戦闘-虹の飛島(4)
バルガハルが、キマイラの攻撃を横にいなした時だった。
背後からすさまじい勢いで駆けてきたものが、キマイラの顔を殴打した。
いや、蹴った。
「・・・・・・ブレア、だったか」
バルガハルの記憶にあるより、獣の姿をした少女だ。
人狼として、二足歩行の狼の姿に近いブレアだが、人としての美しいシルエットと、狼としての美しいシルエットが見事に融合して調和して見える。
脚甲をはめた左足で蹴り飛ばした反動でくるりと宙に跳び、一回転して着地する。
その動きに合わせ、体にまとった燐光と、おおきく膨らんだ尾が流れる。
「行きます」
ブレアが小さくつぶやいたのが聞こえた。
瞬間、ブレアのまとう燐光の輝きが増し、
「お?」
バルガハルにかかっているバフが強くなった。
バルガハルは知っている。
このバフの感覚は、ルディランズの使う魔術のものだ。
「・・・・・・む」
ごおおお、とキマイラが咆えた瞬間、その魔術のバフがいくらか揺らいだ。
だが、
「消えんか」
効果が持続する。
その理由が、
「この光か?」
ブレアがまとう燐光。
それが、まるで鱗粉のようにバルガハルにまといつき、そうなるとバフの効果が安定する。
「しかし、どうやっているのやら、と」
キマイラが攻撃をしてくるのを、やはりいなす。
だが、バフのおかげで、先ほどよりもよほどに楽だ。
「ふむ。これならいけるか」
バルガハルは、一歩を前へと踏み込んだ。
*****
「使い魔を通しての、遠隔魔術の発動か」
ベアトリスは、戦場を遠目に見て、ほう、とつぶやく。
両目の魔眼は、魔力視の魔眼だ。
それが今、ルディランズによって強化され、戦場を俯瞰している。
ブレアへとつながるルディランズの使い魔としての力の経路。
その経路を通して、ルディランズが使ったバフが戦場にいる者たちにかかっている。
ブレアが、戦場で走り回る。
そして味方の近くを通る都度、ルディランズの魔術が発動し、味方にバフをかけていく。
さらに、ブレアがまとう燐光が、そのバフの効果を持続させる。
ブレアが戦場の中心に立つ限り、『破魔』でバフを消されても、すぐに新しいバフがかかるため、バフが切れることはないだろう。
それを成し遂げるのが、遠隔魔術だ。
使い魔から魔術を発動する、という、結構な高等技術である。
本陣から、魔術で援護する、となると、このレベルの技術が必要になるのはわかるが、さらりとやっているあたり、ルディランズはさすが、といった方がいいのだろう。
「・・・・・・で? これで勝ち目はあるのか?」
「ブレアの遠隔操作もしているからな」
「・・・・・・仮にも人間だろう? いくら使い魔にしているからといって・・・・・・」
「行動の方向を誘導するくらいはわけない。それに、『魔王殺し』の称号もあるし、ブレアの獣の本能もあるから、バフさえしっかり盛っておけば、それなりに強いしな」
ベアトリスの視界では、ブレアはかなりの速度で動いている。
それなりの距離がある本陣からでも、その動きを追うのは難しいほどだ。
魔力視で、ブレアがまとう魔力の流れが見えるからこそ、かろうじて追えている。
「もともと、才能もあるっぽいし?」
「だが、冒険者として失敗して売られていたんだろう?」
「『失望』の呪いがあるからなあ・・・・・・」
評価する側が失望する、というのは、そういうことだ。
うまくやっていても、失敗した、とみなされたとしても、おかしいことはない。
「まあ、とにかく、これで俺は、頼もしい前衛ができた、と」
ブレアの動きは速い。
キマイラの攻撃は、するすると最小限の動きでかわし、懐に潜り込んでは、左足を中心とした蹴り技でダメージを与えている。
時に宙に跳んで蹴り落とし、時に下から蹴り上げ、時に跳び蹴りを当てる。
単純な蹴り以上のダメージが入っているように見える。
「ベアトリス。決める」
「おっと」
ベアトリスは、ブレアの動きに見とれていた自分を自覚し、戦場全体の俯瞰に戻る。
「よし、視覚もつながった」
「・・・・・・我は変わらんが」
「いきなりこんな資格情報突っ込まれたら、脳が破裂するぞ?」
「・・・・・・うん。任せる」
ベアトリスは、神妙な顔でうなづき、目に力を籠める。
そして、ルディランズは手指の印などで、魔術の詠唱を完成させていく。
「始めるぞ」
「うむ」
魔術が、発動した。
*****
それは、影の魔術だ。
ベアトリスが強い適性を持っている、暗黒、影の魔術。
それは、ベアトリスの種族特性。夜に生きる吸血種としての力に由来する。
『破魔』の魔術殺しで、魔術は無効化される。
だが、影や暗黒を操る力は、本来のベアトリスの種族特性の一つだ。
だから、その力を魔術を使って増幅。
そして、ルディランズとブレアの間にある経路を使って転送。
魔術によらず、影を操る力とする。
そうしてできた影は、ルディランズと経路がつながっている。
すなわち、
「決まりだ」
ルディランズの使った魔術が、ブレアの影から放たれる。
戦場のあちこち。ブレアが走りまわった後に残った影。
そこから伸びた黒い槍のような何かが、キマイラを縫い留め、動きを止める。
「・・・・・・は!」
一度、組んでいた手指をほどき、そして、両手を打ち合わせる。
瞬間、キマイラの体がはじけ飛んだ。
・魔術と種族特性
魔術は、魔力以外の力でも使うことができる。
それなりのコツと修練は必要だが、やろうと思えば神力を使って魔術を使うこともできる。
正確には、魔術を使う際には、どんな力を流しても魔力に変換されてしまう。
ただ、理屈とか諸々をきちんと知っていれば、魔力以外の力を魔力以外の形のままで、魔術として発動させることもできる。
この場合、魔力の破壊に特化した『破魔』の力は、あまり魔術の結果に影響しない。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




