対魔王、戦い前(1)
アビロアに限った話ではないが、基本的にこの世界の都市は、頑丈な壁に囲まれている。
とはいえ、この壁はそれほど高いものでもないし、頑丈でもない。
見上げる程度には高くとも、ある程度の能力を持つ冒険者ならたやすく飛び越えられる程度の高さしかない。
石やレンガを積んだ程度の壁など、魔術を使えばたやすく崩すことができる。
それでも、壁で囲むことは重要だ。
壁の役割で最も大きいのは、異界対策である。
壁で囲むことで、壁の内側を一種の結界として設定し、都市内部で異界が発生しないようにするためのものである。
とはいえ、都市壁に囲まれた都市に暮らす市民は、その多くが都市壁に阻まれて、都市の外を見ることはない。
*****
朝になる。
都市壁は、その内側に一定の広さの建物がない広場がある。
日常としては、市場が開かれ、市民が集ってにぎわう広場だが、今日は別の意味でにぎわっていた。
その中心にいるのは、聖遣隊の面々。
特に、勇者ベイナスと、聖女ユリアである。
ともに、特殊な能力を有し、教会の後押しもあって、人類の希望として名高い存在である。
二つ名を持つ一等級、二等級の冒険者と並んで、帝国民のあこがれとも言える存在である。
聖遣隊の到着は、事前に市民に周知されていたこともあって、彼らの姿を見ようと集っている姿があるのだ。
加えて、『紅炎遊撃隊』のギルドマスター。
アビロアという都市に三人しかいない一等級冒険者の一人である、『決戦』のジェイソン・ブラックモーア。
そのジェイソン率いる、『紅炎遊撃隊』の中でも有名なトップ冒険者チーム。
含まれるのは、二等級冒険者『火尖』のウルリッヒ・ショーン、『赤華』のマリー・オブ・リグをはじめとした、三等級冒険者も多く含んだ主力メンバーである。
ほぼ全戦力といってもいい。
これだけでも、アビロアの主戦力である。
さらに、最近急速に名を上げつつある、『虹の飛島』がいる。
二等級『百識』のルディランズをはじめとして、ジェシカや、アガットといった、最近では一緒に行動することの少なくなった、『虹の飛島』の初期メンバーが集っている。
さらに、『アトベンチャラーズ』から派遣された三等級冒険者のチームや、協会からのクエストを受注した一定ランク以上の実力を持った、小規模な冒険者パーティーなども多い。
朝の広場に集まっているのは、アビロアを代表とする冒険者戦力だ。
馴染みのない聖遣隊もそうだが、市民にとっては馴染みのある冒険者も多い。
アビロアの中で有名な冒険者には、『二つ名』はなくとも、市民からあだ名をつけられている冒険者も多い。
「・・・・・・さて」
結構派手だねえ、と思いつつ、ルディランズは仲間の様子を見る。
派手、というのは、周囲の観衆から向けられる歓声もそうだが、それよりも冒険者たちがつけている装備に向いている。
やはり、主戦力ともなる冒険者たちの持つ装備となると、見栄えがいいものが多い。
かくいうルディランズも、いつもの地味なコートの他に、後頭部を覆う兜や、首飾り、両腕にアクセサリーのようにリングをつけている。
「俺らとしても、こういう派手な出陣は初めてかね?」
ちら、と見る限りにおいては、割と慣れているメンバーはそうでもないが、
「ま、ビアンががっちがち」
「あの子、もうちょっと図太くなればいいのに」
やれやれね、とジェシカが肩をすくめる。
ビアンは、周囲の面々にばしばし肩や背をたたかれているが、ロクに返事も返せていない。
今回の作戦では、『竜の飛島』の主な指揮はジェシカが執るが、後詰の指揮はビアンの仕事だ。
ルディランズやアガットがいるから、と気を抜いていたところで、お前指揮官だから、と指示されて、固まってしまったのだ。
アガットとしては、多少同情しなくもないが、やらせることには意味があると思っている。
「アガット。準備は?」
「終わっているよ。むしろ、そっちは大丈夫なのか? ルディ」
ルディランズに声をかけながらも、アガットの視線はブレアへと向いている。
ブレアは、というと、軽装だ。
ただ、左足に新品の脚甲。右足首には、アクセサリーのようなリングをつけている。
「装備はきっちり整ったからな。なんだかんだ、準備は間に合ったよ。さすが俺」
「じゃなくて、だ。ブレアは、冒険者としては活動経験が浅いんだろう? それで、うちに来ての初クエストがこのクエストってのは、荷が重すぎやしないかって話なんだが?」
「大丈夫だよ。俺がいるからな」
「その自信はどこから来るんだ? 毎回毎回」
「確証のない自信は持たない。魔術師の性質だ。信じていいさ」
「お前のことは信じてるけどよ」
からからと明るく笑うルディランズに、多少不安げな視線を向けながらも、アガットはうなづく。
「じゃ、俺たちは準備完了だな」
「・・・・・・ルディランズ」
「おうよ?」
「今回のクエスト。どう思う?」
「ちょっとやばい」
「・・・・・・そうか」
「心配すんなって、やばくても、まあ、竜と戦った時ぐらいだから」
「いや、あの時俺たち、普通に死にかけてるからな?」
「でも、結局勝ったろう?」
「そういう問題じゃねえよ」
「ははは。心配するな。お前もジェシカも、もちろん俺も、あの時より強いんだから」
「・・・・・・そうかな」
「そうとも」
「そうか」
そうか、とアガットはもう一度うなづくのだった。
・冒険者への人気
冒険者は、現代においては主流の職業である。
異界に挑み、モンスターのドロップ品や様々な宝物を持ち帰り、英雄譚を作り上げる冒険者は、力なき市民のあこがれでもある。
聖賢隊や皇帝が認めた騎士なども人気は高いが、一般市民からは少々縁遠い存在であるため、身近な冒険者の方が人気が高い。
都市内では、二等級以上でなくとも、有名な冒険者には『二つ名』ではなく、『あだ名』がつけられることもある。
そういった冒険者が集まり、クエストに出る際には、都市の入り口となる大門前広場に集まることもあり、その際には観衆が集まり、一種の祭りのような状態になることもある。
ちなみに、そういった祭りのような状態は、都市の運営に支障をきたすため、そういう集合からの出発は、影響の少ない早朝に行うように、というのが、暗黙の了解となっている。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




