魔術殺し(3)
本陣から、総指揮官が移動する。
本陣には、簡易救護所などもあるため、すべてが移動するわけではないが、主戦力は移動することになる。
聖遣隊と巡礼騎士隊、それとジェイソンは、まとまって移動の準備をしている。
「さて、こっちも動きを決めましょうか」
ジェシカがぱん、と手をたたいて、『虹の飛島』を集めた。
「バルガが片方を足止め。その間に、私とアガットで片方を仕留める。ビアン。あなたは残りのメンバーの指揮して、サポート。周囲の雑魚を近づけないようにして」
ヒェ、とビアンの悲鳴が聞こえたが、全員が無視した。
「ルディはどうするの?」
「腕が使えなくても詠唱はできる。全員をサポートするさ」
「敵、魔術殺しでしょうが」
「そうだな。だから・・・・・・」
ルディランズは、近くにいたベアトリスに視線をやった。
正確には、その周囲にいる『暗黒の反旗』のメンバーだ。
「そっちは、どのくらい動ける?」
「ふ。我の仲間を侮るなよ? 我が魔力切れなこと以外は万全だ」
「なら、本陣の守備を頼む」
それと、ルディランズは離れたところで、座り込んでいたベアトリスを呼ぶ。
眼帯ははめなおしているが、フードははだけている。
魔力切れの状態でテンション高く騒いだせいで、軽い貧血のような状態になったらしい。
「『暗黒』のリーダー」
「む! いいなそれ! なんかかっこいい!! 二つ名にはそれを所望する!」
「残念が、『暗黒』の二つ名持ちはもういる。・・・・・・じゃなくて、おいデイウォーカー」
ルディランズの呼びかけに、またも興奮してぴょんぴょん動きだしたベアトリスは、続く呼び名にぴたりと動きを止める。
それから、妙に格好いいポーズを決め、キメ顔を作った。
「ほう。我をデイウォーカーと呼ぶか。その名の恐ろしさを・・・・・・」
「そういうのいいから。ほれ」
ポーズを決め、何か仰々しいことを言おうとしたベアトリスをさえぎって、ルディランズは血が流れるままとなっている腕を差し出す。
「なんだ?」
「俺の血を吸っていいから、パスをつなげ」
「キサマ! さすがにそれは我らの一族を舐めすぎだ!! 吸血種とて、誰彼構わず血を吸うような獣ではない!」
ベアトリスは、ルディランズの物言いに激昂する。
吸血種は、他者の血を吸うことでエネルギーの補給ができる。
それだけではなく、吸血種にとっては、吸血行為は快楽であり美食であり愉悦だ。
だが、それに目がくらむようなあさましい欲にかられる行為を、彼らは何より恥としている。
「俺がいいと言っている。シェミハルの血だ。何か不満でもあるか」
「不満とかそういう・・・・・・。しぇ・・・・・・。なんだとキサマ・・・・・・?」
ルディランズの口から飛び出した言葉に、ベアトリスはさらに文句を言おうとした口を閉ざす。
シェミハル、という名前は、ベアトリスといえど無視できない。
「『百識』。キサマ、シェミハルの血統なのか?」
「父親がな。母親はドライアドだ」
「ほう! それはきっと、その血は甘露に違いない!!」
ひゃっほう! と叫びだしそうな勢いで、ベアトリスはルディランズのそばへと寄ってくる。
先ほど、吸血種としての誇りから激昂していた、とは思えない、いっそあさましいともいえるほどにうきうきとした足取りだ。
「ええんやね?! 吸ってええんやね?!!」
「いいからさっさとやれ」
「では!!」
もはや口調を取り繕うこともなくなったベアトリスが、小さな口をすぼめ、すう、と息を吸う。
それとともに、ルディランズの腕から流れていた血が、ベアトリスの口腔へと流れ込んでいった。
すう、というひと吸いの後、ごくり、と喉を鳴らし、ベアトリスは身を震わせる。
「おお! これがシェミハルの血!! なんてあまぁいの!!」
んふー! と興奮しながら、さらに吸い込む。
腕から流れていた血をほぼ吸い尽くし、ベアトリスが腕を一撫ですると、その腕にあった傷が消えた。
「傷が・・・・・・?」
「血を吸った対象の傷を癒すのは、吸血種の特性だな」
治癒に当たっていたミリディアの驚きに、ルディランズが説明をする。
えへへ、と酒に酔ったように顔を赤くし、ほふう、と熱い息を吐いて、ベアトリスは頬に手を当てる。
「おいし」
まだ幼さの残る容姿が、妙な色香を漂わせている。
「あんまり見ない方がいいぞ。特性強化されてるから、下手に見すぎると、『魅了』されかねん」
「げ」
魅了、という言葉に、周囲でベアトリスを眺めていた本陣の面々が、慌てて目をそらす。
『暗黒の反旗』のメンバーが、まったく動じずにベアトリスを見ているあたり、よく訓練されているな、とルディランズは感想を抱いた。
「んっふ、気分ええな! これでシェミハル吸い放題!」
「調子に乗ってるところ悪いが、お前のレベルで俺の保護はできんだろ。今回だけだ」
「んぐっ! そんな殺生な!?」
「魔力は戻っただろ。働け」
ルディランズににらまれて、むう、とベアトリスは口をとがらせるも、周囲の視線にやっと気づいたか、こほんこほん、と咳払いを数度。
それから、びし、とポーズをとる。
「ふん! できることならそうするがな! 敵の『破魔』は、我にも効くぞ。『百識』とて、腕での詠唱は封じられたままだろう?」
「だから、パスをつなげって言ってるんだ。パスを通じて、お前の種族特性と魔眼を使う」
「む?」
きょとん、と首を傾げたベアトリスを無視して、ルディランズは戦場の方角を見て、にやりと笑う。
「夜にあれらとやりあうなんざごめんだからな。まずは、戦場を明るくしてやる」
ルディランズは、白木の杖と懐から麻袋を取り出すのだった。
・吸血種
魄猟種という、他の生物を生きている状態で捕食する種族の一種族。
その名の通り、他者の血を吸って、自分のエネルギーに変換できる種族。
吸血種は遺伝することが多い種族特性。
筋力や魔力などが他の種族に比べると平均的に強く、吸血することでさらにその能力は向上するが、種族全体で外部からの刺激に弱い、という弱点がある。
日光に極めて弱かったり、刺激の強い食べ物に対するアレルギーが強かったり、など。
これらの刺激による反応は、劇毒レベルで下手に触れると命に係わる。
そのため、そういった刺激物は避けるのが彼らの基本。
特に、日光は浴びると火傷になり、そのまま放置すれば一時間もしないうちに死に至ることもあって、吸血種の多くは、できうる限りそういった刺激を受けないような生活を営んでいる。
その中で、この類の欠点を一切持たず、吸血種としての利点のみを持つ存在を、デイウォーカーと呼ぶ。
デイウォーカーは、一般的な吸血種に比べると、素の状態でも能力が高い傾向にあり、かつ、吸血時の能力強化の幅が大きい。
魄猟種は、基本的に他人種から嫌われるため、その出身であることは隠されることが多い。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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