異界-狼の森-
アビロア近郊にあったこの森は、もともと近隣の村落にとっての、ライフラインの一つであった。
採集、狩猟、伐採。
重要な要素を兼ね備えていた豊かな森だったが、一点、問題があった。
それが、狼だ。
森には、狼が多数生息し、群れを作っていた。
奥地にはキマイラが巣を作っていたこともあり、深いところまでは踏み込んではいけない、というのが、近隣に住む者たちの常識だった。
狼は、時折森から出てきて、近場の家畜を襲うことがある。
そうなると、アビロアの冒険者協会などへと間引きの依頼が来る。
その依頼を一番請けるのは、やはり『紅炎遊撃隊』だ。
今回の魔王討伐戦のきっかけとなったのも、そういった討伐依頼である。
*****
「さて、注意して進みましょう」
狼の森の中に異界ができている。
異界そのものは、いつ、どこに発生するかわからない現象である。
人の多く住む都市などは、そういった異界の発生を避ける仕組みもあるが、城壁並の大きさがある仕組みのため、小規模な村落では備えられない。
何はともあれ、異界の入り口、というのは、わかりやすい。
見た目、わかりやすく景色が歪んでいるからだ。
その先に、空間が別の異界が存在する。
『力ある隣人たち』の持つ力の余波によって発生する異界は、その力の影響を受けやすい。
ここ、『王権領域』の場合は、神族と魔族だ。
ここで発生する異界の場合、神獣や魔獣の発生する異界になることが多い、ということだ。
異界突入組は、異界の入り口の前に集合していた。
先導をするのは、『虹の飛島』のジェシカだ。
アガットと並んで立っている。
他、バルガハルと、リナスがいた。
それ以外には、魔王対策に聖遣隊。
それから、巡礼騎士六名だ。
加えて、『紅炎遊撃隊』から、六名パーティーが、二パーティー来ている。
これらは、聖遣隊が異界の中にいるであろうモンスターとの交戦で消耗しないようにするための護衛役だ。
「勇者として、守られる、というのは、どうにも・・・・・・」
「贅沢言わないの。その分、仕事を期待されているんだから」
苦笑するベイナスに、ノノは肩をすくめながら言う。
「わかっているとも。私は勇者だ。必ず勝利するとも」
ノノの言葉に、大真面目にうなづき、ベイナスは前へ出た。
「では、先導をお願いする」
「まーかして!」
軽い調子でぐるぐると肩を回し、ジェシカは入り口をにらむ。
「・・・・・・さて」
「行先、わかっているのか?」
アガットに肩を叩かれて、ジェシカは軽く笑う。
「においでわかる」
竜の力を集めて、竜術を使えば、そのくらいの感知は可能だろう。
「・・・・・・で? その割には、なんか緊張してないか?」
「ん。んー・・・・・・」
もう一度、ぐるぐると肩を回して、
「なんか、ね。引っかかってる。・・・・・・なんでだかは、よくわからないけれどね」
ふう、と一つ息を吐いて、
「ともあれ、行くわ」
ジェシカは、異界の中へと踏み込んでいった。
*****
「・・・・・・狼の森に異界ができて、その中に犬の神獣、と。不思議なもんだ」
ルディランズは、本陣の丘の上で、森を見ながら独り言ちた。
「百識」
「ん」
ベアトリスが、いつものローブを目深にかぶった姿で、ルディランズの隣に立った。
「突入組、大丈夫なのか?」
「何がだ?」
「『虹の飛島』で、一番強いのはお前だろう?」
その言葉に、ルディランズはんー、と難しい顔をして唸る。
冒険者の等級は、三等級以上で、一流、とみなされる。
さらに、二等級は、超一流。一等級は、英雄だ。
だからこそ、二等級冒険者であるルディランズが、『虹の飛島』の中で一番強い、などと言われる。
ただ、当人たちの言い分は違う。
「・・・・・・ジェシカとアガットの方が、俺より強いぞ?」
ルディランズは、ベアトリスに告げた。
これは、ルディランズ自身の、偽りない本音だ。
あまり、周りの者に告げても、なかなか理解してもらえないことである。
実際、剣で切る、盾で守るといった物理に寄ったあの二人より、魔術を使うルディランズが、いろいろな場面で決定打になることは少なくない。
昨夜のキマイラ戦とてそうだ。
動けなくなるほどに傷つけたとしても、トドメを刺したのは、ルディランズである。
それでも、ルディランズは、はっきりと告げる。
自分より、あの二人の方が強いのだ、と。
「だから、俺はあの二人と組んでいられる」
にや、とルディランズは笑うのだった。
・異界除け
異界の発生を阻害するための仕掛け。
異界は、『力ある隣人たち』のいる『隣の世界』からの影響を受けることによって発生する。
それは、惑星同士の重力による干渉のようなもの。
異界の発生そのものは、力の巨大さ故に阻害できないが、その場所を別の場所に誘導、あるいは、はじくことはできる。
そのための仕掛けこそ、異界除け。
仕掛けは、かなり巨大であるため、都市クラスの集落でなければ使えない。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




