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閑話:ルディランズ(3)

「結局、ご主人様は何をやったんですか?」


 ブレアのその質問の答えは、ある意味有名ではある。

 ただ、実際できる人間が何人いるか、と言われると、難しい。


 三等級と二等級の壁。

 それは、運によるところも極めて大きく、そして、極限の実力さえあれば、運さえ乗り越えられるものでもある。


「ルディランズ君は、ある意味運が良かったんですよね」

「まあ、向いているやつが来たって点ではね」

「?」


 ブレアは、何かを通じて頷き合うジェシカとミーシャに首を傾げる。

 二人は、そんなブレアの様子に、苦笑を漏らした。


「当時、このアビロアの近くにね。新しい異界が生まれたの」


 これ自体は、それほど珍しい話ではない。

 都市には、異界を防ぐ仕掛けが施されているが、都市の外すべてにそれを向けるのは、不可能に近い。

 そのため、都市外部での異界の発生は、防ぎようがない。

 異界の発生があれば、冒険者協会は、近隣の冒険者へ向けて、調査クエストを発布する。


 余談だが、この調査クエストは、報酬がかなりいい。

 その分、危険性が全く分からない、という、極大のリスクが付きまとうが。


「ただ、その異界は、種類が特殊でね」


 宝物殿。

 そう分類されるタイプの異界である。


 異界の種類には、神域、魔境、迷いの森、冥窟、幻想郷などなど、その異界に影響を及ぼした『力ある隣人たち』の住む世界の影響によって、様々な種類がある。

 それらの複数の種類のどれにも分類されず、というか、どの種類の異界でも共通して発生する可能性があることから、特に分類して、宝物殿、と呼ばれる異界だ。

 特徴は、最奥に眠る価値の高い宝物。

 そして、それを守る番人の存在である。


「宝物殿は、かなり攻略の難しい異界なのよ」


 通常の異界攻略法が全く通用しないことがあるのが、宝物殿の特徴だ。

 何せ、宝物殿の異界は、番人がすべてのルール、と言ってもいい。

 過去に攻略された宝物殿で言えば、番人の前で番人が気に入る歌と踊りを奉納する、という割と平和なものもあれば、千人の戦士が全裸で殺し合いをして最後に生き残った一人にのみ鍵が与えられる、などと言った血なまぐさいものもあった。


 ただ、宝物殿から得ることのできる宝物は、すべてが素晴らしい力を持っていて、価値が高い。

 ことによっては、小国の一つか二つは買えるレベルのものが出てくる。

 それだけに、新しい宝物殿が見つかれば、挑むものは後を絶たない。


「当時現れた宝物殿は、そういう意味では極めてらしい宝物殿でした」


 番人は、『スフィンクス』。

 与えられる試練は、『問答』。


「スフィンクスが出す三つの問いに、正しい答えを返すこと。それが、突破の条件だったわけです」


 当初、簡単な部類、と思われていた。


「でも、突破者は現れませんでした」

「ついでに言えば、間違えれば、その時点で頭からばりばり食べられちゃう」


 命を懸けた問答だ。

 そして、一度挑めば、三つの問いに答えるまでは、外に出ることはできない。


「一問目、二問目くらいなら、何とかなるんだけど、三問目だけは、誰も突破できなかったのよ」

「いろいろ、策は練ったのです。外と通信をつながるようにして、何十人もの学者たちが問題の答えを考えたり、とかね」


 一度に挑めるのは一人だけ、ということもあって、連日行列ができていた。

 その行列を当てにして、屋台が出て、出店が出て、と都市外部に、ちょっとした祭ができていた。

 その警備依頼が協会から発布されたりして、なかなか騒がしい期間があったのだ。


 ジェシカ達は、当時竜を討伐して間もなかったこともあったし、リスクが大きい、ということで、この宝物殿への挑戦は見送る方針だった。


「お祭り騒ぎも、一ヶ月もすれば落ち着いてきてね。そのころには、挑む人間も少なくなったころよ。ルディは、ふらっと出かけていって、宝物殿のお宝と、異界核を持って帰って来たわ」

「大騒ぎでしたねえ」


 領主が、事態の収拾のため、帝国でも指折りの賢者と名高い学者を呼んだ、矢先のことだった。

 唐突に宝物殿が消滅し、中からルディランズが出てきたのだ。


「手に入れた宝物は、一部がルディのもの。大半は帝国とか協会とか教会とか、そういう大きい組織が買い取ったわね」


 宝物殿から手に入った、極めて効果の高いアーティファクトなどは、何を言うまでもなく買い上げとなった。

 ルディランズは、攻略者としていくつかのアイテムを受け取ったが、残りはすべて売却である。

 『虹の飛島』にいくつか持って帰ってきたが、ルディランズが一人で攻略したものだから、とジェシカ達は遠慮した。

 最終的に、いくつかの押し問答の末、それらの資産を使って、拠点を買い、設備を揃える、というところで落ち着いたわけだ。


「『虹の飛島』の、竜討伐の後の躍進は、この拠点あってこそよ。設備とそれを活かせるサポートチームを雇えたし、人数も増やせたし」

「ともあれ、その結果として、ルディランズ君の名前は、アビロア中に知れ渡りました」


 冒険者ランク、二等級への昇格条件は、必要数の星を持っていること。

 そして、『異界の単独攻略経験者』であることだ。


「・・・・・・二等級への昇格条件には、レベルが入ってないんですよねえ・・・・・・」


 ミーシャは、当時の大騒ぎを思い出し、苦笑した。

 実のところを言えば、二等級への飛び級昇格自体は、前例がある。

 だが、それは四等級から二等級へ、であって、五等級以下から二等級へ昇格した前例はなかった。

 これで、ルディランズが何も言わなければ、それほど問題はなかっただろうが、


「ルディランズ君、しれっと昇格要請出してきて。協会の規定でも、それを拒否する理由がなくて、上の方でかなり議論になったらしいですよ?」


 最終的に、協会のトップであるグランドマスターの鶴の一声により、ルディランズの二等級昇格が決まった。


「私は、割と爽快だったけどね!」


 ふふ、とジェシカは笑う。

 ルディランズを、足手まといのお荷物、と笑っていたやつらが、一瞬で雲の上の冒険者となったルディランズを前に、どうしていいか分からずおろおろしているのを見て、スカッとしていた。


「で、その後、かのグランドマスタ―から、『百識』って二つ名が出たのよ」

「その事件が原因なんですか?」

「いえ。宝物殿が消えた後に、その場に残ったスフィンクスがね、ルディランズに向かって、そう言ったの。『百の識者に勝るとも劣らず』って」


 だから、『百識』のルディランズ、と二つ名が付いたのだ。


・宝物殿

番人とそれが守る宝物庫によって構成される異界。

ある意味において、もっとも攻略が困難な異界とされている。

番人が定めたルールがすべてであり、番人が認めればたとえどれほどに弱くとも宝は手に入る。

過去には、被ることで神の力を得る面や、絶対に砕けない障壁を生む石片などといった有用なものから、美の女神が口をつけた匙、巨人の鼻水、精霊のくしゃみ、などといった、用途のわからないものまで、様々な宝物が出現している。

ただし、中には国防の観点から無視できないものなどもあり、そういったものは即座に買い上げとなる。

異界の中では、例外的にモンスターを発生させないこともあって、危険性が少ないために、あまり攻略が急がれることはない、が、手に入る宝物の価値から、挑むものはあとを絶たない。

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