人狼参戦
獣人種、というのは、『力ある隣人たち』の幻獣族の子孫だ。
彼らの体に獣の部位があるのは、単純に獣の血を継いでいるから、ではなく、そういう力を持っているから、である。
「・・・・・・」
ほう、とブレアが自分の体を眺めている。
奴隷商の店で見つけたときから、美しい娘だと思っていた。
それこそ、磨けば光るどころではなく、磨く前から光っていた。
奴隷、などとなれば、十把一絡げではなく、最高級として売り出されてもおかしくなかっただろう。
だが、ルディランズが見つけたとき、ブレアはそこらの村娘より安い値段がつけられていた。
その理由を、ルディランズは解除する。
「ブレアには、『失望』の呪いがかかってたからな」
「む?」
ルディランズの言葉に、ベアトリスが首を傾げた。
「疑問なんだろ? なんでいきなりここまで変わったのか」
「うむ。我の目にも、そこな使い魔は、かなり、なんていうか、残念な娘に見えていたぞ? 魔眼で見ても、何も変わらん」
「だから、『失望』の呪いだよ。ブレアにかかっていた呪いは、ブレアを見た者が、ブレアに『失望』する呪いだ」
「ほう?」
「だから、ブレアを見ると、大体、失望して、残念な相手、という印象を抱く」
結果として、存在に価値を見出されない。
奴隷商側も、ブレアを見て、売れそうにない、と見て、安値にしていたのだろう。
買うものは、ないよりはマシ、くらいの気持ちでしか買わないのだ。
「集まってたやつらん中で、ブレアの姿がちゃんと見えてたのは、俺と勇者殿くらいだろうな」
「何? ということは、その『失望』の呪いは・・・・・・」
「おう、魔王殺しの呪いだ」
ルディランズの目は、ブレアの左足。
脚甲に包まれたしなやかな足に向く。
「おそらく、知らないうちに、その左足で魔王を踏み潰したんじゃないか?」
「・・・・・・それで死ぬのか?」
「死ぬぞ。魔王の発生率は、そんなに低くない。魔王は、生まれた時から魔王だが、裏を返すと赤子の時、弱いときが必ずある。それこそ、子供でも殺せるような時がな」
発生直後の魔王、というのは弱い。
大体の魔王は、発生して弱い間に、他の魔獣なりモンスターなりに殺されてしまう。
そして、殺した方は、魔王殺しの呪いを受けて、生き永らえることができず、死に至る。
『失望』の呪いだって、決して軽い呪いではない。
すべての行動は正当に評価されず、下に見られる。
店で買い物をしようにも、金など持っていないように見られるし、関わりになりたいと思うものもいない。
弱っている人間を食い物にするような悪党でさえ、こいつからは何も取れないと近づかない。
『失望』の呪いとはそういうものだ。
こいつに関わること自体が、時間の無駄だと思ってしまうような呪いなのだ。
魔王殺しの呪い、というのは、大体全部そのレベルの呪いであり、軽いものなど一つもない。
「ただ、魔王殺しの呪いは、聖具を身に着けて発動すれば、影響はほぼなくなるからな」
「・・・・・・どうやって用意したんだ?」
「俺は、自分で作れるから」
聖杖だって、自分で作ったんだぞ、とルディランズは笑う。
「何はともあれ、これでブレアを全力で使える」
だから、ルディランズは魔術を使う。
ブレアを使い魔としたその縁。
それを通り道として、力を双方向で循環させる。
「あ」
ぴく、とブレアが反応し、
「んあ」
さらにぴくん、とのけぞる。
「接続、同調、支配、管理、よし、いける」
ルディランズが、順番に魔術を構築し、ブレアとの間のつながりを強化する。
そして、ブレアに大きな変化が訪れた。
始まりは、ブレアの左足。
魔王を踏み殺したその足から、仄かな光が漏れる。
それがブレアの全身を覆い、そして、ブレアの姿が変化した。
ブレアの全身を獣毛が覆う。
その姿が、人のものから、より獣に近いものへと近づく。
変化が終わった時、そこにいたのは、燐光を放つ人狼だった。
「あ、あ、あああ、あああああ!!!!」
ごう、と強い勢いで息が吸われた。
ブレアの上半身が膨らむほどに、その内側へと息が蓄えられ、
「AaaaaOooooooooooN!!!!」
天へ向かって、咆哮が上がる。
その勢いは、周囲に響き渡り、
「うわ」
ベアトリスが思わず腕で顔を覆うほどの衝撃が、周囲へとまき散らされた。
ブレアの足元が、ブレアを中心に浅いすり鉢状にへこんでいる。
咆哮を終えたブレアは、息を整え、静かに戦場へと目を向けた。
ブレアの準備が整ったことを見て取ったルディランズは、ベアトリスへと目を向ける。
「ベアトリス。始めるぞ。寄越せ」
「むう・・・・・・」
「なんだ?」
唇を尖らせるベアトリスに、ルディランズが怪訝そうな顔をすると、
「血だけじゃ足りん」
「わがままな・・・・・・」
「今度一日付き合ってもらう」
「・・・・・・わかった。それでいい」
「ようし!」
ふん、と気合を入れた後、ベアトリスは脱力した。
ルディランズに後ろから抱き着くように、ルディランズに背負われるような形で、両肩の上に腕を回し、胸前へと腕をたらし、そのまま体重を預ける。
そして、ルディランズの左肩の上に首を乗せ、目を開いた。
金と紅。
色の違う二つの目が、爛々と輝く。
ルディランズは、その背中の体重を感じつつ、手を組んだ。
「よし、ブレア。行け」
指示は、静かに行われた。
だが、ルディランズが指示を出した瞬間に、ブレアの姿は消えている。
行先を示すのは、その場にわずかに残った燐光のみ。
それは、戦場へと向かって、まっすぐに伸びていた。
・化生術
獣人種が持つ種族特性をさらに引き出すための術。
基本的に獣人種の血が濃いと、幼いころから本能的に獣の姿と人の姿の間を行ったり来たりして、自分にとって一番居心地のいい姿で定着する。
その獣の姿と人の姿を切り替える術として、化生術が存在する。
誤解されがちだが、化生術は獣の姿に変わる術ではなく、人の姿に近づく術。
獣人種は、幻獣族の子孫であり、その本来の姿は獣そのもの。
当然ながら、獣状態の方が能力は高く、人の姿に近づくほどに能力は低下する。
ただし、純粋な幻獣族ではない獣人種は、獣に近づくほどエネルギー消費が激しくなる。
そのため、獣と人のちょうど間ぐらいの状態が、エネルギー効率的にちょうどいい状態、となる。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




