魔王の軍勢(4)
「ほう。やるもんだ」
戦場の一角に、突然広範囲にわたって黒い沼のようなものが生まれた。
その上に差し掛かった魔王の軍勢は、その沼の中へと飲み込まれていく。
もがいて逃れようとしても、その沼から伸びた手のような形状の暗闇が、その体に巻き付いて、その沼の中へと引きずり込んでいく。
大型小型、魔獣もモンスターも関係ない。
冒険者はきれいによけて、敵だけを正確に捉え、引きずり込んでいく。
特筆するべきは、その効果範囲だろう。
本陣の把握する戦場において、その三分の一程度が、暗闇の沼に飲み込まれている。
なによりも、その使い手がすさまじい。
ルディランズの目には、影魔術を使った魔術師が、魔力切れで気を失い、パーティーメンバーに担がれているのが見える。
だが、使い手の魔術師が意識を失っているのに、魔術の制御は一切失われていない。
敵味方の判別は変わらず、新しく暗闇の沼に踏み込んだ魔獣やモンスターは、変わらず引きずり込まれている。
「・・・・・・『暗黒の反旗』のリーダーか。いい魔術師だ」
「へえ。あんたがほめるとは。本物ね」
「影魔術への適性が、ちょっと常人離れしたレベルで高い。俺にはマネできん」
「あら、ルディでも無理なんだ」
「無理だ」
ルディランズは、肩をすくめて答えた。
二等級冒険者の魔術師として名は売れているが、ルディランズは自分の魔術に対する才能は、基本的に『並』であると思っている。
魔術師として活動するための必要十分条件は満たしているが、可もなく不可もない、これと言って際立った才能もない、と思っている。
唯一特殊なのは、魂現くらいである。
「あの適性は、もう天賦の才ってやつだよ。うらやましい」
「そうなんだ」
「やっぱり、前々から言ってた通り、勧誘したらどうだろう?」
アガットも、戦場の光景を見て、そういう。
以前から話は上がっていたが、実行に移せていなかったのは、『暗黒の反旗』が六人パーティーとして、ある種のスタイルが確立していたからだ。
チームでしかなかった『虹の飛島』に誘っても、やり方の違いでうまくいかない可能性が高い、と考えられていた。
だが、今の『虹の飛島』は、クランである。
パーティーを丸ごと傘下においても大丈夫、ということを考えると、クランとしての対応力を上げる意味でも、勧誘する意味はある。
「俺たち、どちらかというと器用貧乏だからな。あいつらに入ってもらって、特化型の色を入れられると、できること増えるぞ」
「ぶっちゃけ、あそこリーダー中心の姫パだけど?」
「何か問題あるのか?」
ルディランズも、アガットの提案にうなづいている。
だが、そこにジェシカが心配そうな口調で言葉を挟む。
それに対して、ルディランズはきょとん、とした顔をした。
「・・・・・・まあ、リーダーは、なんか俺に敵対心、とまでは言わんでも、反抗心っぽいのは持ってるぽいしなあ。そこがちょっと心配か?」
顔を合わせるごとに、妙に尊大な態度で突っかかってくる。
ルディランズは適当に流しているが、『暗黒の反旗』のリーダーが、ルディランズに対抗心を抱いている、というのは、ルディランズの中では確定事項だ。
「頼もしいじゃないの。今のアビロアだと、表立って俺にケンカ売る魔術師とか少なくなったし」
「・・・・・・そうね。あんたがそれでいいなら、いいと思うわ」
「割とひねくれている割に、人間関係は素直に受け取るよな。ルディは」
「?」
ジェシカとアガットの二人がやれやれ、と肩をすくめることに、ルディランズは疑問を浮かべるが、答える者はいない。
そうこうしている間に、戦場から撤退が開始されていた。
すでに時間は夕方に差し掛かっている。
もう間もなく、夜が来るだろう。
「で? どうするの?」
「何が?」
「『暗黒の反旗』をあそこに送って、魔術を使わせたの、ルディの提案じゃない」
「そうだな。影魔術は、むしろ夜の方が効果が高いんだろう? 夕方とはいえ、まだ日があるうちに使ったのは、なぜなんだ?」
ジェシカの言う通り、本陣で待機していた『暗黒の反旗』を前線に送るよう、提案をしたのはルディランズだ。
今後の作戦の推移を考えてのことである。
「理由は三つ」
「ほう」
「一つ目は、夜に魔術を使わせると、明日使えない。今からなら、休ませれば明日には魔力が回復している。あそこまでの特化火力だからな。使える回数は増やしておきたい」
「なるほど」
「二つ目は、夜にあの魔術を使わせると、確かに効率はいいんだが、その間は戦場が使い物にならん。たぶん、威力が高くなりすぎて、制御ができん」
「あー・・・・・・」
これは、『暗黒の反旗』のリーダーと、影魔術の相性がよすぎるためだ。
だから、威力が高くなりすぎる。
制御ができなくなれば、今は敵のみ捕えているあの魔術が、味方の冒険者たちにも牙を剥くようになるだろう。
「三つ目は?」
「本人がやりたがった。暗くなってからじゃ目立たないからって」
「・・・・・・そうなんだ」
ふうん、とジェシカはにやりと笑ってうなづいた。
「なんかよくわからんが、いい具合にやってくれたみたいだからな。俺の方で追撃を入れるかね」
そういって、ルディランズは、手指を組んで、印を組むのだった。
・姫パ
要は、一人の女性を中心として、残りが男、かつ、男が一人の女性を持ち上げ、尽くすような行動を取って、女性の過ごしやすい環境を作ろうとするパーティーである。
逆パターンのハーレムパーティーもあるが、どちらも周囲のヘイトを集めやすいため、注意がいる。
女性が巧妙に立ち回ってそうしている場合と、天然でそうなっている場合がある。
なお、冒険者は命がけでやばい緊急事態に直面することが多いため、雑なことをやるとすぐ修羅場になる。
追放劇の後にこういう形になったパーティーは、そのあと高確率でざまあ劇を演じる。
ただ、周りを巻き込むことが多いので、発生すると遠巻きにされることが多い。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




