試合後(2)
試合を終えて、なんとはなしに交流が始まっていた。
ルディランズは、といえば、まだノノにつかまっている。
「で? 『しゅんらいせつが』、『ゆきふみ』って何?」
拳技流派『春雷雪牙』の技の一つ、雪踏。
『春雷雪牙』の二つ名は、バロッゾにいる一人の一等級冒険者のそれと同じ。
彼が使う拳技の流派として、その名前があり、それがそのまま二つ名になった形だ。
そういう理由で二つ名がついた事例は、割とよくある。
ほかには、自称していたものがそのまま選ばれたり、神聖系、あるいは魔障系のクラスなら、神託なり託宣なりといったもので二つ名を『力ある隣人たち』によってつけられることもあり得る。
「『春雷雪牙』の流派は、拳技というか、無手での戦闘をメインとした流派ね」
ジェシカは、よ、と拳技の構えを取った。
拳と蹴りでモンスターを討伐する、トンデモ流派、と言いたいが、
「魔力使って身体強化した上で、拳やら蹴りやらに魔術を付与して戦うんで、ばりばりの魔術戦士の流派だけどな」
「使い勝手よさそう、とか言って、勝手に学びに行ったのはちょっと驚いたけどね」
「来るもの拒まず、とか書いてあれば、なあ」
バロッゾを訪れたとき、その道場を訪れた。
当時は、まだジェシカ、アガット、ルディランズの三人だけでパーティーを組んでいた。
三人とも同じ道場を訪ねたが、ジェシカはしっかり教えてもらい、アガットは他の向いている道場を推薦され、ルディランズはといえば、
「転がされまくってたわよね?」
「まあ、生意気言った自覚はある」
むう、と唇をへの字に曲げて、ルディランズはぼやく。
その様子を見て、ノノは好奇心に顔を輝かせつつ聞いた。
「何やったのよ?」
「できるだけ早く術理を教えてくれ」
生意気だった、という自覚はある。
ただ、遠征にかけられる時間は短く、学びたいことは多くあった。
魔術師にとって、その戦闘能力というのは手札の数がものをいう。
多くを得ておくことこそ、パーティーに所属する魔術師として必要なことだと思っていたのだ。
「一等級冒険者は、寛大であった」
うむ、と重苦しくルディランズはうなづく。
「転がされまくったんじゃないの?」
「一番簡単に、かつ、手軽に学ぶには、ひたすら技を受けることだ、と言われた」
基礎の基礎、ともいえる入門書のようなものは渡された。
それを読み込んだ後、残りはひたすら組手である。
「・・・・・・俺、よくあれで学べたよな」
「実際、それである程度は習得したものね」
思わず遠い目になってしまったルディランズだが、魔術師として、魔術に転用するために学びに行った、と考えれば、かなりいい結果だったとも思っている。
体を動かすとき、どこに魔力を集中しているのか、構えから発動する、拳技に付与する魔術の理。
そのすべてを見るには、やはり他人が使っているものを見て、それから模倣をした方が早かった。
「まあ、本当にそれである程度ものにしちゃったのは、さすがにあっちも驚いてたけど」
結果として、学べたのだからいい。
「で? 結局どういう技だったわけ?」
「おっと、そういう話だったか」
逸れた話の筋を戻すノノの言葉に、ルディランズは頭をかいた。
「『雪踏』の名のごとくではある。新雪の雪原の上では、拳技は威力が落ちる」
「なんで?」
「踏み込みが雪で和らげられるし、雪が足にまとわりつくせいで体勢も整えにくいから」
体勢、というのは、武術であろうが魔術であろうが、どんなものであれ、重要なものだ。
しっかりと踏みしめられる地面の上、足を踏ん張っていられる方が、どんな技にしろ安定する。
「雪踏は、そういう不安定な立場で、足場を安定させ、姿勢を安定させるための歩法だな」
「あれ? 移動手段じゃないの?」
「違うわ。雪踏は、あくまでも姿勢を安定させるための歩法」
ジェシカは、す、と足を動かして、構えたまま移動する。
見ていると、まるで浮いているように移動しているように見える。
「さっき、ノノが言ってた通り。杖を使って引き寄せをしたのは間違いない」
「でしょ!?」
自分の推論が当たっていたことで、ノノは嬉しそうにうなづいた。
「ただ、自分に対する引き寄せっていうのは、体勢を崩しやすい」
ルディランズは、杖の一本を投げ放つ。
それは、少し離れた床の上に立った。
そして、右腕を、すい、と左から右に払う。
瞬間、ルディランズの隣にいたジェシカが、ルディランズが投げた杖に向かって飛んで行った。
「うわっと!」
不意な動きに、一瞬体勢を崩すも、優れたバランス感覚を発揮し、ジェシカはきちんと両足で着地した。
その着地の動きに、姿勢の乱れはない。
「今みたいに、体をいきなり動かすから、準備しててもある程度姿勢が崩れるんだよ」
「なるほど。それを補うために、その『ゆきふみ』って歩法を使うんだ」
説明を続けるルディランズと、なるほど、とうなづくノノのところに、ジェシカが戻ってきた。
「こら、いきなり何すんの!」
「問題ないだろ?」
「そういう問題じゃないでしょー?!」
戻ってくるときに拾ってきた杖で、ルディランズの頬をうりうりと突っつくジェシカに、ルディランズはすまんすまん、と軽く誤って、杖を受け取った。
「ちなみに、ノノを吹っ飛ばしたあの正拳は、拳技でもなんでもなく、ああいう魔術の詠唱動作な?」
ともあれ、それで試合でルディランズがやったことはほぼ終わりだ。
・春雷雪牙
無手での戦闘を主眼とした、戦闘術の流派。
魔力による身体強化と、構えを詠唱とした魔術付与による拳技が、その特徴。
魔術の威力による破壊力と、無手であるが故の身軽さから、アタッカー用の流派として名高い。
ただし、ルディランズが着目したのは、どんな姿勢からでも安定した威力の魔術を発動させる歩法などの術理の方。
『雪踏』のように、不安定な足場や、乱れた姿勢からでも、姿勢を立て直し、万全な体勢に整えることができる技が多くある。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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