開戦
「先行で、あのルディランズ、というのが偵察に出た、と」
ベイナスは、ジェイソンからの報告を聞いて、うなる。
「彼は魔術師だろう? どうしてそこまで偵察が得意なんだ? そういう魔術でも持っているのか?」
「魔術っていうか、能力よね」
ベイナスの疑問には、ノノが答えた。
ノノは、ルディランズと修行していた時代に、その能力については聞いている。
「能力?」
「『魂現』。知ってるでしょ?」
「彼は、発現しているのか?」
「あたしが会ったときには、もう持ってわね」
個人の魂から発現するその力は、個人個人によって大きく違う。
戦闘系もあれば、生産系もある。
ルディランズの能力は、その中でも観測系だ。
「ルディランズの魂現は、魔眼の発現よ」
「魔眼の」
「そう。千里眼、透視、客観視、俯瞰に鳥瞰、魔力視、そのほかもろもろ。未来視以外のすべての魔眼の能力を使うことができるのが、ルディランズの魂現らしいわ」
「・・・・・・すさまじいな」
「それもあって、『百識』という二つ名がふさわしいっていう話になったんじゃないかしら」
ノノは首をかしげる。
説明されたときは、ものすごくいらっとした。
ルディランズの師匠をして、ルディランズだけの個性であり、きわめてすぐれた点、とした能力だ。
ルディランズが、エルフの師から魔術を習うことができたのも、この能力が前提である。
「正直、能力としては反則もいいところよ? 武術だろうが魔術だろうが、全部見切られるもの。隠そうとしても、透視やら千里眼やらで無意味だし」
「つまり、幻術の類も効かないのか」
「空間自体に影響を与える結界とか、魔眼封じとかでそもそも能力を封じない限りは、偵察にしろ観察にしろ、ルディランズがずば抜けてるのは間違いないわね」
ノノの説明を聞いて、ベイナスは、ううむ、とうなる。
「魂現か。私もまだ発現していないものだが」
「誰でもかれでも発現するものでは、ないですからね。あれは」
会話に参加したユリアも、首をかしげている。
ユリアの知る限り、教会に所属している勇者や聖女、あるいは聖騎士や神官たちの中でも、魂現を発現可能なものは数えるほど。
冒険者全体でも、一握り。
それこそ、二等級冒険者全体の数より少ないかもしれない。
一方で、冒険者でなくても、不意に目覚めることがあるのも魂現、というものである。
「しかし、それを発現しているとは、思っていた以上に、トンデモない人物ですわね。彼は」
「言ったでしょ? 帝国でも、五本の指に入る魔術師だって」
ノノは、ふふ、と妙に自慢げに笑うのだった。
*****
「ルディランズ」
戦場近くで待機していたルディランズは、声をかけられて振り向いた。
「お、来たか」
一晩過ぎて、後続が追い付いてきた結果だ。
本陣となる場所の設営に当たっている冒険者たちを置いて、ジェイソンはルディランズに近づいてくる。
「状況は?」
「結界があるせいで、ちょっと観測の精度が落ちてる。ただ、中に相当いるのは間違いない」
「数は出せるか?」
「ちょっと無理だな。結界があるのもそうだけど、それ以外にも、何か阻害している要素がある。・・・・・・キマイラ自体も確認はできてない」
ルディランズが観測した限りでは、森の中に多量の何かがいるのは見て取れる。
だが、それの個々の種別までは判別できていない。
「戦闘開始前に、結界に穴をあけるだろう。そのタイミングで、内部の観測を頼む」
「ああ、少し前に休んだからな。今は万全だ。いつでも」
「うむ」
ジェイソンはうなづく。
「ギルマス」
「うむ」
「本陣の設営。終わりました。そろそろ布陣が終わります」
集められた人数は、三〇〇名弱。
冒険者の軍勢としては、かなり多い。
「よし」
ジェイソンは、準備が整った、と思ったところで、教会から派遣された巡礼騎士を見る。
「結界に穴を開けてくれ」
「了解しました」
粛々と、準備は進んでいく。
「結界に穴が開いたら、まず魔王配下の軍勢が出てくるはず。それに当たるのは、『紅炎遊撃隊』の仕事だから、私たちはまず待機」
ジェシカの説明に、『虹の飛島』のメンバーはうなづく。
「しばらくは、魔王配下の軍勢との戦闘があって、しばらくすれば魔王が出てくるだろう。出てきたら、そこからは聖遣隊に道を作る。そのタイミングが、俺たちの出番だからな」
「・・・・・・タイミングは?」
「ジェイソンさんの合図待ちだよ。とはいえ」
ちら、と見れば、すでにその準備は整っている。
ジェイソンは、周囲に布陣した冒険者たちの軍勢、それぞれに目をやる。
「始めるぞ! ここで敗北すれば、アビロアが魔王の脅威にさらされる! 奮起しろ!!」
ジェイソンが、大声を張り上げた。
拡声も何もなく、隅々まで声が届くあたり、さすがの声量である。
「始めるぞ! 構えろ!!」
ジェイソンの開始の合図とともに、巡礼騎士が持っていた杖を掲げる。
そして、森を包んでいた結界に、穴が開いた。
「・・・・・・!」
その『奥』へと視線を飛ばしたルディランズの顔が、ひきつった。
・魔眼
魔術的には、目に関する能力は、魔眼と邪眼の二種類に分類される。
その中で、魔眼は『目で見る』ことによって、能力が発動する。
見えないものを見る。遠くを見る。ものを透かして見る。などといった観測系統の能力の他、見たものを発火させる。見たものをねじる。見たものに重圧を与える。などといった、干渉系の能力もある。
発動条件がゆるい代わりに、割と防ぎやすく、効果もそこまで並外れてはいない。
弱いものなら能力を持っている、というものはそれほど少なくない。




