魔術殺し(1)
「で? あんたは今から何やんの?」
手指で印を組んでいるルディランズを見て、ジェシカが首を傾げた。
「いや、ジェシカ。あいつら勧誘するんだろ?」
「そのつもりだけど?」
「仲間になるんなら、その前に力関係はっきりしとかんとな」
くっくっく、とルディランズは悪い笑みを浮かべている。
その様を、ジェシカはあきれを持って見返す。
「子供っぽいことするのね」
「おいおい。俺の上位互換相手だぞ? 手を抜いていいことなどない」
「上位互換、ねえ・・・・・・」
ふうん、というジェシカのうなづきを背後に、ルディランズは魔術を組み上げていく。
「あんたがそう言うってことは、才能は相当か」
「まあ、魔術師としてはいつまでも俺が上だけどな」
「言ってろ」
そして、ルディランズの魔術が発動する。
*****
戦場から少し小高い丘の上。本陣の近くだ。
『暗黒の反旗』のリーダー、ベアトリス・タヴェルニエは、揺れを感じて目を覚ます。
「うむ」
「お、起きたか。リーダー」
背中に負ぶってくれていたメンバーが、ベアトリスの覚醒を知って、声をかけてきた。
それに、ぼー、とした顔を向けていたベアトリスだったが、
「む」
ふと、何かを感じて、す、と視線を動かした。
そして、その目に映るものを見て、絶句する。
「な・・・・・・」
眼下、自分が広げた影の領域が、その大きさを変えていた。
影が起き上がり、戦場となっていた全域へと腕を伸ばして、魔王の軍勢を取り込んでいく。
「は?」
明らかに、自分が使うよりも高度に、影魔術が動いている。
「な、なんで・・・・・・?!」
そして、気づく。
本陣近くにいるルディランズが、手を組んで印を結んでいる。
さらに、別の印を組んだり、腕を振るったりする都度に、影が自在に動き回り、その威力を発揮する。
「なんだあの男。我らのリーダーの魔術を」
周囲を固めていたパーティメンバーの一人が、ルディランズを見てぼやくが、ベアトリスの耳にはそんなつぶやきは入らない。
ただ、目を見開いて、その景色を眺めるだけだ。
「しゅごい・・・・・・」
「リーダー?」
「ウチの魔術が、あんな・・・・・・あんな・・・・・・」
ほけー、とそれを眺め、慌てて自分を背負っている男の肩をばしばしたたいて、丘の下を指さす。
「ちょ、ちょっと、あっち行こ! あっち。もっと近くで見たい!!」
「リーダー! あんた魔力切れで倒れてんだからな? 落ち着けよ?」
「何いーとんのん!? ウチの魔術よ?! ウチ、あんなんようでけへん。もっと近くで見して!?」
むしろ、背中から飛び降りていきそうなベアトリスを、背負う男は慌てて押さえる。
「素、素が出てるぞ! お嬢!!」
「ああ?! 知るかいな!! ウチ、あれ見たい!!」
きゃっきゃ、きゃっきゃ、と子供のようにはしゃいで駆けだそうとするベアトリスを、なんとか周囲は押しとどめようとするが、ベアトリスは構わない。
しるか、とばかりに、半ば引きちぎるように眼帯をむしり取る。
その下に隠れていた金色の目を、爛々と輝かせ、ベアトリスは戦場を覆う魔術を見ることに集中した。
*****
「なんか、騒がしいわねえ・・・・・・」
ジェシカが見ている方向で、『暗黒の反旗』のパーティーが何やら騒いでいる。
「俺が勝手に魔術を改変しているからな。まともな魔術師なら、プライド逆撫でされて大激怒必至」
「それをあえてやってるあんたは、ほんといい性格してるわ」
「ははは。ほめるなほめるな」
「ほめてはないけどね?」
ともあれ、ルディランズは、魔術をさらに操作する。
他人が発動した魔術、というのは、後から干渉することは、本来困難だ。
魔術に対する影響力は、魔術を行使している術者が、最も強いからである。
ただし、今回のように、術者が制御を手放している場合、その制御権を奪う、というのは、やってやれないことではない。
簡単なことではないが。
なお、そういうことをされると、大体の魔術師はキレる。
自分の魔術を好き勝手に操られる、というのは、自分の作ったものに落書きをされるようなものだからだ。
「まあ、使えるものは利用させてもらうさ。・・・・・・このまま、結界の入口の穴に罠みたいに設置すれば、夜の間、敵の侵攻を考えなくても済む」
ルディランズのいう通り、影の塊はうごめき、平原部に飛び出してきていた魔王の軍勢を軒並み飲み込むと、そのまま雪崩れるように結界に開いた穴へと殺到する。
そのまま、濁流のように結界の内側へと流れ込めば、ある程度敵を間引くこともできるはずだ。
「・・・・・・偵察と観測が、あんたの主任務だったと思うんだけどね?」
「やれることはやっちまった方が楽だよ。それに、早く済ませたいじゃん? こんな面倒ごとは、よ!」
気合の一声とともに、ルディランズの魔術は締めに入る。
影の流れが結界の穴から中へと流れ込み、
「は?」
そのすべてが、内側からはじけるように消滅した。
それと同時に、本陣周囲に浮かんでいたいくつかの魔術の明かりが消し飛んだ。
「!? ・・・・・・百識ィッ!!」
周囲が、一瞬で起こったことに呆然とした次の瞬間、ベアトリスが鋭い声を上げる。
だが、ルディランズは動けない。
「ジェシカ! 前に出ろ。ルディのフォローだ!!」
「わかってる!!」
印を組んでいたルディランズの腕が、裂けて血を吹き出し、周囲を赤く染めていた。
そのまま、倒れそうになるルディランズを、近くに控えていたブレアが悲鳴とともに抱きかかえる。
「ご主人様!?」
「ルディランズ!? ・・・・・・診せなさい!!」
ミリディアが駆け寄り、治癒術を行使する。
「ルディランズ! 何が起こった!?」
騒然となる本陣で、ルディランズは答えられない。
そのルディランズに代わり、本陣に飛び込むように駆け込みながら、声を上げたのはベアトリスだ。
「『決戦』!! 魔術師を下げて、魔術の使用を制限しろ!! 下手な魔術を使うと、『破魔』を食らう!!」
「『破魔』だと?!」
ベアトリスは、金色の目を隠そうともせず、ただ戦場を見据え、魔術師にとって、最悪ともいえる言葉を叫んだ。
「敵に『魔術殺し』がいる!!」
弱い人間が強大な怪物と戦う上で、その言葉は絶望を意味している。
・魔術殺し
魔術師にとっての鬼門。最大の弱点。
魔術、というものを妨害、弱体、無効化する、様々な方法全般を指す。詠唱封じも魔術殺しの一つ。
ものによっては、魔術を行使している術者に反動を返すこともある。
存在を知っていれば対応は難しくないものの、それでも魔術の弱体化や制限は免れない。
身体強化や付与術などのバフにも影響してくるため、魔術師だけではなく、戦士職も影響を無視できない。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




