魔術殺し(4)
「なんだかよくわからんのだが、我はどうすればいい?」
杖を地面に突き立て、その周囲に麻袋の中身、種のようなものをぱらぱらと落としているルディランズの傍に、ベアトリスは近づく。
「後ろに立ってろ」
「うむ」
指示通りにいそいそと言われた通りの場所に立つ。
「ブレア」
「はい」
「お前は、俺の横」
「はい」
ルディランズの隣に立ち、ブレアはたたずむ。
「さて、と・・・・・・」
ふう、とルディランズは息を吐く。
「うまくやれるかね・・・・・・」
自分の種族特性を引き出すのは、ずいぶんと久しぶりだ。
手を組み合わせる。
そのまま、白木の杖の前に膝をつき、祈るような姿勢を取る。
「祈らず、請わず、妬まず、倦まず、求めず。あるがままにある我が同胞。どうか願いを聞いてほしい」
静かに唱えるそれは、詠唱というより、祝詞に似ていた。
「静寂の闇。月の明かりの届かない夜。眠りを守る淡き光の守り手たち。精霊の踊り場。樹霊たちの髪留め。地上にある星の宴」
白木の杖の周りに播かれた種が、地面に潜っていく。
「今この時。ここにあれ」
一時、静寂が訪れる。
そして、次の瞬間、地鳴りが起こったかと思えば、戦場を取り囲むようにして、木々が背を伸ばし、まるで戦場全体を覆う囲いのようになっていた。
「わあ・・・・・・」
漏れた感嘆の声は、さらに大きなものになる。
ただ巨大な囲い。
その囲いの中にぽつぽつ、と光が灯っていく。
最初は淡く優しい光だったものだが、数が増えれば、明るくもなる。
「ドライアドのヘアランタン。まあ、名前の通り、ランタンみたいに光を放つ植物だ。これで、夜になってもある程度明るい状態で戦える」
「おー。・・・・・・こんなことできたんだ」
「うえ。ジェシカさんも知らないんスか?」
「やったことないからなあ・・・・・・。ぶっちゃけ、魔術を使えるならそっちの方が効率いいし、これやると後片付けが面倒でなあ・・・・・・」
頭をがしがしとかいて、ルディランズはぼやく。
「あと、デメリットがでかい」
「デメリット?」
ああ、とうなづいたルディランズが足元を見ると、地面から伸びた植物の根のようなもので、ルディランズの足が拘束されている。
「あれを展開している間は、俺はこういう感じで動けなくなる」
「なるほど。そりゃ使えないわね」
冒険の都度、これで動けなくなっていては、冒険などできなくなる。
「魔術なら、ここからでも援護できるけどな。前衛には出られん」
ちなみに、
「このまま放置すると、体が少しずつ植物になるので、できるだけ早く頼む」
「・・・・・・大丈夫なの?」
「ドライアドの血があるから、まあ、ある程度は。・・・・・・とはいえ、三日も放置されたら元に戻れなくなるかね? 死ぬって意味で」
あっけらかんとした調子で言うが、重大ごとだろ、とジェシカ達は驚いている。
そこに、戦闘準備を整えた聖遣隊とジェイソン達がやってきた。
「ルディランズ。そのままで大丈夫なの?」
「心配いらん。終わったら片づける」
「ここから援護できるのか? 遠いが」
「戦場に生えている樹木は、全部俺の体の一部みたいなもんだ。あの下なら、いくらでも援護できる」
質問に答え、ルディランズは問題ないことを告げる。
ともあれ、準備は整った。
「さて、お前らいけよ? とりあえず、戦場の明るさは確保したしな」
「ありがたい。朝までには討伐しよう」
皆が見つめる先で、四体のキマイラはたたずんでいる。
「あいつら、動いてないな」
「俺の樹木が結界になってるからな、と・・・・・・」
次の瞬間に、びりびりと空気が震えた。
それは咆哮だ。
そして、キマイラが動き出す。
「・・・・・・・・・・・・『百識』」
「聞こえたな」
その咆哮を聞いたベアトリスがルディランズに声をかけ、ルディランズはうなづく。
「狼のそれに似ている」
「違う。『破魔』の力を持つなら、犬だ」
『破魔』というのは、現代では魔術殺しの一つとして数えられているが、実際には、神族が持つ対魔族用の力だ。
それを持つのは、神族。
そして、『力ある隣人たち』が退去したこの世界で、その力を持つ代表的な存在は、犬型の神獣である。
「あの森に、神獣がいるとは知らなかったな」
ジェイソンは、顎に手をやってうなる。
「あの森は、もともと狼の縄張りだが、犬はいなかったと思うんだが」
「犬も狼も、同じ仲間、と言いたいが、狼に神獣はいないからな」
「あのキマイラには、狼の部品があるように見える」
「・・・・・・そのことだが」
ルディランズは、かぶっていた兜を脱いで、視界を広くとる。
「森の奥に、異界が見える」
「なんだと?」
「俺も、最近はこっち来てなかったから知らなかったけど、大分前から森の奥に異界があったんじゃないかね」
「となると」
「その奥で生まれた犬の神獣が魔王化。そんで、異界に誰も気づかなかったもんだから、その中ですくすくと成長。満を持してのご登場って感じかね」
「洒落になってないな」
「言ったってしょうがない」
ごあああああ、とキマイラの咆哮が響いた。
「と、しゃべってる時間はないな。・・・・・・ジェイソンさん。あんたの『決戦』の展開に合わせて『虹の飛島』も動く。行ってくれ」
「心得た。聖遣隊。ついてこい」
次の戦闘が始まろうとしている。
・種族特性
この世界の人種は、すべて何かしらの『力ある隣人たち』の血を継いだ混血。
その血の力は、現在の人種では完全には引き出せないものの、一部は引き出せる。
その力を引き出したものを、種族特性と呼ぶ。
種族特性を発揮すると、その種族の特徴的な外見が出るようになる。
神人や魔人なら、角が生える。獣人なら耳や尾が生える、などといった具合。
大体は生まれたときから外見に現れる特徴で、その特性を判別できる。
これらの種族特性は、何かしらの力を籠めることでより強く発揮することができるが、メリットばかりではない。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




