異界突入-前
翌朝のことである。
ルディランズは、本陣を置いた丘の上で、腰を下ろしてのんびりとしていた。
「うーむ」
その目は、戦場の奥にある森を見ている。
夜にキマイラを討伐してから、モンスターが森から出てくることもない。
モンスターたちが湧いてきていたその森は、今は静かなものだ。
むしろ、不自然なほど静かでもある。
「ルディ。おはよう」
「おう。ジェシカ。おはよう」
ジェシカは、自分たちのテントから出てきて、ルディランズを見つけて声をかけた。
他の者も、昨夜キマイラと戦った者たちは、ぐっすりと眠っている。
「もう目が覚めたのか?」
「そっちは? まさか寝てないの?」
「いや。寝たよ」
とはいえ、ルディランズが眠っていた時間は、それほど長くない。
というのも、昨日、ドライアドの種族特性を強く発揮した結果、体が少々ドライアド側に引き寄せられていて、朝日を浴びると目が覚めてしまったからだ。
だからといって、体調が悪い、などということは全くない。
むしろ、日光を浴びるほどに、体力自体は回復している。
「ていうか、そっちは何してんの?」
ジェシカの目は、ルディランズの足に頭を乗せて眠っているブレアとベアトリスの二人に向いている。
両者とも、ひどく穏やかな顔で眠っていた。
「両手に花ね」
「はいはい。・・・・・・まあ、昨日ぶっつけで無茶したからな」
ルディランズは苦笑している。
ブレアとやった使い魔のつながりを利用した遠隔魔術は、魔術の制御自体はルディランズがやっているとはいえ、そのための力がブレアの中を通っている。
それは、魔術による力の使い方に慣れていないブレアにとっては、負担になる。
ベアトリスの方は、血を吸わせたことによるつながりを通じて、ベアトリスの魔眼と力を利用した。
自分の力だから体への負担は少ないにしても、他人の意思で力を動かされる、というのは、それはそれで消耗する。
両方とも、それによって肉体に負担がかかって消耗している。
それで二人とも眠っているわけだが、ルディランズが腰を下ろして休憩していたら、ふらふらやってきて、勝手に膝を使って眠り始めたのだ。
「まあ、ブレアの方は見てたけど、結構な動きしてたものね。・・・・・・あれも、あんたのでしょ?」
「本人の資質もでかいぞ? どう動くかはともかく、体の動かし方については、ブレアの才能」
「へえ? でも、あの蹴りとか、『春雷雪牙』の力の使い方だったわよね?」
「まあ、そこは俺の操作でもあるけどな」
才能の力を引き出して使う、というのは、使い魔の扱いのうちでは、ありふれた技である。
使い魔の個体そのものへの負担を無視すれば、だが。
「一回使い方を覚えれば、次からは自分でもできるだろう。何回か繰り返せば、自然と身につくさ」
「・・・・・・スパルタねえ」
「ははは。それができるから、ブレアを買ったようなもんだし。これで頼りになる前衛確保だ」
ベアトリスの方は、ルディランズの血を吸ったことによるものだ。
それだけ、ルディランズの血を気に入ったからだろう。
「・・・・・・ふう」
ジェシカは、そんなルディランズをしばらく眺めたが、まあいいか、と肩をすくめる。
それから、ルディランズと同じように森の方を見た。
「今日、どう動くと思う?」
「聖遣隊は、森に突入。ただ、露払いがいるからな。当初のプラン通り、『虹の飛島』がそれを請け負うことになる」
「そか」
ジェイソン率いる『紅炎遊撃隊』は、森の外で待機だ。
聖遣隊が突入した後に、改めてモンスターが出てきても困るからだ。
その警備にあたることになる。
ジェイソンはその指揮があるから、森への突入はできない。
それ以外にも、魔術を主戦力としている者は、森への突入組からは外されるだろう。
「ルディは?」
「俺は、外だな」
「やっぱり、魔術殺しがあるから?」
「いや・・・・・・」
ルディランズは、自分の両腕を見下ろす。
動かすには不調はない。
だが、『破魔』の魔術殺しの直撃を受けた影響は、まだ残っている。
昨夜は、魔術の詠唱時に手指を組んで印を作ったりもしたが、あれは精神安定の意味の方が強くて、実際には詠唱としては発動していない。
昨夜の魔術の大半は、魔力操作とベアトリスの魔術能力を利用して行使した。
「まだ、本調子じゃない。今の状態だと、『破魔』とやりあうのは、少し怖いな」
魔術師、として、対抗策がいくつあるとしても、魔術殺しはやはり天敵だ。
「そっか」
「任せる」
「はいはい」
ジェシカは、軽い調子で請け負うのだった。
・破魔
魔力を散らし、魔術の構成を破壊し、魔術で起こる不具合そのものを遠ざける。
魔族由来の力はすべて、この魔術殺しの対象になる。
犬の神獣のみが使える力であり、その咆哮にその力は乗る。
その効果は非常に強力であり、対抗は非常に難しい。
また、その効果は、ある程度の期間残る。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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