勇者一行(3)
この世界で、勇者、というのは、役職だ。
勇者だから強い、というものでもない。
もちろん、聖剣を始めとした、聖具を用いて魔王の討伐をする以上、訓練は必要だ。
そして、その訓練において、勇者というのは不思議なほど伸びる。
だから、『勇者』を名乗って活動する戦士に、弱者はいない。
「まあ、ぶっちゃけ? 聖剣使ってると結構なバフかかるから、かなり勝手に強くなるわよね」
「身も蓋もない言い方をしてしまうと、まあ、そうだ」
ノノのセリフに、ベイナスは苦笑しながら頷いた。
聖剣をはじめとして、聖具を扱うものは、その道具の使用用途に合わせた適性が上昇する。
剣などの武具ならば、当然戦闘能力が上昇する。
「ただ、誤解のないように言っておくと、聖具自体には、そういう能力上昇効果はないよ」
ベイナスの言葉に、首を傾げたのはソウタだ。
彼は、このパーティーの中では一番の新参であり、勇者だの聖女だの聖剣だの、といったことの裏事情には、あまり詳しくない。
もっとも、『勇者』という名前の価値を上げるために、教会が情報を封じている部分もあるが。
「そうなのか?」
「聖具にある効果は、魔王に対する特攻効果だけだ」
「魔王に対しては、よく効くってことか?」
「というより、魔王が持っている能力に対抗する、という方が正しい」
実際のところ、聖剣を用いて得られる最大の効果は、勇者というより、勇者の仲間に向けられるバフ効果の方が大きいのだ。
「だから、聖剣を持った勇者がいるパーティーが、魔王対抗パーティー、ということもできるね」
ベイナスは、そう締めくくった。
*****
勇者が来た。
そういう情報をルディランズが得たのは、ブレアの装備の制作が佳境に入ったところだった。
その時、ルディランズは、拠点の地下に作った訓練場で、ブレアと向かい合っていた。
パーティーメンバーが足りていないことに加えて、現在、協会から依頼が来るかもしれない、ということで待機状態になっていた。
その時間を使って、装備の充実に励んでいるわけだが。
「さて、俺の作業は済んだので、今日はブレアに構う日だ」
「・・・・・・はあ」
なんとも言い難い顔をしているブレアに、ルディランズは苦笑する。
「作った装備のための、習熟訓練、てやつだな」
そう言いながら、ほい、とひもを渡す。
渡されたひもを手に、じろじろと見ながら、ブレアは首を傾げた。
ひもは二本だ。
片方は赤く、片方は青い。
「二本あるだろ? 赤い方を左足首、青い方を右足首に巻く」
「はい」
言われた通り、素直にブレアがそうする。
「よし」
それから訓練内容を言い渡され、素直にそれに従ったブレアが訓練をしているのをしばらく眺めていたところで、
「ルド」
ジェシカに呼ばれて、ルディランズは近寄る。
「勇者が来たって」
「ほう?」
ルディランズは、少し興味を向ける。
勇者を呼ぶ、というのは、協会と教会の間での共有事項であったらしい。
協力を要請するかも、ということで、日帰り可能な範囲での依頼しか受けていないジェシカのパーティーと、ルディランズは、最近は比較的拠点にいる状態だった。
「で? 俺らの出番はいつよ?」
「明日、協会の方で、作戦の打ち合わせがあるから、あんたも来なさい」
「はいよ」
ルディランズは頷いた。
「で? 来たのは?」
「三番隊だって」
「三番の聖剣って、今誰が使ってるんだったか」
聖遣隊の番数は、教会が管理している聖具の管理番号に由来する。
前任者から引き継いでいくため、番号は結構幅がある。
「ベイナス・フライアウト」
「ああ、フライアウト家の三男坊か」
「あそこの当主様には、結構目をかけていただいたからね」
「つまり、むかつくやつだったら遠慮なくしごけってことだな」
「・・・・・・あの当主様が、そんな礼儀知らずは育てないでしょ」
とは言いつつも、ジェシカもルディランズの言うことは否定しなかった。
*****
「『虹の飛島』と言えば、私もまったく無関係、ということはないな」
ふと、ベイナスがぽつりとつぶやいた。
「あら? どういう関係なんですか?」
「件の竜の番だ。あれが出たのが、私の家の領地なのでね」
「そうだったの?」
「飛び地の領土なので、あまり知られてはいないがね」
ふ、とベイナスは笑った。
「しかし、そうか。だとすると、私も会うのが楽しみになってきたな」
・聖女
聖女の役目は、回復職。
聖女の使う回復術は、身体の構造やあるいは回復原理などを無視し、術理も何もなく、ただ『治す』
怪我を治す、病をいやす、といった方法なら、魔術でも薬でもなんでもあるが、それらはそれらなりに理屈がある。
だが、聖女の使う回復術は、それらの理屈がなく、『何故か』治る上に、回復において副作用も一切発生しない。
その分、聖女にかかる負担はあるが、それも命に関わるほどのものになることは稀である。




