エンブレム
森の中を走っていく。
時折現れるモンスターは、
「はいや!」
「よっと」
ジェシカとアガットが、軽い口調でのしていた。
「あの二人、強いな」
「まあ、あの二人も、三等級ですし」
ベイナスのつぶやきに、横を並走していた冒険者の一人が答える。
「三等級、ということは、冒険者としては、一流か」
「一応、我々も、それぞれ三等級が二人ずつ入ってますよ」
「ていうか! おい『飛島』の! こっちに少し流していいんだぞ?!」
聖遣隊を護衛する冒険者たちが、仕事をする暇がない。
そのくらい、ジェシカとアガットの殲滅スピードが高いのだ。
ジェシカは、背の翼を広げ、翼が空を一打ちする都度、瞬間移動にも見まがう速度で飛び回って、モンスターや魔獣を一刀の元に切り伏せている。
アガットの方は、大きな体でモンスターたちを押しとどめ、そのまま上からメイスで押しつぶしている。
加えて、アガットは進行方向の藪や樹木などを、大きな体でつぶして進むことで、後続の道を作る役目も負っていた。
進行方向から来る敵は、この二人だけで十分に潰せていた。
「こっちは、まだ大丈夫だから、後ろにこそ注意してー」
そんな声が、ジェシカの方から飛んできた。
森の中には、あちらこちらに気配がある。
今のところ、左右や後ろから襲われることは少ないが、それはジェシカとアガットの進行スピードが早いおかげだ。
「しかし、敵が出てこないな」
「一応、我々の方で軽く結界を張っていますから」
これは、巡礼騎士の隊長が答えた。
結界を張りながら移動できるあたり、やはり練度が高い。
だが、それでも結界を張りながら移動すれば、移動先の敵と遭遇する可能性は高い。
「アガット、やっぱり変」
「遭遇率が低いか?」
「違うわ」
「うん?」
ジェシカが感じる違和感は、敵の編制である。
襲い掛かってくるのは、蛇や蝙蝠、ウサギにネズミなど、森に普段から済む獣ばかりだ。
モンスターもいくらか混じってはいるが、
「キマイラの素材になってたやつよ」
「足りないのがいくらかいるな。・・・・・・山羊とか」
「キマイラは、初期で発生した段階で、いくらか獣の部位を持っているものでしょ? ここにいたやつが、最初から持ってた可能性はあるわ」
それに、そういう家畜の類なら、近隣の村落から盗ってきたものがいるだろう。
キマイラに混じっていた草食獣の部品は、すべて牧畜のものだったし、間違いないはずだ。
「そっちじゃなくて、おかしいわ」
「何がだ?」
「狼と犬がいない」
「・・・・・・確かに」
『破魔』の力を持つのは、犬の神獣。
この森は、もともと狼の生息する森。
だが、どちらも出てこない。
「どういうこと?」
「ルディなら、なんかわかったかもな」
「・・・・・・最悪、ルディを『呼ぶ』かも」
「・・・・・・覚悟は、いるかもな」
うなづき合い、二人は、それぞれに手の甲を見た。
*****
エンブレム、というものがある。
クランやギルドになると作成する、象徴となるマークだ。
『虹の飛島』にだって、そのエンブレムはある。
パーティーを作った際に、ジェシカが頑張って考え、ルディランズが茶々を入れ、アガットが清書したものだ。
エンブレムを公式に登録できるのは、クラン以上になってからだから、クラン昇格の申請の際に、ジェシカがとても嬉しそうに手続きしていた。
今となっては、クランメンバーは、防具なりなんなり、自分の思うところにエンブレムを入れている。
これからクランを拡大し、所属パーティーを増やすなら、独自のパーティーごとのエンブレムも増えていくだろう。
ジェシカ、アガット、ルディランズの三人は、右手の甲に、それぞれエンブレムを入れていた。
「それがこれなわけだが」
右手に着けていたグローブを外し、ルディランズはエンブレムを見せている。
『虹の飛島』のエンブレムは、虹のかかった雲と、その上にのせられた盾と剣と杖である。
「・・・・・・これ、何か仕掛けがあるだろ」
ルディランズのエンブレムを見たベアトリスが、首をかしげながら言った。
「お、わかるか」
「なんとなく、変な魔力の流れがあるような・・・・・・」
「まあ、ちょっとな。・・・・・・とはいえ、使うと後で体がきついから、できれば使いたくない」
「む?」
エンブレムは、便利なのだ。
彫りこんでいるものに、そのエンブレムの旗の下ではバフをかける、などの効果は当たり前で、同じエンブレムを持つ者同士が近くにいると、相乗効果でいい効果が発生する、などもある。
そういう効果を与えるエンブレムを彫り込む専門家もいる。
「俺は、自前で作った」
「どんな効果が?」
「そりゃ、秘密だ。一応、うちのパーティーの切り札みたいなもんだしな」
はっはっは、とルディランズは笑った。
・エンブレム
冒険者がよく作るやつ。
割とよく解散が発生するパーティー段階で作ることは稀だが、クラン以上だと普通に作成している。
紋章であるため、何かしらの特殊効果を持たせることもできる。
特定個人にしか影響しない、という制約があるため、逆に効果が高めに設定できるのも特徴。
専門でそれを作る仕事をしている者もいる。
有名なギルドのエンブレムにもなると、それだけで飾りとして売り買いされていたりする。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




