戦闘開始-聖遣隊(1)
聖遣隊が走り出す少し前のことだった。
自分たちの状況を確認していたベイナスは、ノノの方を見た。
「ノノ。君は戦えるか?」
「敵の魔術殺しのこと?」
「そうだ。・・・・・・魔術殺しに対策は?」
「あるわ」
少々言いにくそうな、気遣うような調子で言ったベイナスに、あっさりとノノはうなづいた。
魔術師にとって、魔術殺しは鬼門だ。
魔術殺しは、詠唱封じと違い、ほぼすべての魔術を使えなくする。
何かしらの対策がないと、魔術師は弱体化、または、無力化するものだからだ。
だからこそ、ベイナスはノノを気遣った。
ノノは、魔術師である。
帝国が認める一流の実力者の一人とはいえ、だからこそ、魔術を使えなければ一人の無力な少女である。
魔術師は、総じて魔術の習得のために、それ以外の戦闘法を習得できていないことが多いからだ。
「手札はあるから、平気。とはいっても、いつもみたいな攻撃力は期待しないで」
「了解した」
*****
キマイラへと駆け出しながら、ノノは頭の上のつば広の三角帽子に手をかける。
魔女のシルエットのそれを脱ぎ、たたんで懐に入れた。
「『決戦』を展開する!」
ジェイソンが叫ぶ。
両手剣を抜き、それを地面に垂直に突き立て、その柄の上へと両手を添える。
それは、騎士の立ち方に似ていた。
「聖遣隊! 前へ出ろ!!」
ベイナスを戦闘に、聖遣隊が前へ出る。
その後ろに巡礼騎士が続き、ジェイソンの周囲を取り囲む。
ジェイソンは、眼前をにらみつけ、聖遣隊と、キマイラ二体を視界に入れた。
「ふん!!」
ぐ、と柄に重ねておいた両手に力を入れ、地面へと剣を突き立てた。
直後、キマイラが二体と、聖遣隊の姿が、戦場から消えるのだった。
*****
『決戦』
ジェイソンの二つ名の由来ともなっている、魂現。
その魂現によって発生した領域は、荒涼とした平野のような風景だった。
障害物は一切なく、地平線の彼方まで見える。
天は高く、制限はないように見える。
すなわち、どこまでも広い戦場だった。
ほとんど準備も何もなく、一定の人員を内部に取り込んで、これだけの広さの領域を作り上げる。
魂現というもののすさまじさを感じさせるものだ。
「なるほど。これが・・・・・・」
ベイナスが、感嘆の声を上げる。
「ベイナス。気を逸らしてる場合じゃねえってよ」
ゼットに声を掛けられ、ベイナスは前を見る。
キマイラ二体が、きょろきょろと周囲を見回していた。
唐突にこんな領域に飛ばされ、混乱しているのだろう。
あれらは魔王の眷属だから、魔王と何かしらのつながりがあるかもしれない。
だが、それらも消失しているのだろう。
「だが、通常よりも強力な個体だ。油断せず行こう」
ベイナスは、聖剣を抜いた。
その姿を見ながら、ノノは目を閉じ、集中した。
「ん・・・・・・!」
ざわり、とむず痒いような、ざわめく感覚を得る。
ノノの両耳の上、そこから、少し後ろ側。
そこから、にゅ、と角が生えた。
前方、頭の鉢に沿うように、額側へと伸びる、ねじれのない角が左右に一本ずつ。
さらに、その付け根から斜め後ろ上向きに、ねじれた角がそれぞれ左右に一本ずつ。
「ノノ。その角は・・・・・・」
ユリアが、ノノの頭に生えた角を見て、目を瞠る。
「何を驚いているの? あなただってあるでしょ」
しばらくその角の形に呆けたように見ていたユリアは、ノノに笑みとともに言われ、再度目を瞠って、それから苦笑した。
「そうですわね」
ん、と集中した直後、ユリアの頭部から、やはり角が生えた。
ノノと同じように、両耳の後ろ側に少し上の部分。
ユリアの場合は、上へと向かって、ねじれのないまっすぐな角が生える。
さらに、
「ああ・・・・・・」
ユリアの場合、その角を取り巻くように光輪が。
さらに、その背中に、光が翼のように漏れる。
「さすがは聖女様。神人種っていうより、もはや天使ね」
「言わないでください。目立つばかりで恥ずかしい」
というよりも、とユリアはノノの頭に目を向ける。
「ノノ。貴女は・・・・・・」
「そ。神人種と魔人種の混血ね」
混血自体は、それほど珍しいわけではない。
究極的な話、この世界に生きる人間は、ありとあらゆる血が混じっている、とも言われ、濃い薄いはあれど、すべての種族と親戚、とも言われる。
そのため、複数の種族特性を発揮する混血は、珍しい存在ではない。
ただ、種族的に反発する神族の血を継ぐ神人種と、魔族の血を継ぐ魔人種。
この二つの種族特性を同時に発揮できる、というのは珍しい。
「まあ、とにかく、あたしも神術で援護できるから」
「なるほど。それが君の切り札か」
ベイナスは、うむ、とうなづいたが、ノノは肩をすくめて笑った。
「冗談でしょ? あたしは魔女よ。魔術以外を使うなんてみっともないわ」
「でも、使うんでしょう?」
「当たり前。役立たずなんて、それ以上にみっともないもの」
ふふん、とノノは笑う。
「それよりほら。あっちも、やる気みたいよ?」
うろうろしていたキマイラが、聖遣隊をにらんでうなっている。
それを見て、聖遣隊の面々は、それぞれに武装を構えた。
「ソウタ。一体は任せる。抑えるだけでいい」
「・・・・・・たぶん、倒せると思うけど?」
ベイナスがソウタに言うと、ソウタは銀色の光る輪を取り出した。
「とどめだけはこちらに回してくれ。聖剣でないと、魔王本体のものほどでなくとも、呪いが発生する可能性がある」
「了解」
そして、ソウタは左腕にその光る輪をはめるのだった。
・神人種と魔人種
それぞれ神族と魔族の血を継いだ人種。
両方とも耳の後ろ上の部分に角が生えるのが特徴。
神人種の角は、ねじれがない。魔人種の角は、ねじれている。
どの向きにどの長さでどの太さで生えるかは個人差あり。
種族特性として、それぞれの種族に応じた力の増幅がある。
なお、聖女はすべて神族の血が濃い神人種で、能力発現時は、頭の上に光輪、背中に翼状の光が発生する。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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