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対魔王、戦い前(3)

 がやがやと人が動いている。

 馬車の群れとなっていた一団は、一度停止し、休憩の準備に入っていた。

 それは、今後起こるであろう魔王との闘いの前の、最後の休憩となるだろう。


 天気はとてもいい。

 青空に白い雲。

 周辺は広い草原で、駆け抜ける風はさわやかだ。


 そんな中心で、煮炊きをするものと、作戦を確認するもので、集団は分かれている。

 会議に参加していた面々と、パーティーでのリーダーが作戦会議に参加している。


「さて、キマイラの魔王について、注意点とか、話していこうか」


 そういって、中心に立ったのは、ルディランズだった。



*****



 ルディランズは、会議に参加する面々を見る。

 割と豪華な面々だな、とのんきな感想を持ちつつも、ルディランズは説明を始めた。


「まず、今回のターゲットは、キマイラ。魔王となっていると思われる」


 ルディランズは、聖遣隊のメンバー、特に勇者ベイナスへと目を向ける。


「キマイラの魔王との戦闘経験は?」

「一度。初めて戦った魔王がキマイラだった。・・・・・・もっとも、その時は、他に先輩勇者が一緒だったけれど」

「ふむ」


 なるほど、とルディランズはうなづいた。

 ルディランズとしては、自分の知識を開示してもいいが、その前に戦闘経験から語ってもらった方がいいだろう、とベイナスに促した。


「では、その経験から、キマイラの魔王との戦闘で気を付ける点を説明をお願いしたい」

「承った」


 ベイナスが立ち上がる。


「まず、魔王となった存在全般に言えることだが、基礎能力が大きく向上する」


 魔王かそうでないか、だけで、脅威度は大きく違う。

 また、魔王となった存在が持っている能力は、効果範囲や威力が大きく上がる。


「例えば、炎を吐いていたが、キマイラが吐く程度の炎というと、水で打ち消せたりもするが、魔王となったキマイラの場合、鉄どころか耐火装備ですら焼き尽くすほどの高温になることがある」


 他にも、一連の能力は向上しているだろう。


「加えて、配下となった魔物やモンスターをけしかけてくる。単純なキマイラとは比較にならない」


 ベイナスはそこまで言って、腰を下ろす。


「キマイラって、魔王としては強い方?」


 はい、と挙手したジェシカが質問を投げる。

 それに対して、ベイナスはうなづく。


「まず、元となったキマイラが強い。それがさらに強くなる以上、かなり強い。・・・・・・ただ、教会では、キマイラについてはある程度対応策ができている」

「なんで?」


 ベイナスの説明に、ジェシカが首を傾げたが、それについての回答をしたのはルディランズだ。


「数が単純に多いからだな」

「数?」

「確認されている魔王のうち、三割くらいはキマイラだからな」

「え? そんな多いの?」

「多い。・・・・・・もっとも、これは確認できている分だけだが」


 魔王は、生まれた時から魔王である。

 ただ、生まれたばかりの魔王は、必ずしも強いわけではない。

 赤子だからこそ、生まれたばかりのころは簡単に殺せてしまうこともあるのだ。

 それで自然界の中で、脅威となる前に死んでしまう魔王も少なくない。


「ちなみに、魔王として生まれるキマイラは存在しない」

「おおーい。なんか矛盾してない? 一番多いのがキマイラなんでしょ?」

「説明した通りだよ。キマイラは、生まれるんじゃない。一定以上の吸収進化を果たした個体が分裂するんだ。だから、誕生っていう生態がないから、魔王には本来なりようがない」


 だが、そこで問題となるのは、キマイラの性質だ。


「キマイラには、捕食融合、捕食進化の能力がある」

「あ、まさか・・・・・・」

「そう。キマイラが、生まれたばかりのまだ弱い魔王を捕食して、その能力を取り込んだ結果、キマイラが魔王になる。・・・・・・キマイラは強い魔獣だからな。ある程度育った魔王でも捕食することはよくある」


 ついでに言うと、魔王は脅威になるまで成長しきる個体はそれほど多くない。

 その前に他の何かにやられてしまうことが多いからだ。

 だが、魔王を捕食したキマイラは、その時点で強い。


「教会の『啓示』は、魔王の側にある程度の強さがないと反応しないからな。キマイラが捕食吸収して初めて感知されるってのも、まあ、わからんでもない」


 ルディランズの説明に、むむ、とうなる声が上がる。


「で、ここからが厄介な問題だが」

「ん?」

「キマイラは、普通一度に捕食する量に限界がある。十年に一度くらいの割合で、適当に食いだめしたらもう食べないもんだ。・・・・・・だが、魔王になったキマイラには、この捕食上限が存在しない」

「つまり、時間を置けば置くだけ強くなる」

「しかも、普通のキマイラは一定以上食うと分裂するが、魔王になったキマイラは分裂しないから、食った分だけ力をどんどんため込んでいく」


 厄介な存在である。


「できるだけ発見から早いうちに倒すことが必要、ということね」

「それだけじゃない。配下になったモンスター類を食うと、傷が回復する。それもあって、周囲との引き離しが重要になるんだが」

「なるほど」

「それから、魔王と戦うときの最大の注意点」

「何?」

「呪いについてだ」


 むしろ、対魔王となると、これが最大の脅威になる。


「呪いって?」

「魔王は、死ぬとき、自分を殺した存在に呪いをかける。・・・・・・呪いの効果は千差万別。軽いやつもあれば、命に関わるものもある。呪いの回避には、勇者が使える聖具が必要だ」


 なお、聖具を代償なしで使えるのが勇者である。


「まあ、魔王の呪いを受けてるなら、聖具使えるけど」

「・・・・・・それ、一応教会の機密情報なのだが・・・・・・」

「教会が秘匿しているとしても、知ってるやつは知ってる情報だし」

「そうかもしれないがね」


 ルディランズは、ベイナスの苦言を聞き流す。


「魔王を殺すと付与される、『魔王殺し』っていう『称号』で、聖具が使えるようになる。・・・・・・まあ、今回は、勇者サマがいることだし、考えなくてもいいだろう」


 ともあれ、


「やることは変わらん。聖遣隊が魔王を倒すまで、それ以外は、他を魔王に近づけないようにする。あとは、まあ、適当に援護だな」

「魔王に対して、援護はいらないか?」

「いや、ジェイソンさん。魔王のキマイラで難しいのはそこなんだ」

「?」


 ルディランズは、やれやれ、とため息を吐く。


「キマイラは、取り込んだものの力をそれぞれの部位で行使する。当然、魔王の力もそれだ。だが、下手に勇者以外が魔王の力を持った獣の部位を殺した場合、そいつが魔王の呪いを受けることになる。だけど、魔王の力を持っている獣の部位がどこなのか、それを判別するのは、まず無理だ。だから、援護もリスクが高い」

「む」

「つまり、キマイラの魔王と戦うときは、聖具が使える存在以外は、戦闘に参加するのが厳しい」

「問題ないとも。聖遣隊で主に攻撃を担うのは私だ。皆にはサポートに回ってもらう」


 ベイナスは、自信満々に告げる。

 だが、ルディランズには不安があった。


「・・・・・・ノノは大丈夫なのか? ごりごりの攻勢魔術師だろう?」

「手加減くらいできるわよ!」

「心配だなあ」


 心外だ、と叫ぶノノに、ルディランズはなんとも言えない顔を向けるのだった。

・称号

二つ名とは違う、世界から付与されるもの。

『力ある隣人たち』は、この世界から去ったとはいえ、そのあともこの世界の観測はしており、その観測の中で何か偉業を成した存在などを見つけると、その偉業を称える『称号』を与える。

『称号』は、付与されるだけで、その付与をした『力ある隣人たち』の加護を受けることになり、称号が表す何かしらの付与効果が発生する。

代表的なものとしては、『魔王殺し』『竜殺し』『巨人殺し』『精霊食い』など。



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評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

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