人種としての血が濃く、竜剣を使いこなすジェシカを最強という。
竜人種特有の竜術発動によって発生する、竜の鱗は生半可な魔術などはじいてしまうし、竜の翼による機動力は目にも止まらない速度だ。
竜の爪、竜の角、竜の牙、竜の尾、竜の咆哮など、攻撃方法も豊富で、破壊力も高く、並の防御なら防御の上から叩き潰してくる。
体術のセンスも天才的で、たとえ竜剣を使わずとも、強敵を軽々と屠っていく、まさしく腕利きというにふさわしい。
実際、今のジェシカなら、単独でも竜を討伐可能だろう。
では、アガットは、というと、こういう話題で場に上がることは少ない。
アガットは、巨人種だ。
種族特性の解放により巨大化はできるものの、その大きさは二倍から三倍ほど。
血の濃い巨人種が、十倍以上になれる場合もあることを考えると、それほど大したものではない。
加えて、巨人種の本領ともいえる界術も、アガットはそれほど使えない。
ただ、鍛えた肉体と磨いた技でのみ戦う戦士である。
だが、ジェシカも、ルディランズも、アガットを弱いとは思わない。
*****
アガットは、大楯を構え、踏み込む。
シールドバッシュ、いや、シールドチャージだ。
突進の行く先にいるのは、魔王フェンリルである。
「おおおおおおっ!!」
咆哮にも似た声を上げ、アガットは突き進む。
間にいた魔王の配下は、大楯の突進によって弾き飛ばし、まっすぐに突き進む。
「ふん!」
その突進から逃れようとしたフェンリルだったが、がくり、とバランスを崩した。
フェンリルの足元が、砂地に変化し、踏み込みができなくなっていた。
界術。
巨人種が行使する力だ。
『力ある隣人たち』である巨人族は、腕の一振りで山脈を作り、足で踏んで湖を生み出し、吐息によって嵐を生み出す。
彼らは、その行動を持って、自然と地形を操る力を持つ。
巨人種の界術は、その劣化版だ。
山脈を作るほどのことはできないが、巨人種はある程度周囲の地形や自然を操ることができる。
もっとも、血の薄いアガットでは、界術は発揮したのかどうかわからない程度の効果しか持たない。
だからこそ、アガットは魔術を学んだ。
「崩れろ!!」
一歩一歩の踏み込みごとに、振動と崩れる足場によって、フェンリルは体勢を崩される。
さらにそこに、ルディランズが行う影の拘束の効果もあって、フェンリルは移動もままならない。
だから、突進をしたアガットの大楯の一撃を正面から受ける。
大楯によってフェンリルへと衝撃を与えたアガットは、さらにメイスを振り上げる。
そのメイスは、アガットの魔術によって強化された界術により、雷雨を含む嵐をまとっていた。
「落ちろ!!」
振り下ろされたメイスは、雷鳴とともにフェンリルへとたたきつけられ、轟音を生み出す。
それは、確かにダメージとなって、フェンリルを叩き伏せた。
*****
アガット・ランドリオールは、ルディランズのように偏執的な興味を持つことはない。
ジェシカのように、天才的なセンスもない。
巨人種の血によって、体を倍の大きさにできる程度の能力しかない、凡才である。
だからこそ、彼はありとあらゆる技能に手を出した。
武術も魔術も界術も、すべてを一流に扱えなくとも、その技能の多彩さは、ありとあらゆる場面に対応を可能とする。
前衛のジェシカと、後衛のルディランズ。
その二人の間で、どのポジションでもサポートできる万能性こそ、アガットの強みなのだ。
*****
「・・・・・・よし!」
その様子を見て、ルディランズは詠唱を切り替える。
「決め時だな。ベアトリス。腕を貸せ!!」
ルディランズの腕は、まだ完調していない。
だから、ルディランズは、ベアトリスとの間にある魔術的なつながりを使って、ベアトリスの腕を借りる。
「むむ?」
唐突に、自分の意思と関係なく動き出した腕に、ベアトリスは一瞬怪訝な顔をするも、その動きに逆らわず、身を任せる。
そして、手指がいくつかの印を結び、詠唱を終えた瞬間、ベアトリスは目を見開いた。
「光のヴェール・・・・・・、いや、網、か?」
ベアトリスの魔力視の魔眼が、周辺一帯をやわらかく覆う、魔力の網を見た。
目を奪われるベアトリスとは地以外、ルディランズは『眼』を閉ざす。
『眼』を閉ざした分、感覚をより先鋭化させ、集中させる。
「ルディランズ。この魔術は・・・・・・?」
「さすがに、初期発動には時間がかかるがな! 一回展開しちまえば、こっちのモンだ!!」
ベアトリスの目に映る光の網、いや、目の細かさから、もはや薄い膜とも見えるそれが広がり、戦場を包んでいく。
「魔術による、魔術師の固有領域の作成」
それは、魔術師の極致の一つだ。
それは、魔術師の弱点の一つである、魔術の射程距離を補う技法。
領域の中であれば、どこにでも魔術を発動させることができる。
つまり、
「もう、おせえよ!」
ルディランズが、両手を打ち合わせる。
瞬間、領域内、すなわち、戦場にいたすべての魔王の配下を、高圧の雷撃が打ち据えた。
・界術
巨人種の固有術。
巨人族は、腕の一振りで山脈や渓谷を生み出し、吐息で嵐や霧を生み出す。
一歩を踏み出せば、その足跡には湖が生まれ、腕をなぞれば川ができる。
体の動きによって、自然環境や地形を自在に操ることができる巨人族の力を、人間が扱える程度のレベルまで劣化させたのが界術。
巨人種が使う場合、自然環境を完全に変えるほどにはできないが、スケールダウンしているものの、地形や自然を操ることはできる。
アガットは血が薄いため、できることはほとんどわからないレベルで小さい。
ただ、アガットはそこに魔術を組み合わせることで、界術の効果範囲の広さと、界術の効果強化を成し遂げ、通常の界術より自由度の高い地形操作を可能としている。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




