『虹の飛島』(2)
冒険者は、自らが所属するクランやギルドが掲げるエムブレムを、体の一部に刻むのが暗黙の了解となっている。
この時、エムブレムに何か特殊な効果を持たせるのは、ごく一般的な話だ。
『虹の飛島』のクランエムブレム。
その効果は、一時的な能力ブーストだ。
普段から、そのエムブレムはメンバーの余剰エネルギーを内部にため込んでおり、そのエネルギーを解放することで一時的に能力ブーストを発動する。
エムブレムに仕込む機能としては、一般的なものだ。
ただし、それはジェシカ、アガット、ルディランズを除く、他のクランメンバーのエムブレムの話だ。
エムブレムによる能力の一時ブーストは、結構基礎的でシンプルなものになる。
もともと、パーティーを設立し、エムブレム案をジェシカが持ってきたときから、そのエムブレムは三人の右手の甲に刻印されている。
これらのエムブレムを刻む刻印師という職が存在し、クライアントの要望に応じて、エムブレムに機能を持たせて刻印する。
この刻印の内容に介入、というか、魔改造を施している。
ブースト機能はシンプルなため、さらに機能を追加する余地があったのである。
余地があるなら、改造をしてしまうのも、まあ、あり得る話だ。
特に、とある事件を経て、ルディランズは思うところがあり、バロッゾに修行に出た際に、修行と並行して、新しい機能を開発、追加していた。
「おっと・・・・・・」
森の外で待機していた、ルディランズだ、
そのルディランズの右手の甲で、『虹の飛島』のエムブレムが黄色く発光した。
「む? なぜ光っているのだ?」
その光を見て、ベアトリスが首をかしげるが、
「ジェイソン! 俺はこの場を離れるぞ!!」
「む? どうかしたのか?」
「呼ばれてる!!」
右手を掲げ、エムブレムが光っているのを見せる。
「・・・・・・今は落ち着いている。問題はない」
「おう!」
エムブレムの効果は、わざわざ漏らすものでもない。
ただ、ジェイソンは知っているから、少し目を瞠った後に、許可を出した。
「なんだ?」
よくわかっていないのは、ベアトリスだ。
「ブレア。来い!」
「はい」
近くにブレアを呼んで、抱き寄せる。
そして、ルディランズがエムブレムに魔力を込めたとき、
「む。我も行くぞ」
その体へと、ベアトリスが抱き着いて、
「お」
三人の姿が、その場から掻き消えた。
*****
右手と右手を打ち合わせる。
ジェシカとアガットがそれを行った後、二人は離れた。
しばらく、何も起こらない時間が過ぎて、全員が二人の行動に首を傾げようかとしたところで、
「!」
強い光が、現れた。
その光は、三つの人影へと変わった。
「!」
そして、三人が降り立ったのは、魔王フェンリルのほぼ目の前だった。
「ブレア!」
状況を認識したルディランズの声に、ブレアがとっさに左足で蹴り上げる。
いきなりのことに驚いていたフェンリルの顎先をかするも、それは外れ、フェンリルは後ろへと跳んで、ルディランズをにらみつける。
その間に、ルディランズは二人を抱えて後ろへと下がった。
「だああ!! ベアトリス! お前急についてくるから場所ずれた!!」
「ほう・・・・・・。転移魔術か。高度」
「聞けよ! おい?!」
ルディランズは、ブレアを下ろすと、ストレージから身の丈ほどの白木の杖を抜く。
「ベアトリス。勝手についてきたんだから、働けよ?」
「む?」
「まだパスは残ってるな?」
「うむ。・・・・・・もうちょっと血をくれると、もっと太くなるが?」
「さりげにねだってんじゃねえよ。少しならいいけど」
「うむ」
それから、
「ブレア。俺を守れ」
「はい」
「ジェシカ! 状況!!」
「敵はフェンリルよ! 聖剣が本領を発揮できてない!」
「・・・・・・そういうことね」
ふん、とルディランズは笑う。
その首筋に、ベアトリスがかみついた。
「ちう」
吸われた分だけ、ルディランズとベアトリスの間のつながりが強くなる。
それを利用し、ルディランズはベアトリスの中の影の属性を引き出す。
「捕まえる。端から順に削れ」
ど、と杖を地面に突き立てた瞬間、そこから伸びた影が上へと伸び、魔王配下の魔獣たちへと絡みついていく。
ごお、と咆哮が響くが、影は揺らがない。
「『破魔』じゃねえんだ。それで崩れたりはしない」
それでも、影の手から逃れる、素早いのはいるが、ジェシカが飛び回り、あるいはブレアが回り込み、あるいは冒険者たちの矢や、ノノの魔術にけん制され、やがては追いつめられて影に捕らえられていく。
そして、動きが止まれば、攻撃によって撃破される。
形成が逆転したと見るや、それぞれに攻勢に出ているため、敵が数が順調に減り始めた。
「ベアトリス」
「んむ・・・・・・?」
首筋にかみついたままのベアトリスが、きょとん、とした顔をした。
「いつまで噛んでんだ。いい加減放せ」
「むう・・・・・・」
不満そうにしつつも、名残惜しそうにベアトリスは口を離した。
・転移
本来なら高等魔術
ルディランズがエムブレムを使って行ったのは、エムブレムの側からの『引寄』と『長飛』の魔術を複合させたうえで改造した、オリジナル魔術。
三人のエムブレムのみでしか発動できない、という制約や、そのほかにも様々な条件を加えることで、発動を可能にしている。
いざというとき、三人で集合できるようにするための、緊急魔術。
一回使うと、再使用のためにエムブレムに込められた術式の再装填や、内部に相応の猟の魔力を籠めなおす必要があるなど、無尽蔵に使えるものでもない。
------------------------------------------------------------------
評価などいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




