魔術殺し(2)
魔術殺し。
その名の通り、魔術を殺すもの。
魔術を減衰、弱体、無効化するもの全般を指す言葉だ。
「ちっ」
舌打ちとともに、ルディランズは体を起こす。
他人の魔術を操作するために、魔術の制御に集中を割きすぎた。
おかげで、魔術を破壊されたときのリバウンドを回避できなかった。
「間抜けをさらした。くそが」
魔術師が魔術のリバウンドを食らうなど、恥もいいところだ、とルディランズは吐き捨てる。
体を起こし、状況の推移を見ようとすると、ミリディアから鋭い声が飛んだ。
「動かない!!」
ルディランズの両腕は、内部から裂けて血があふれている。
治癒魔術では、この場での完全回復は難しく、おそらくこの戦場では使えない。
そもそも、『破魔』の魔術殺しを受けての傷だ。
治癒魔術では効果が薄く、必死に魔術をかけるミリディアだが、傷はふさがらず血が流れている。
「わたくしが」
近くに来ていたユリアが、聖女としての回復術を行使しようか、と進み出るが、ルディランズは、首を横に振った。
聖女の回復術なら、おそらくすぐに使用可能な状態まで腕を回復させられるだろうが、
「ここからが本番だ。消耗するな」
「しかし・・・・・・」
「敵に魔術殺しがいる以上、戦場での回復は聖女であるあんたに任せるしかない。ふりわけるなら、勇者優先だ」
戦場は、続く。
「このタイミング。出てくるぞ」
ルディランズが目を向ける先、森の中から、巨体が姿を現す。
「キマイラ・・・・・・!」
「待て! なんだあれは?!」
本陣のあちらこちらで、驚愕の声が上がる。
森の中から進み出てきた、キマイラは巨大だ。
通常のキマイラより、おそらく一回り大きい。
魔王の力を持っていれば、それくらいは当然だろう。
それが、四体。
「・・・・・・魔王って、分裂するんかよ?」
「キマイラならありえなくもない、と言いたいところだが、違うな。あれは魔王ではない」
聖遣隊のゼットがぼやいたが、ベイナスは首を振って否定した。
腰に提げた聖剣の柄に手を触れつつ、厳しい目でキマイラをにらんでいる。
「あれは、魔王の力を受けただけの眷属。・・・・・・つまり、本命の魔王は、まだあの森の奥にいる」
魔王の軍勢の中でもボスクラス。
魔王軍、というくくりで考えるなら、魔将、とでも称するべきだろうか。
「なるほど、勇者サマには、わかるってわけかい」
「そう感じる、という程度のものだ。だが、信頼してもらっていい。聖具を扱う勇者は、この手の感覚は誤らない」
「でもどうするの? だとすると、あのキマイラを退けて、森の中まで聖遣隊を送る?」
ジェシカも、険しい顔で武器に手を触れたままだ。
だが、その中で、ルディランズは首を振った。
「作戦の判断は、ジェイソンさんがする。変更の通達が来るまでは、やることは変わらん」
「つまり、あれも魔王の取り巻きとして、『紅炎遊撃隊』で処理するってこと?」
無理でしょ、とジェシカは言う。
できなくはないだろうが、犠牲は出る。
だが、
「撤退も視野に入れるべきかもなあ。・・・・・・ああいうのは、『金鎧』のダンナのほうが向いてるし」
「ああ、まあ、あの人なら、ねえ・・・・・・」
なんとも歯切れが悪いが、わからなくもない。
悪い人ではないのだが、とにかく扱いづらい人物なのだから。
「お前たち」
そこに、ジェイソンがやってきた。
「こちらで、部隊の編制を終えた。・・・・・・どうやら、夜を徹しての交戦になる」
「悪いね。ジェイソンさん。俺の力不足で」
「敵の手札が、一つ明らかになった。・・・・・・偵察の成果、と見るとも」
ルディランズの謝罪に、ジェイソンはうなづいた。
そして、
「とにかく、あのキマイラどもをどうにかする必要がある」
「見立てでは?」
「討伐はできるが、半分死ぬな」
ルディランズはもうちょっと楽観視しているが、指揮官はジェイソンだ。
そのジェイソンが言うなら、おそらく間違いない。
「・・・・・・ジェイソンさん。『決戦』で引き込めるか?」
「キマイラだけに限定するなら、二体が限界だ。それ以上は、選別できん」
「ジェイソンさんの作戦は?」
「・・・・・・ジェシカ。『虹の飛島』で、四体仕留められるか?」
「・・・・・・・・・・・・敵に魔術殺しがいる。・・・・・・二体までは確実。三体は、少し怖い。四体全部は、無理ね」
ルディランズが全力で戦えるなら、四体全部もいける。
だが、魔術殺しで戦力が減る以上、その分を計算すると、ジェシカの見立て通りの戦果となるだろう。
「わかった。では、一体は・・・・・・」
「待った」
自分が引き受ける、とジェイソンは言おうとしたのだろう。
だが、それをベイナスは引き留めた。
「聖遣隊で二体引き受けよう。我々なら、消耗も最小限であれの相手ができる」
「この後に、本物の魔王戦が控えているわけだが、余力は残せるのか?」
「あれは魔王ではない。ならば、勇者以外が討伐しても呪いは発生しない」
「それはそうだが」
「だが、魔王の力を受けている。ならば、『勇者』は力を上回れる。一体は確実に屠れるとも」
自信満々に言い切るベイナスに、その場にいる全員は受け入れることにした。
「もう一体は?」
ジェイソンの問いに、ベイナスは聖遣隊メンバーの一人を呼ぶ。
「ソウタ」
「・・・・・・いいのか?」
「ああ、『勇者』として許可する。使っていい」
「そういうことなら」
名を呼ばれたソウタは、一度ベイナスに何事かを問いかけ、ベイナスの力強いうなづきを見て、うなづき返す。
「『虹の飛島』で二体。聖遣隊で二体。敵は魔術殺しを持っている。注意して当たれ」
ジェイソンは、動きを確認した後、ルディランズに向けて告げた。
「聖遣隊に合わせて『決戦』を展開する」
「了解。こっちはこっちでうまくやる」
ジェイソンの言葉にうなづき、ルディランズは近くにいた巡礼騎士の一団の隊長を呼んだ。
「何か?」
「魔術殺しが敵にいる以上、あんたらが張る結界は脆くて、敵を閉じ込める役には立たない」
「それでも、我らは聖遣隊を援護する」
「ジェイソンさんを守ってくれ」
「む?」
「ジェイソンさんは、『決戦』を展開している間、動けなくなる。展開位置は、戦場のど真ん中だ。いくらジェイソンさんでも、無抵抗だと死ぬ」
「なるほど。了承した」
聖遣隊とジェイソン、そして巡礼騎士の一団は、戦闘に向けて動き出す。
・『決戦』のジェイソン・ブラックモーア
『紅炎遊撃隊』の三代目ギルドマスター
巨人の血を引く巨漢の冒険者であり、一等級冒険者。
かなり古参の冒険者で、アビロアの冒険者として一番に名が上がるくらいには有名。
『決戦』の二つ名は、ジェイソンの魂現に由来する。
自分と敵、または選択した二勢力を周囲から隔離する領域を作り出す。
自分が入る場合は、内部で一対一で戦闘をしなければならない。
自分以外を入れる場合は、中の勢力のどちらかが全滅するまで、出入り不可能。
自分が外にいる場合、『決戦』の展開中は行動できない状態になる。
------------------------------------------------------------------
評価などいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




