戦闘開始-虹の飛島(1)
「ジェイソンさんは、うまくやったな」
『決戦』の領域の展開と、その結果、二体のキマイラと聖遣隊が戦場から消えたことを確認し、ルディランズはうなづく。
「こっちはこっちで、準備を終えるか」
ルディランズは、目をつむって、集中する。
必要な要素はそろっている。
しゃがみこんだルディランズの後ろに立って、その肩に手を置いているベアトリス。
そして、ルディランズの隣に立っているブレアだ。
「ブレア」
「はい」
呼びかけに返事がある。
目をつむっているから、ルディランズからブレアの表情は見えないが、たぶん真面目に神妙な顔をしているのではないだろうか。
瞼を下ろした状態で、魂現を解放。
それだけで、視界が大きく広がった。
だが、森の方へと向けると、その視界がぼやけていく。
『破魔』の効果と、森の奥にある異界のせいだ。
「ベアトリス。パスをつなげ。同調する」
「わかった」
肩に置かれた手を通じて、ベアトリスの体内へと吸われた血へと意識を向ける。
同時に、ベアトリスから伸ばされた魔術的なつながりを感じ、
「・・・・・・同調」
「ん・・・・・・」
二つの魔力を合わせて、使えるようにしていく作業だ。
これを、一方が優位となるようにやると使い魔になる。
だが、今回は、一時的なものだから、それほど深くはつながらない。
そして、もう一人。
ブレア・フェス。
ルディランズ自身がそう名付けた、奴隷の少女。
使い魔の契約は済ませていて、すでになじんでいるから、魔力の同調も問題なし。
「・・・・・・ブレア。左足に不調は?」
「ありません。装備も完全です」
作り上げた白い脚甲が、ブレアの左足のひざ下部分を包んでいる。
右足は、足首に輪の形状のアクセサリーを装備。
左足と重量のバランスを取るための、魔術道具だ。
「よし。じゃあ、始める。深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐く」
数度の呼吸。
二人で、呼吸のタイミングを合わせていく。
その過程で、意識下で同調のための魔術を詠唱。
「・・・・・・入った」
瞬間だった。
ブレアの左の脚甲。
それが、白い光を発生し、ブレアの全身を包み込む。
一呼吸ほどの後、その光がはじけ、光に包まれていたブレアの全身が明らかになった。
ルディランズの目には、ブレアの姿で何か変わったところはない。
だが、周囲は、光の中から現れたブレアを見て、はっと息を吞んだ。
金に似た茶の毛並み。
オオカミの耳はぴん、と上に立っている。
軽装なので肌の露出が多いが、背中はほとんど獣毛に覆われ、ふわりと膨らんだ尾まで続いている。
開いた目は、金色の瞳が輝いている。
ルディランズが買った奴隷、ブレア・フェスについて、『虹の飛島』のメンバーは全員首をかしげていた。
ブレアが、どこか秀でたところがあるようには見えず、容姿も凡庸、というよりは不細工に見えたからだ。
少なくとも、好んで買い上げるような奴隷ではないだろう、という意見は一致していた。
それを結構な好待遇でもてなしているルディランズに、趣味が悪い、という目を向ける者もいた。
だが今、それらの認識は覆されている。
「・・・・・・すけべえだな」
ルディランズの耳元に、ベアトリスが口を寄せてささやいた。
ベアトリスは、大変な美少女である。
もともと、吸血種に限らず、魄猟種は見た目に整ったものが多い。
獲物を捕食するには、見た目で魅了できると楽だからだ。
加えて、現在種族特性を強くしているベアトリスは、無意識だが周囲に『魅了』を振りまいている。
今、ベアトリスを視界に入れてしまえば、そこから視線を外すのは大変苦労するだろう。
だが、その視線が、ブレアの出現により、ベアトリスから自然と逸れてブレアに惹きつけられている。
ブレアが、『魅了』などを使っているわけではない。
ただ、光の中から現れたブレアが、ただ立っているだけで目を惹いてしまうような、そんな美少女だっただけだ。
ルディランズは、それを見抜いていたのだろう。
そう察したからこそ、ベアトリスはルディランズにささやいたのだ。
「あれを見逃すのは間違っている」
「ま、わからないでもない」
ルディランズは、ベアトリスのささやきにそう返し、ブレアとの間にある使い魔のつながりを通じて魔力を循環させる。
ついでに、ストレージから、一本の杖を取り出した。
自然物で作られていることが多いルディランズの杖の中で、全体が人工物でできている、珍しい杖だ。
その意匠は、ブレアの左足のそれと似ていた。
「ご主人様?」
「調子は?」
「・・・・・・悪くないです」
「よし」
杖に魔力を流し込み、そこにある機能を起動する。
「その杖は?」
「見てわからんか?」
「我の魔眼には映らない。魔術の品ではないだろう?」
ベアトリスの分析に、にや、とルディランズは笑う。
「強いて言うなら、『聖杖』ってとこかね」
「・・・・・・聖具か」
「俺も、『魔王殺し』の称号は持ってるからな」
「後で、その武勇伝は聞かせてもらうとしよう」
ルディランズは、必要な魔術と装備の準備が整ったことを確認し、ジェシカに告げる。
「ジェシカ。いつでもいける。そっちのタイミングで行け!」
「了解!!」
言った瞬間、ジェシカはその身をひるがえした。
「アガット、遅れないでよ!?」
「誰に言ってんだ?」
ジェシカが、一瞬消えたようにも見える速度で走り出したそれに、一瞬も送れず、重装備のはずのアガットが続いた。
・経路/パス
魔術において、極めて重要な要素の一つ。
魔術は、このパスが通った先にしか発動できない。
そのため、何の準備もない魔術師が魔術を発動させる場合は、自分の体のどこかにしか発動できず、杖を持っても、杖の先端部分まで伸ばすので精一杯。
この経路は、準備さえできていれば、遠くまで伸ばすこともでき、理論上その距離に制限はないが、この経路を遠くに伸ばせば伸ばすほど、魔術の発動は安定しなくなるし、魔力の消費量も上がる。
また、経路を伸ばすことにも、それ相応のコストがかかる。
現代の魔術師は、遠隔で発動するより、手元で発動した魔術を操るのが主流となっている。
使い魔の場合、ほぼ常時この経路が通った状態になるため、使い魔の主は、使い魔を通して魔術を発動することができる。
ただし、その技術的難易度はかなり高いため、実際にやる魔術師は少ない。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




