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試合後(5)

 ノノは、ルディランズとの出会いを思い出す。

 ルディランズの師匠は、弟子として受け入れることは難色を示したが、ルディランズに模擬戦で一回でも勝ったら認める、とそう言った。


「あまり、歓迎されていなかったんですか?」

「いいえ。先生も、そのお弟子さんたちも、普通に歓迎してくれていたわよ? 弟子にできるんだったら、たぶんそうしてくれていたと思う」

「? ルディランズさんはよくて、ノノはだめだったんですか?」

「そうね」


 ルディランズの師匠は、非常におおらかで穏やかな人物である。

 ただ、魔術を教える、ということに関しては、かなり必死な

 ユリアにとっては、納得しがたいかもしれないが、今のノノなら納得できる。


「仕方ないわ。ルディランズの師匠って、エルフだったんだから。エルフじゃない弟子なんて取っても、教えられること限られるもの」

「・・・・・・? ルディランズさんも、エルフじゃないですよね?」

「そこは、ルディランズが特別だから、としか言いようがないわね」


 見た目にはわかりづらいが、ルディランズはエルフに近いところがあるらしい。


「それ、ルディランズさんの魔術の腕がいいことと関係が?」

「ある意味ではあるわね。といっても、先生曰く、魔術バカすぎて、体質が変わったらしいけど」


 ルディランズについても、当初は弟子にするつもりはなかったが、その体質の変化を見て、弟子にしないと逆に危ないと思ったそうだ。

 といっても、出会った当時のノノは、そんな事情など分かるわけもない。


「正直ね、模擬戦をやれって言われたとき、負けるなんて思ってなかったわ」


 だが、負けた。それも完膚なきまでに。

 その負け方は、とてつもなく屈辱的だった。

 何せ、ノノが放ったすべての魔術、幼いなりに自分で考え出したオリジナルの魔術まで、すべてを同じ魔術で返され、上回られた。

 すべての魔術の構成を完璧に見抜かれたのだ。


「それだけだったら、いつか覆してやるって思えるんだけどね」


 はあ、とノノは大きくため息を吐いた。


「あたしが先生に教えられていた時間は、一年程度の話だったけどね。あたしの力は、その一年の方が、今までの人生の中で一番伸びたわ」


 それは、基礎的な内容に終始したとはいえ、指導をしてくれたルディランズの師匠のおかげでもある。

 だが、何よりも一年間模擬戦に付き合ってくれたルディランズに対する気持ち、ノノの負けず嫌いなことこそ、最大の理由だろう。


「なるほど」

「でも、その一年で、ルディランズはもっと伸びてた」

「え」

「笑うしかないわよ。出会った時点であたしよりあいつの方が強かったのに、一年経ったら、縮むどころか差が開くんだから」


 ノノにしてみると、ある種の悪夢だった。

 しかし、とにかく挑み続けた一年である。


「あきらめる気はなかったんですか?」

「先生に励まされたし、それに、なんだかんだ成長は実感できたから」


 ノノは、あの日々を懐かしむ。

 今の魔術師としての人生には、間違いなくあの日々が根底にある。


「結局、最後の日まで勝てなかったわね」

「今は、悔しいとは思わないんですか?」

「思うわよ? ただ、それで弱くなられたら、それはそれで腹立つわ」

「・・・・・・複雑ですねえ」

「まあ、自分でもそう思う」


 くすくす、とノノは笑った。



*****



「・・・・・・でも、実際に、ルディランズさんって、本当にそこまですごいんですか?」

「どうして?」

「レベル。二六って聞きましたけど?」

「・・・・・・確かに、ルディランズのレベルは二六よ。でも、あいつ、レコードホルダーでもあるの」


 ノノは、説明する。

 協会が定める、試練迷宮を利用したレベルの測定制度には、単純に突破した部屋数によるレベル数以外にも、突破の方法による分類もある。

 たとえば、入った直後に六面の壁のどれかを魔術で突破した場合、次の部屋の正面以外の壁は魔術での開扉にはすさまじい耐性を発揮するようになる。

 つまり、同じ系統の手段で部屋を突破するには、同じ方向に進み続けることになる。

 部屋をどの方向に何部屋進んだか、を分析すれば、レベルの内訳も見ることができる、というわけだ。


「だから、あまり表には出さないけど、その傾向の分析で、記録とか取ってるわけ。・・・・・・で、その中に、一部屋の平均突破時間っていうのがあるの」


 最低十部屋以上を突破した上での平均突破時間だが、一般的な平均は、一部屋あたり数十秒かかる。


「ルディランズの記録は、一部屋あたり、一秒ちょい」

「・・・・・・早すぎませんか?」


 試練迷宮の一部屋は、二五メートルの立方体だ。

 端から端に移動するだけも数秒かかるものだ。


「ルディランズは、最初の部屋に入った直後に、魔術の詠唱を開始。それから、一発の魔術で二六部屋の壁をぶち抜いたわ」

「・・・・・・可能なんですか?」

「理論的には、レベル一〇〇の壁を突破できる魔術なら、その魔術だけで途中までの壁なら全部突破できるわ。理論的には」

「なんで念押しするんですか?」

「効率がクソ悪いから。上級じゃすまないレベルの魔術をレベル一から使っていくとか、アホでしょ」

「それはまあ」


 ただ、それはそれとして、


「一発で複数の壁を突破するってできるんですか?」

「理論的には、の部類よ。それも。詠唱に二八秒。レベル二六の部屋を突破するまでに、さらに三秒。合計三一秒で、ルディランズはレベル二六に到達した。・・・・・・協会が持っている、一〇〇レベル到達の推定時間でもぶっちぎりのレコードホルダー。協会も、そういう情報は隠してないから、調べれば教えてくれるわ」


 だから、そういう情報を知っている人間は、レベル二六だからって、ルディランズを舐めたりはしない。


「レベルを上げない理由は知らないけど、もしレベルを上げる気になったら、魔術だけで一〇〇越えするんじゃないかしら?」


 ノノは、肩をすくめる。


「むかつくわよね」


 ノノは、そう笑うのだった。

・レコードホルダー

試練迷宮での攻略傾向などを協会が分析した結果での、記録。

協会がクエストを仲介するときなどの参考にもなる。

どの方向に試練迷宮をクリアしたのか。

一部屋をクリアするのにどのくらい時間をかけたか。

そういった情報から、冒険者の能力を分析する。

ライセンスが与えるバフや、スキルにも影響するはずだが、それらの細かい仕様は実は協会でも把握していないため、その研究のためにもこれらのデータは使われている。



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評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

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