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試合後(4)

「それにしても・・・・・・」


 ユリアは、ノノを見やる。

 昼間と恰好は同じ。

 上に羽織っていたローブを脱いで、三角帽子を外しているため、鮮やかな赤毛がよく見える。

 どういうわけかローブを着て、帽子をかぶっているときは、ノノの髪はふわりとウェーブするが、それらの衣装を外すとするりとしたストレートになる。

 昼の日の明かりの下では、ウェーブした髪が光を乱反射して輝いているように見えるが、こうして夜の恰好にランプの淡い明りが当たると、ストレートの髪がヴェールのように体を覆い、どこか不可思議な雰囲気が漂う。

 そういう昼と夜の雰囲気の差を知ると、たとえ小柄だとしても、ノノを子供っぽいなどと思うのは難しい。

 

 白湯で口を湿らせ、少し気分を入れ替える。


 じっと見ていると、女のユリアでも、少々不思議な高揚を覚える。

 それくらい、夜のノノには雰囲気がある。


「あのルディランズという魔術師、それほどの方なのですか?」

「あたし、思い切り負けたけれど?」

「それはそうですが・・・・・・」


 ユリアとしては、その負けも少々納得がいかない。

 そもそも、


「ノノのあれは、全力でしたか? 普段、安定しないから二属性の並行詠唱などしないではないですか」

「そうなんだけど、あいつ相手の場合、単一属性じゃ届かないもの」

「それに、魔術にもっと手数を足すでしょう。いつものノノなら」

「いつもならね。でも、ルディランズ相手だと無駄だから」

「無駄って?」

「魔術を並列で起動すると、当然だけど制御が甘くなるでしょ? そういう隙は絶対見逃さないから。あいつは」

「ノノ。・・・・・・なんていうか、貴女らしくありません」


 ユリアにとって、ノノは一番古い仲間だ。

 聖女として認められ、一番最初に仲間になってくれたのはノノだった。

 聖女の回復能力は、大別して二種類に分けられる。

 回復が早い代わりに重大な怪我や病は回復できないか、重大な怪我や病を回復できるが回復に時間がかける必要があるか、だ。

 前者は大体が聖遣隊や巡礼騎士の一隊に組み込まれ、辺境への派遣や危険な魔獣の討伐などの任務に当たる。

 ユリアがこのパターンだ。

 ユリアの場合、比較的大きな外傷の回復が可能なこともあって、勇者ベイナスと組まされることになり、聖遣隊への所属となった。

 ただ、その前にいろいろあって、結果的にノノと仲良くなった。


「・・・・・・」


 第一印象はよくないタイプの出会い方をしたけれど、今のユリアにとって、ノノは親友である。

 そんなノノの能力を、ユリアは一切疑っていない。

 だからこそ、最初から負けを認めているノノの姿勢が、どこか気に入らない。

 そういう不満が顔に出ていたのだろう。


「納得いかない?」


 ノノは、ユリアの顔を見て、苦笑を浮かべていた。


「ノノ。貴女は、最高位の魔術師じゃないですか」

「そうね。・・・・・・帝国に何百人かいる、『最高位の魔術師』の一人ね」

「ノノ」


 皮肉が混じった口調に、ユリアは思わず咎めるような声が出た。

 ユリアが思うに、ノノの実力はそういった何百人もいるような『最高位の魔術師』の中でも、さらに上位だ。

 友人としての主観的な評価ではなく、客観的な評価だと思っている。

 そう思っているのは、けしてユリアだけではないはずだ。

 そうでなければ、聖遣隊に配属が許されるはずもない。

 だが、そういうことをユリアが言っても、ノノは首を振った。


「・・・・・・ルディランズはさ。たぶん、帝国でも、五本の指に入るクラスの魔術師よ」


 もしかしたら、それ以上かも、とノノは自嘲気味につぶやく。


「ノノ。どうしてそこまで・・・・・・」


 正直、ユリアはこういうノノを見たことがない。

 初めて会った時から、ノノは決して自分の魔術の腕を卑下しなかった。

 魔術師としてだけは、過剰なまでに自身を強く押し出していたようにも思う。

 そして、それは決して張りぼてではなく、それにふさわしくなるための努力を欠かさないところも知っている。

 負けず嫌いと努力家な一面を知っているからこそ、そういうところを素直に認めてしまうノノを見ていると、


「正直、人に負けをあっさり認めるノノって気持ち悪いですわ」

「言ってくれるわ」

「でもノノ・・・・・・」

「・・・・・・」


 ノノは、一口、自分のカップから口に含み、顔をしかめた。

 どうやら、薬湯の苦いところに当たったらしい。

 自分で別のカップに白湯を注ぎ、飲んだ。


「・・・・・・先生のところで、ルディランズと一緒に修行したのは、一年くらい」


 そうして、しばらく黙っていたと思ったら、ノノはぽつり、と口を開いた。


「あたしは、先生にいろいろ教えてもらったけれど、先生に弟子と認めてもらえたわけじゃない」

「・・・・・・その先生、というのは、ルディランズさんの師匠なんですか?」

「そ。あたしが先生に会ったのが八歳の時。ルディランズは、五歳のときから、弟子として先生と暮らしてた」


 ノノは、ぽつぽつと、ルディランズとの思い出を語った。

・何百人かいる『最高位の魔術師』

帝国で最高位の魔術師、というのは、帝国が発行する魔術師免許、その中でも一級資格を持つ者を指す。

皇帝の名のもとに発行されるこの免許は、取得できれば、それだけで一定額の年金がもらえたり、魔術研究のための補助金がもらえたり、魔術に関するものであれば様々な特権が与えられたり、とメリットが極めて大きい。

金も名誉も権力も手に入るため、取得を目指すものは多い。

だが、当然ながら、きわめて厳しく困難な試験をクリアしなければ取得はできない。

試験では、一切の不正は許されないし、貴族の地位などがその結果に影響を及ぼすこともない。

また、免許取得後も、最初の五年は一年ごとに、五年目から二年ごとに免許更新のための試験を受ける必要がある。

この更新試験は、一度は落ちても問題ないが、二度落ちれば容赦なく免許をはく奪される。

それらの厳しい制度により、この免許の品質は維持されている、と言ってもいい。

とはいえ、帝国は広大で強大な国家である。当然、その人材の層も分厚い。

よって、年に三回ある試験では、毎度数十名の合格者が出る。

とはいえ、それで五年以上免許を維持できるものは、合格者の一割にも満たず、全体で百人にも満たない。

ノノは、何百人かいる『最高位の魔術師』と発言しているが、最年少資格取得者であるノノと取得後五年に満たない何百人かを同列に扱うのは、さすがに無理がある。



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よろしくお願いします。


別のも書いてます

『竜殺しの国の異邦人』

https://ncode.syosetu.com/n0793he/

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