魔王の軍勢(1)
結界に穴が開く。
そのタイミングならば、ルディランズの『眼』は、見通せるだけのすべてを見通す。
はずだった。
「・・・・・・ざけんな」
だが、そのルディランズの視界は、その大部分が歪んでいる。
何かの影響を受けていることは明白だ。
悪酔いしそうな視界に集中し、歪んでいる像から少しでも情報を取ろうと目を凝らす。
「出てくるぞ」
結界に開いた穴をにらんでいたジェイソンが、腕を上げる。
じわり、と結界の穴が揺らいだ。
「手筈通りに、最初は『紅炎遊撃隊』で、魔王軍の対処に当たる。総員、構えよ」
それぞれがにらむ先、結界の穴から、まるで堤が決壊したかのように、魔獣やモンスターの群れがあふれだす。
軍勢を構成するものの種類は、様々だ。
魔獣やモンスターは、野生で生きているものが、魔王の気配に惹かれて集まってきたのだろう。
「かかれい!!」
号令とともに、双方の軍勢はぶつかり合った。
*****
軍勢を含め、ルディランズは視界にとらえ、すべてを見る。
「・・・・・・ジェイソンさん」
「うむ?」
「主力は温存しろ。まだまだ次が来るぞ」
「数は?」
「見えない。・・・・・・だが、いろいろ出てきてるってのに、内部の圧力が減ってない。・・・・・・まだまだ来る、どころの話じゃないな」
ルディランズは、目を凝らす。
そして、違和感の正体を探る。
「・・・・・・妙だ」
「どうした?」
「このあたりに生息報告のないモンスターが含まれている」
「・・・・・・魔王に、寄せられたか?」
ジェイソンの推測は、的外れではない。
魔王には、周囲の魔獣やモンスターを支配するだけではなく、引き寄せる力がある。
また、強大になった魔王には、モンスターを発生させる力もある。
だが、ルディランズは、それは違うと直感した。
「ジェシカ。アガット。いつでも出られるように準備。まだなんかあるぞ」
「はいはーい」
「こちらはいつでも」
二人は、ルディランズの声にうなづいた。
*****
かかれかかれ、と冒険者たちは叫ぶ。
魔王の軍勢は、多種多様だ。
先頭に突っ込んでくるのは、巨体と突進力がある、牛や猪のようなモンスターの群れである。
壁のように突っ込んでくるそれらの前に、冒険者たちは身長より高い大楯を立てて壁を作る。
「起動!!」
壁となった大楯の表面に刻まれた魔術陣が光を放つ。
瞬間、大楯の表面に沿うように、岩壁がつきあがった。
その岩壁を後ろから支えるように、大楯を沿え、さらに体で支える。
轟音と衝撃が、大楯の向こうから響く。
「魔術、放て!!」
ジェイソンの号令が響く。
後衛に控えた魔術師たちが詠唱した魔術が、大楯の向こうへと着弾した。
第一陣の巨獣たち。
それをしのいだところで、次に来るのは小型である。
鋭い牙を持つげっ歯類や、蝙蝠などの飛行も可能なタイプに、蛇などのモンスターだ。
それらは、大楯の作る岩壁を乗り越え、冒険者たちに襲い掛かる。
だが、障害を乗り越えようとするモンスターは、大楯を支える前衛を後ろから守る冒険者たちによって迎撃される。
いかにモンスターの数が多くとも、所詮は小型である。
鍛えられた『紅炎遊撃隊』のメンバーからすると、多少数が多いくらいは、なんなく迎撃できる。
その間に、大楯の岩壁へと体当たりをし続ける巨獣たちと、そこに降り注ぐ魔術の攻撃は続く。
大楯による岩壁の固定が十分、となったところで、大楯を支えていた冒険者はその場を離脱し、乗り越えてくるモンスターの迎撃に移る。
その間にも、戦況は移っていく。
岩壁創成の魔術を仕込まれた大楯を持った冒険者が、二陣、三陣、と続き、一列目の岩壁の後ろに、二列目、三列目と岩壁を作りながら後退していく。
魔王軍は、それらの岩壁を乗り越えるために動きが鈍り、そこを魔術や弓などで狙い撃ちにされていく。
そうして、陣形が出来上がる。
「さすがよね。モンスター相手に、きっちり陣形決めていくんだから」
「ああいうの。有効なんだなあ・・・・・・」
ジェシカとアガットは、それらの動きを見て、感嘆の声を上げた。
人間相手の軍勢だと、なかなか使えない戦術だが、モンスター相手なら、いくらか効く。
「なんかコツあるのかね?」
「岩壁は、大楯の表面に沿うように作られる。向こう側に傾けることがコツだな」
「なんで?」
「返しがある分乗り越えづらく、乗り越えてきたものは後ろから狙いやすいからだ」
モンスターというのは、基本的に猪突猛進である。
策略を使う人間と違い、そういう意味では行動が読みやすい。
ただし、素の能力が高いために、壁なんかはすぐに乗り越えてくる。
こちらが策略を練っても、力業で覆されることがある。
加えて、
「魔王が指揮している。ただ愚直に乗り越えるだけってこともないだろうな」
言っている間に、
「下と上」
鳥型の魔獣やモンスターが、上空から冒険者を狙う。
そして足元からは、地中を掘り進んだ虫などの魔獣がはい出してくる。
「まだまだ続くな」
ジェイソンは、指揮のために声を張り上げるのだった。
・モンスター
異界で発生する、新しい生命。
異形であることもあるが、大体は何かしらの生物の形を模している。
生物型のモンスターなら、繁殖をして野生化することもある。
基本的には、敵対者を見つけるとまっすぐにそちらに向かい、理性や知性、といったものは感じられない。
ただ、そのターゲットの選択方法には一定の法則があるようで、それらを計算して戦闘中の行動を決めるヘイトコントロールは、冒険者ならば必須技能である。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




