犬と狼の違い(2)
ジェシカが敵集団を蹴散らすまでに、それほど時間はかからなかった。
竜剣の咆哮と、竜剣の竜尾を合わせた広範囲攻撃の組み合わせで散った。
適当に散らしたところで、リーダーの狼が遠吠えをした。
それを聞いた生き残りは、すぐさま身を翻し、森の奥へと消えていった。
「・・・・・・もう、いないかしらね」
「いないっぽいな」
周囲を二人で索敵していると、広間へと聖遣隊を含む一団が入ってくる。
「援護の必要もなかったようだね」
剣を抜いていたベイナスが、苦笑とともに剣をしまう。
広間の手前で、後ろから敵が来ないかどうか、などの警戒をしてもらっていた。
場合によっては、増援として踏み込むことも考えられていたが、結局はそれはなかった。
「まあ、これが私たちの役割だし」
ジェシカは、剣を納めつつ、肩をすくめた。
ジェシカ達の役割は、魔王と接敵するまでの露払いだ。
聖遣隊が戦っているとき、周囲に雑魚が湧くだろうが、そちらの対応は、現在聖遣隊を囲んでいる面々が担当することになっている。
だからこそ、ジェシカは、消耗はある程度無視して、先へ進むために全力を尽くしている。
剣を納め、腰のポーチから取り出した容器から、ポーションを呑んで体力回復をしながら、ジェシカは、アガットの後ろ、アガットに守りを任せたものへと目を向ける。
「それより、あっちの方が気になるわ」
「うん? 何かいたのか?」
ベイナスが、アガットの向こうを覗き込む。
「・・・・・・犬、か」
「犬よね」
そこにいたのは、白い犬だった。
大型犬サイズ。
犬としては大きいサイズだが、馬ほどには大きくない、というところ。
白い、頭の大きな犬である。
本来は、丸くてふわふわしているだろう毛並みが、狼の牙と爪にやられたか、血が滲みところどころ赤く染まっていて、痛々しい。
「・・・・・・魔王には、『破魔』の力がある、と」
その情報は共有されている。
魔術殺し、『破魔』
それは、犬の神獣が持つ力だ。
そして、白い犬である。
「白い動物っていうのは、大体神獣よね」
「だが・・・・・・」
これが、神獣の犬ならば、森の外にまで届く『破魔』の咆哮の主、ということになる。
だとすれば、それは魔王のはずだ。
だが、その魔王のはずの犬が、魔獣と思しき狼の群れに追い回され、傷を負っている。
ベイナスは、その犬の姿を見て、首を傾げた。
「この犬は、魔王ではない。・・・・・・魔王の眷属、というわけでもなさそうだ」
「やっぱり?」
「ああ。・・・・・・ユリア。ノノ」
「はい。なんでしょう?」
「何よ?」
ベイナスに呼ばれた二人は、犬の神獣を見て、眉をひそめた。
「神気を感じる。神獣ね。この犬」
「傷を治しますね」
ユリアが手をかざし、力を籠めると、そこから淡い光があふれ、その光に触れた犬の傷が消えていく。
それに合わせて、毛皮に浮いていた赤いシミも一緒に消えていく。
「こいつからは、魔王の気配を感じない。二人はどうだ?」
「純粋な神気だけ」
「ノノと同じく。・・・・・・この子は、まだ子供のようですが」
ユリアは、傷の癒えた犬の毛並みを撫でる。
ふわふわとした毛並みの犬は、しばらくその撫でる手つきに、目を細めていたが、
「・・・・・・」
ぴくり、と立ち上がり、ふんふん、と鼻を鳴らした。
「あら」
「・・・・・・状況、なんか変わってきてない?」
「森の外での推測では、魔王は犬の神獣、という見立てだったが、これはな」
うーむ、とアガットとジェシカは顔を見合わせてうなる。
「二人とも、いいか?」
「あら、何かしら?」
ベイナスは、腕を組んで、地面に転がる、狼の死体の一つをにらんでいる。
「この狼、モンスターではなく、魔獣だ」
「そうね」
「そして、こいつからは、魔王の気配がある」
「・・・・・・へえ」
三人は、顔を見合わせた。
その間に、冒険者は持ち込んだ備品を置いて、簡易の拠点を設営していた。
お湯が沸かされ、配られる。
それを受け取り、携帯食をかじる。
「・・・・・・犬と狼、ひょっとして間違えたかしら」
「それだけではない気がするぞ」
犬も、ユリアの手から携帯食を受け取って、食べている。
それから、ベイナスを見て、わん、と鳴いて、どこかへと向かおうとする。
「む」
「ついてこい?」
「わかるのか?」
「まさか。神獣は、言葉は発さないわよ。ただ、なんかそういう気配があるなっていうだけよ」
とはいえ、
「行ってみよう。何か、あるかもしれん」
「一パーティー、ここに残って。先頭は、私たちが」
「頼む」
一団は、犬に誘われて、さらに森の奥へと踏み込むのだった。
・ポーション
体力回復、毒消しなどの効能を持つ、冒険者必携の飲み薬の総称。
種類に応じて、細かい呼び分けはあるものの、基本的にはポーション、で通じる。
作成方法は、薬草の調合などから作るパターンと、錬金術などの方法で作るパターンがある。
製作者は資格制で、資格がなければ売買不可。
使用に関しては制限はないものの、自己責任。
なお、単純な体力回復タイプが、副作用も少なくて、比較的安全。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




