対魔王、戦い前(4)
状況は動いている。
作戦会議は、今更することは多くない。
大枠と動き方を確認した後は、それぞれ戦争のための準備に動いていく。
ジェイソンが全体の指揮を執り、準備を完了させていく。
「ここを後方拠点にする」
目的地である森は、ここから歩くには少し距離がある。
だが、一団はここに馬車を置き、戦闘に参加するものと一部の馬車のみ連れて、歩いて近づくことに決まっている。
とはいえ、日は中天に差し掛かっている。
ここから目的地まで移動すると、夕方にさしかかり、戦闘は夜になるだろう。
それを避けるため、ここで野営によって一泊してから、全体は移動することに決まっている。
「後方支援の部隊は、ここに後方拠点の設置を。物資集積所と救護所だな」
魔王との闘いは、配下の群れがいる関係上、大規模かつ長期的なものになりやすい。
だから、戦場から少し離れたところに救護用の拠点を作り、戦場での指揮所とは別にする。
前線にも救護所は置くが、モンスター類の足の速さは、人間のそれをはるかに超えるため、前線を抜けて本陣を急襲するなどざらにある。
本陣に救護所などを置いていると、その襲撃でさらなる被害が出かねないため、ある程度離れたところに後方拠点を置くのだ。
長丁場にそなえて、物資の集積所などを分けておく意味もある。
「残りは、移動を開始するぞ」
ジェイソンの指示を受け、冒険者たちは動いていく。
それぞれに指示を出しながら、ジェイソンは、『虹の飛島』が待機している場所へと近づいてきた。
「ルディランズ」
「あいよ」
「偵察、できるか?」
「先行しろってか?」
ルディランズの問い返しに、ジェイソンはうなづく。
「そうだ。先に行け。こちらは準備が整い次第出るが、お前たちだけならすぐに出られるだろう?」
ルディランズは、むう、とうなる。
それから、ジェシカ達の方を見て、
「どうする? ジェシカ」
「アガットとビアンは残りなさい。私と、ルディランズ。あと、リナスで先行しましょう」
「おっと、おらもかい」
「ふむ。・・・・・・ブレア。お前も来い」
「あ、はい」
地面に座ってぼんやりと左足の脚甲を撫でていたブレアは、言われてひょこん、と立ち上がった。
リナスも身軽にひょい、と近寄ってきた。
ルディランズは、それからフィアマの方を見る。
「フィアマ。パスつなげて、状況の報告はフィアマの方に送るから、ジェイソンさんとの中継頼む」
「はいはい。任せなさいな」
ひらひらと手を振るフィアマにうなづき、ルディランズは、よっこいしょ、と立ち上がった。
「じゃあ行きましょう」
ジェシカの合図で、出発するのだった。
*****
森までの距離は、それほど遠くではない。
歩いて進むとそれなりにかかるとはいえ、半日もかからない。
夕方になる前に、ルディランズ達は森が見える地点まで来ていた。
「で、どうするの?」
目的地の森を見て、ジェシカはつぶやく。
「ちょっと集中する。周りを警戒してくれ」
「森には入らないの?」
「今、あの森は教会の方で結界が張られているからな。・・・・・・下手に踏み込んで、そこが穴になると困る」
魔王出現の『啓示』があった時点で、教会はその周辺地点に結界を張っている。
内側からは破りづらいが、外側からは割とあっさり破ることができる。
「さて、と」
ふう、と深呼吸。
それから、兜を操作して、横一線のスリットの入ったバイザーを下ろす。
この兜は、かつてルディランズが攻略した、宝物殿で見つけたアーティファクトの一つだ。
効果は、視界を狭め、集中力を増すものである。
「やるか」
ゆっくりと息を吸い、またゆっくりと吐き出す。
「『魂現』解放」
ルディランズにとっての切り札が、展開される。
*****
ルディランズの目には、森の中の光景が映る。
それこそ、ルディランズにとって、最大の持ち味。
おおよそ、ルディランズの目で見えないものはない。
未来以外は。
*****
「今のところ、森には動きなし」
ルディランズからの通信を受け取り、フィアマはジェイソンに報告を上げる。
「確認できる限りでは、森にいるモンスターや魔獣は、相当数になるみたい。・・・・・・明日の戦いは、少し長丁場になるでしょうね」
「そうか」
ジェイソンは、静かにうなづいた。
夕方、夜の闇が迫りつつある。
「ルディランズ達は?」
「今日はこのまま、監視状態で待機するそうよ。・・・・・・ただ」
「ん?」
「何か、不穏な気配があるから、注意しろって」
「ふむ」
ジェイソンは、しばらく顎に手を当てて考えていたが、
「まあ、魔王相手だ。不穏でないわけもないか」
そう言って、自らを納得させるのだった。
・魂現
魂に由来する何かを、発現させる能力全般を指す言葉。
基本的には、『剣術』『魔術』といった、何かしらの異能という形で権限する。
あるいは、武装や道具という形で具現化することもある。
使い手の欲求や本質に由来するものであり、その発現の形は個人個人で違う。
ただ、どんな能力であるにせよ、使い手の切り札になりえるだけの強力な能力である。
ちなみに、冒険者レベル一〇〇に達すると、冒険者ライセンスのバフ効果で、疑似的な魂現が使えるようになる。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




