犬と狼の違い(5)
『破魔』の神犬。
『神喰』の魔狼。
かつての世界にて、神族魔族それぞれの陣営で恐れられた、神獣と魔獣である。
だからこそ、この二種類は、互いに宿敵として食らい合う。
基本的に、神獣は味方、魔獣は敵、というのが、現在の人間との関係だ。
これは、神族、魔族のそれぞれの性質によるところが大きい。
おおざっぱに言うと、神族は創始、魔族は終焉を司る。
それゆえ、神獣は性質として守護に偏り、逆に魔獣は破壊によりやすい。
神獣は、自然破壊などをやりすぎない限りは、人の営みに手を出すことは少ないし、むしろまっとうに生きる分には手助けしてくれることもある。
一方で、魔獣は人が作った集落などを見つけると、本能的なものか、衝動的なものか、破壊しにくる。
結果として、神獣とは助け合い、魔獣とは殺し合い、という風になる。
「で、今回もそういう感じ?」
ジェシカが首をかしげると、アガットはうなづいた。
「そういう感じだろう。前にルディが言っていたことだしな。たぶん間違いないはず」
「そっか。なんかよく知ってるなあ、ルディも」
うんうん、とうなづくジェシカだったが、ルディランズはこの程度は基礎知識、と思っている。
それを知っているアガットは、苦笑を浮かべるにとどめた。
「・・・・・・ベイナス。ちょっと不安事項あり」
「どうしたんだ? ノノ」
一方で、ノノは、ベイナスに声をかけていた。
「敵が、フェンリルだとすると、今度は神術がまずい。あたしは魔術でどうにでもできるけど、ユリアがやばい」
「ああ、それは・・・・・・」
ベイナスがユリアを見ると、ユリアは首を振った。
「気にしなくても大丈夫ですわ。守りの方は、ヴォーがいますし、『破魔』と違って、鳴き声一つで妨害される、というものでもないですから」
「まあ、それはそうだけどね」
「ノノ? 何か気になることでも?」
「ユリアだけじゃないわ。ベイナスも」
ノノは、顔をしかめて、警告を発する。
『神喰』の名は伊達ではない。
神獣が、治らない傷を負っていたのだ。
「聖剣は、対魔王の力。つまりは、神族由来。とはいえ、外付けだから影響は少ないにしても、フェンリル相手だと通りが悪い。・・・・・・でも、ユリア」
「わかっていますわ」
「言っておくけど、一発でも貰ったらかすり傷でも致命傷になりかねないからね」
「わかっていますわよ。心配性ですわね」
はいはい、とユリアはおざなりに手を振る。
「私もか・・・・・・」
「外付けとはいえ、勇者っていうのは、聖剣の力がしみこんでる。その分、他の人より傷は深くなるわよ」
「心得た」
「まあ、あんたの場合、魔王殺しの加護があるから、相手の魔王の力と相殺し合う分、ユリアよりはマシなはず」
「それを聞いて安心したよ。勇者たる者。魔王と率先して戦えないようでは、名が廃るからね」
ははは、と気楽に笑うベイナスに、ノノは、はあ、とため息を吐くのだった。
*****
森の中は、静かなものだった。
異界化し、モンスターや魔獣が現れ、魔王の配下として、進む冒険者たちに襲い掛かる。
だが、襲撃は、その陣容のモンスターがいくらか討ち取られると、すぐさま引いていく。
そうして、ヒットアンドアウェイ、とでもいうように、間断なく攻め立てながらも、決して踏み込んでは来ない。
「厄介ねー」
「こちらを消耗させるやり方だな」
「まあ、悪い手ではないけれどね」
決して、無駄になっているわけではない。
周囲を囲んでいる冒険者パーティーには負荷がかかっているし、今は巡礼騎士の部隊も迎撃に参加している。
ジェシカのところまで流れてくる敵も、多少はいる。
「・・・・・・そろそろつかないなら、いったん退却するっていうのも、視野に入れた方がよくない?」
「そうか。なら、退却の必要はなさそうだぞ?」
アガットが、前方をにらんでいる。
「・・・・・・あららぁ」
ジェシカも、それを認めて、剣を握る。
「・・・・・・いたわ」
「前に出る」
「ええ」
ジェシカとアガットは、聖遣隊より前へ出る。
そして、森の開けた場所へと踏み込んだ。
*****
それは、威容であった。
犬の神獣も、大きかった。
だが、その魔王の狼は、さらに大きい。
「・・・・・・あのワンコさー」
「うん?」
「傷が深いって思ってたけど、今思うとね」
「おう」
「アレ相手に、あの程度で済んでるってスゴイって思えるわ」
「同感だ」
森の外で戦ったキマイラより、更に二回りほど大きいその狼は、もしかみつかれていれば、あの神獣は胴体を食いちぎられて二つになっていただろう。
そして、その足元だ。
キマイラほどではないにしても、決して小さいわけではない狼が複数。
さらに、その周囲に無数の普通サイズの狼がいる。
周囲には、森の中で襲ってきたモンスターたちの中でも、強めの個体が潜んでいる。
「・・・・・・きっついかも?」
「俺が前に出る。背中は任せた」
「はいはい。いつもと逆ねー」
ぐん、と体を巨大化させ、アガットが前へと進む。
それに合わせ、寝そべっていたフェンリルが体を起こす。
戦闘が、開始された。
・森の異界
異界は、基本的に発生した場所に近いものが発生する。
森の中なら森。山の上なら山。谷の中なら谷、という感じ。
この中で、森の異界の場合、目測と実際の距離が合わないことが多発する。
実際に空間的な歪曲によって、物理的な距離と光学的な距離がずれることもあり、目測は当てにならない。
また、森の木々特有の罠が発生することもあり、蔦や植物とげ、毒植物など、本来その地域にはないはずの植物も多数自生する。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




