犬と狼の違い(4)
犬の神獣に、道案内を頼む。
言葉が通じない相手に、果たして大丈夫か、という懸念はあったものの、
「案外、あっさりと承諾をもらえたな」
「まあ、聖女様がいらっしゃるから」
神人種としての血の濃い聖女ユリアは、神獣からすると信頼に値する相手であるようだった。
親の神獣が一鳴きすると、ここまで一行を案内してきた子供の神獣と、それから親のそばにいた一体の、計二体の神獣が、道案内をしてくれることになった。
「・・・・・・」
「ベイナス。どうかしましたか?」
顎に手をあて、うなるように考え込むベイナスに、ユリアが声をかける。
「この場に、護衛は不要だろうか?」
ベイナスが見ているのは、負傷した親の神獣だ。
傷が深く、寝そべったまま起き上がる様子もない。
「ここには、結界のようなものが張られています。魔獣の類ならば、侵入は難しいでしょう」
「そうかもしれないが・・・・・・」
「それに、ここから魔王のところへ進軍するなら、戦力は全部こっちに来るでしょうよ」
悩むベイナスに、ジェシカもそう補足した。
「むしろ、下手に戦力を置くと、こっちに敵を引き付けかねない。それよりは、私たちがどんどん進んだ方がいいと思う」
「わたくしも同意見です。・・・・・・どうしますか? 勇者ベイナス」
「・・・・・・・・・・・・わかった。行こう」
ベイナスは、頷いた。
「・・・・・・今度は、我々が先頭を行く」
言ったのは、一パーティー残っている冒険者のリーダーだ。
「あら、どうして?」
「ここまでの戦闘を見ての結論だ。いざ魔王のところにたどり着いたとき、我々より、お前たち二人の消耗が少ない方が、魔王討伐の助けになるはずだ」
「・・・・・・潔いわね」
「そのあたりの見極めを誤る者を、うちのギルマスは信用せんよ」
リーダーはそう言って、他のメンバーに声をかけて回る。
その後ろ姿を見て、ジェシカは、ふむ、とうなづいた。
「これは、アレかな?」
「どうした?」
ふむ、とちょっとわくわくした表情をするジェシカに、アガットは首を傾げる。
「いやあ、もしかすると、もしかするかも?」
「・・・・・・?」
「ほらあ、最近、人数増えてきたからぁ、やってなかったじゃん?」
くっふっふ、と笑いながら、右手を握って突き上げる。
その仕草を見て、ああ、とアガットは納得とともに笑みを浮かべた。
「お前、それ好きな」
「いやあ、やっぱ、あっちのがアガるって。テンションが違うっていうか」
ふんふーん、と鼻歌混じりに、スキップでもしそうな調子で、ジェシカは自分の装備のチェックを済ませる。
アガットも、自分の右手を握り、その甲を見る。
「・・・・・・俺は理解しているけど、誤解はされるなよ?」
「なんの話?」
「いや、なんでもない」
首を振り、アガットも、装備の点検を手早く済ませる。
*****
敵に、狼が混じり始めた。
それまでは、森に生息する獣や虫、鳥、不定形のモンスターなどが多かったが、そこに狼が混じり始めた。
それは、敵の魔王の正体を明らかにすることだ、とベイナスは確信する。
「魔王は、犬ではなく、狼か」
「・・・・・・どっちも似たようなものよね」
ノノは、ふ、と笑って言うが、
「がう」
「あら、ごめんなさい」
先導する犬の神獣が、わざわざ振り返って咆えて見せた。
それに、ノノは軽く肩をすくめて謝罪する。
「神獣と魔獣が、それは違うだろう」
「まあ、そうなんだけれど」
ふむ、とうなるノノが、杖を一振り。
そこから放たれた神術の炎が、森の一角を直撃する。
そこに、魔獣が潜んでいたはずだが、姿はない。
「おいおい。森で炎は・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうした?」
ゼットが、その一撃を見て、ノノをたしなめる。
だが、自分の放った炎が着弾した位置を険しい顔で見つめるノノに、ゼットは首を傾げた。
「・・・・・・変。・・・・・・いえ、これはまさか」
その現状を確認する前に、
「襲撃!」
一声上がり、狼に統率された魔獣の群れが襲い掛かってくる。
「ノノ」
「何よ。ユリア」
「・・・・・・気のせいでしょうか。先ほどから、わたくしの神術が・・・・・・」
「その違和感なら、こっちもある。・・・・・・二人まとめてってことは、間違いないみたいね」
しまった、とノノは歯噛みをする。
神獣に治らない傷を与える。
それを、魔王固有の能力、と推測していたが、
「読み違えたかも」
「え?」
ノノは、杖を構え、詠唱をした。
「一に『ミ』、二に『蛙』、三に『おもねり』、四に『つい』」
生み出された水の塊が、敵の群れへと打ち出され、その水圧によって、敵を吹き飛ばす。
「・・・・・・間違いない」
その魔術の想定通りの威力に、ノノは自分の推測が間違いないことを悟る。
「ベイナス。警戒!!」
「どうした?!」
「魔王の種類は、魔狼。それも、『神喰の魔狼』フェンリルだわ!」
魔王としては、勇者の天敵のような存在だった。
・神喰の魔狼
破魔の犬神の対極のような存在。
その牙や爪は、神族由来の力を持つ者に対する特攻となり、傷を受けると回復能力が著しく阻害される。
また、向かい合うだけで、神由来の能力を阻害するため、近くにいると神術の威力が下がる。
魔獣としての生態では、孤高の一匹狼で行動するが、魔王化すると眷属の狼を引き連れ、群れで行動するようになる。
狼は、もともと群れで行動する生き物であるだけあり、魔王化した際の群れの統率力は、他の種類の魔王の中でも群を抜いて高く、危険度も高い。
何より、本来魔に対して特攻を持つはずの聖剣が、この神喰の魔狼に対しては逆に弱点になるため、勇者殺しの異名を持つ。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




