試合後(1)
「なんなのよ。あれは!?」
ぎゃー、とノノが騒いでいる。
試合の後、しばらく気絶していたが、目を覚ますなり、騒ぎ出したのだ。
「あんた! いつから拳士になったの?!」
「何を言う。あれも魔術だ」
胸を張り、堂々とルディランズはうそぶいた。
その頭を、ぱこん、とジェシカがはたく。
それから、ジェシカは、技名を口にした。
「春雷《春雷》雪牙・雪踏よね」
「『春雷雪牙』? ・・・・・・バロッゾにいる一等級冒険者の二つ名だな?」
ジェイソンが、顎に手を当て、ふむ、と唸る。
ジェイソンの言う通り、『春雷雪牙』は、一等級冒険者の二つ名である。
「ジェイソンさんの言う通り、『春雷雪牙』は、二つ名だけど、二つ名の由来が、そもそもそういう流派の格闘術だから」
「なるほど。・・・・・・その技を教わったのか?」
「教わったというか、盗んだ?」
「模擬戦やって、ぼっこぼこにされたものねえ?」
「そこまでやられてないわい! せいぜい半殺しくらいだ」
「大差ないより、悪化してるわよ。それ」
ルディランズの強がりを、ジェシカは鼻で笑う。
「ほう?」
「まあ、言っちゃうと、遠征した時に知り合ってね。私とアガットは、それぞれ技を教えてもらったんだけど、ルディは、『見て盗め』ってそれだけ」
「魔術師に拳技を教えてどうするんだ?」
「今、実際に再現して見せたじゃあないか」
ルディランズは、ふ、と笑う。
竜殺しを達成する前の話だ。
必要にかられてアビロアを離れ、バロッゾで技能を習得していた時期があるのだ。
「話を逸らすな!」
ノノが、ルディランズに吠え掛かる。
自信満々に挑みかかっただけに、魔術とは思えない技法で負けて、納得がいっていないのはわかる。
とはいえ、ルディランズからすると、条件も何もないただの力試しの試合で、そこまでがうがう吠えることもないだろう、とは思うが。
「逸らしてないが?」
きょとん、と首を傾げて見せるルディに、ノノは地団駄を踏んで、さらに吠え掛かる。
なんというか、小柄なノノとそこそこ長身のルディランズだと、どうにも幼い妹が兄にわがままを言っているようで微笑ましい。
「どうやって、あたしの魔術を脱出したの?!」
「ああ、そっちか」
説明するかどうか、少々迷った。
魔術師からしてみれば、自分の手札は隠すものだ。
だが、一方で、昔はさんざん模擬戦をやって、手の内は明かしあった仲。
期間限定とはいえ、ルディランズの師から指導を受けていた時期もある以上、同門と言ってもいい相手だ。
何も明かさない、というのも不義理に思う。
うーむ、とルディランズは唸り、にやりといたずらっぽく笑う。
「どうせ魔術師なら、タネを当てて見たらどうよ?」
「む・・・・・・?!」
明らかに煽っている、と、そうわかる顔で言われ、ノノは呻き声とともに止まる。
それから、ぶつぶつとつぶやいたり、かと思えばルディランズの顔を見上げてぐぬぬ、とうなったり、と百面相をしている。
その様をにやにやと眺めつつ、ルディランズは投げていた杖を拾い上げ、懐にしまう。
杖、というのは、割と貴重品だ。
自然に育った樹木の中で、杖のようにまっすぐに育った枝、というのは珍しい。
杖にする際に、樹木に対してできる加工、というのは、乾燥、圧縮、削りくらいである。
その削りとて、やり方を誤ると杖としての効率が落ちることから、ものによっては、剣などよりもよほど製作が難しい。
要は、使い捨てにするのはもったいない。
「ルディ。あの技って、拳技ではないの?」
そうやってノノをあおっていると、ジェシカの方からもそう聞かれた。
だが、ルディランズは首を振って否定する。
「違う。拳技の方も使えるけど、さっきの試合でやったやつは魔術での再現だ」
そこに関しては、はっきりとルディランズは告げた。
一応、魔術師同士の力比べ、術比べ、ともいうべき試合だ。
ルディランズのこだわりでしかないが、そんな試合で魔術以外の技を使うのは、少々はばかられる。
「杖・・・・・・!」
「お?」
ルディランズが杖を拾って懐に入れるのを見ていたノノは、その杖を指さして、ぱっと顔を明るくさせた。
わかったらしい。
「わかった。杖をマーカーにして、自分に対して引き寄せをかけたんだ! 風と炎であたしの姿は見えないにしても、杖を並べた先にあたしはいるし、それであたしの目の前まですぐさま移動できた! 風も炎もどちらも一瞬で突き抜けてしまえば、それほどダメージにはならないし、小規模な障壁で済んだはず!!」
「おお。七割正解」
ぱちぱち、とルディランズは拍手を送る。
だが、それに対し、ノノは、む、と顔をしかめた。
「・・・・・・残りの三割は?」
「風と炎を突き抜けたんじゃなく、そっちは踏み台として利用している。障壁も使ってない」
「はあ!? だったら、あんたなんで無傷で突き抜けてるのよ?!」
ルディランズは、右手と左手のそれぞれの手のひらを上に向け、その上でそれぞれに炎を風を起こす。
「風と炎で姿が見えにくくなってたのは、お互い様だろ? だから、それを隠れ蓑にして突貫している。障壁を作ったんじゃなく、作りの甘い風の檻を、そのまんま押し広げた感じだな」
「・・・・・・あたしの風の檻、弱かった?」
「いや? 完成してたら、もうちょい手間取ったろうな」
少々弱気にも聞こえるノノの問いに対し、ルディランズは正直な感想を告げる。
「ただ、『貫く炎』との並行詠唱、まだ習熟してないだろ。風の檻単体だったら、完成はもっと早かったはず」
「それはそうだけど」
「完成してたら、干渉は無理だっただろうからもっと別の手段だな。今回は、完成前だったから、ちょっと利用させてもらった」
「ふうん」
・バロッゾ
アビロアとは、帝国首都を挟んでほぼ反対の場所に位置する都市。
規模としては、アビロアとほぼ同格。
砂漠みたいであったり、雪山みたいであったり、あるいは空気が薄かったり、といった環境が特殊な異界や、固定のモンスターが出現したり、様々な種類のトラップがあったり、といった特色のある異界が周囲に多くある。
そのため、異界攻略より、むしろ技能を鍛えることを目的とした冒険者が多く滞在する。
武術道場や、魔術結社などが大手ギルドとして存在している。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




