閑話:ルディランズ(4)
「スフィンクスの三問目?」
ジェシカとミーシャから、ルディランズが二つ名を得た当時のことを聞いたブレアは、ふとした機会に、ルディランズにそれを聞いていた。
「はい。ご主人様が正解を言ったと」
「・・・・・・ああ、あれか」
少し考え、思い当たったのか、ルディランズはぽん、と手を叩く。
それから、うーん、とルディランズは唸った。
「ぶっちゃけ、あれで『百識』って名付けられるのは、ちょっとなあ・・・・・・」
「?」
ルディランズは、ぽりぽりと頬をかいた。
分不相応、あるいは、役不足。
そういうものを割り当てられ、困った、というような感じだ。
「ええっとな?」
本当に、大した話ではなく、どちらかと言えば、知識よりとんち寄りだ。
だから、百の識者と比べられても、ルディランズとしては引いてしまう。
「あの時はなあ・・・・・・」
******
ぶっちゃけて言ってしまうと、ルディランズに、スフィンクスに対する勝算があったわけではなかった。
あとでこれを言ったら、ジェシカには思い切りはたかれたが。
とはいえ、命を賭けるつもりも、毛頭なかった。
スフィンクスは、問いに正しい答えを返せなければ、頭からばりばりと食べてしまう。
だが、この時に、身代わりを置いて逃げることは、決して不可能ではなかった。
三問答えるまでは逃げられないが、逆に言えば、三つ目の問いまで生き残っていれば、逃げ帰ることはできるのだ。
ついでに言うと、もう一つ、異界の中に入ってから逃れる術はあった。
「汝、我が問いに答える者か?」
ルディランズが、スフィンクスの前に立った時、そんな声が降ってきた。
スフィンクスは、巨大であった。
足元に立ってみれば、小さな山のようにも見える。
高さにして、十メートル以上はあるだろう。
胴の長さは、二十メートル以上あるだろう。
全体的に金色に近い黄色の体色をしており、獅子の体、鷹の羽を持つ。
そして、人の顔がついていた。
たてがみが立派だったから、おそらくオスだな、とルディランズはあたりをつけた。
その姿は、いっそ神々しくすらあった。
体は、獣の部位がいくつか混じった混合獣、というやつだが、その身から感じる神々しさから、神獣なのだろう、と分かる。
問いに答えず、ただその姿を見るためだけに、この宝物殿の前まで来る者がいる、というのも頷ける。
「答えよ」
ルディランズに向かって、再度声が降りてくる。
この問いに、是、と答えれば、異界の中にいる他の者は、すべて異界の外へとはじき出され、この異界は、ルディランズとスフィンクスの問答の場、となる。
逆に、この問いに答えず、後ろを向いて異界から出ていけば、何もされないし、何も起こらない。
だが、ルディランズは、はっきりと答えた。
「そうだ。俺が、貴方の問いに答える者だ」
「よかろう」
それから、スフィンクスの問いが始まった。
ルディランズは、気楽な調子だった。
今までの問題のいくつかは、外で情報収集していたものが、売っていた。
それを買い、一問目と二問目は、大体どんな問題が出るかは知っていた。
といっても、確認されている限りは、一問として、同じ問題が出たことはなかったらしい。
あくまでも、確認されている限りは、だ。
異界から弾きだされるとはいえ、異界の中の情報を収集することはできる。
ただしそのためには、中で問いに挑む者が、それ用の魔道具を持ち込んでいる必要があった。
今回、ルディランズはそれを持ち込んでいない。
「それがなければ見えないがそれは目に見えない。
それは闇を消すものである。
それは影を生むものであある。
昼にもあり夜にもある。
これは何か」
「光」
「是」
光がなければものは見えない。
だが、光そのものを見ることはできない。
光は闇を消すが、光は影を生む。
昼には太陽の光。夜には星の光がある。
「それは、世界を作ったものである。
それは、世界を壊すものである。
それは、この世界から失われたものである。
それは、誰もが持っているものである。
それは、理解をもたらすものである。
それは、誤解を生むものである。
それは、何か?」
「ことば」
「是」
かつて、『力ある者たち』は、力あることばで世界を作った。
今の魔術の元となったものだ。
世界を作ったことばは、そのまま世界を壊すことばにもなる。
『力ある者たち』が、『力ある隣人たち』となり、世界から去った以上、正しい力ある『ことば』は失われた。
それでも、力はなくとも、言葉は誰もが持っている。
二つの問いに立て続けに答え、ルディランズは、ふう、とため息を吐いた。
仰々しい物言いではあるが、一問目と二問目は、割と正解できる問題である。
外で情報収集しているものの中には、これらの問いと答えをまとめて、書物にして出版してやろう、などと企んでいた者もいた。
「では・・・・・・」
そして、スフィンクスが次の問いを発しようとしたが、ルディランズはそれを無視して先に進んだ。
スフィンクスは、それを止めなかった。
そのまま、ルディランズはスフィンクスの脇をすり抜け、宝物殿の中の宝物と異界核を回収し、外に出て異界を攻略した。
******
「・・・・・・え?」
ブレアが、信じられない、という顔をした。
「ご主人様。三問目に答えていません、よね?」
「確かに、三問目には答えてない。だが、三つの問いには答えたぞ」
「え?」
ルディランズは、苦笑した。
「最初に、お前が問いに答える者か、と問われたから、そうだ、と正しく答えた。その後、二つの問いに正しく答えたんだから、”三つの問いには正しく答えた”」
「・・・・・・・・・・・・屁理屈では?」
「だから言ったろ? とんち寄りって」
「・・・・・・」
ブレアの、呆れたような視線が痛い。
「じゃあ、『百識』って・・・・・・」
「んー。・・・・・・まあ、スフィンクスの嫌味というか、皮肉というか・・・・・・」
「えええ・・・・・・」
百人の識者も答えられなかったのは事実だ。
それをとんちで突破されたのだから、嫌味の一つも言いたくなったのだろう。
そして、スフィンクスは賢い。
そういう発言を聞きつける者がいれば、それに応じた二つ名がつくことまで、予想していたに違いない。
「・・・・・・未だに、酒持ってくとぐちぐち言われるんだよな。あの神獣、僻みっぽくていけねえ」
「え? スフィンクス。まだいるんですか?」
「いるぞ? 異界の中にいる生物は、異界の崩壊後外に出る。外の環境で生きていけないなら死ぬけど、スフィンクスは神獣だし別にどこでも生きていけるからな。普通に今もアビロアの近くに住んでる」
「えー・・・・・・」
会話ができて、神獣としての力を持っていて、礼儀正しく接すれば相応の返しをくれる。
特に、その知恵で様々な問いに答えてくれるため、役立ってもいる。
代償として、時折ルディランズを呼びつけては、問いを投げつけてくるのだけが厄介だが。
「・・・・・・そのうち、またクエスト来るから。その時はお前を連れて行ってやる」
「できれば、そんな機会はこないままがいいです」
・神獣と魔獣
神族、魔族がそれぞれに能力を与えた生物。
どちらも、それぞれの種族との戦争のために作られている。
神獣は基本的に雑食獣か草食獣、魔獣は基本的に肉食獣がベースになっている。
大体の場合、神獣は知性的で、魔獣は暴力的。
神獣は守りに使われることが多く、魔獣は攻めに使われることが多い。
性質的に、神獣は人間と交流することが多く、魔獣は敵対することが多いため、人間としては神族の方が味方と見る方が多くなる要因となっている。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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