勇者一行(2)
呪文を唱える。
これは、魔術の詠唱としては、基礎的なものだ。
「一に【ヒ】、二に【渦巻】、三に【弔い】、四に【箱】」
ノノの詠唱に合わせ、ノノの手元で炎が踊る。
「ぼろ雑巾になりなさい―【マインボルテクス】―」
言葉通りのことが起きた。
馬車の行く手をふさいでいたモンスターの群れが、炎に巻き込まれる。
一定の空間内に囚われてたモンスターたちに、爆炎が何度となく連続して浴びせられる。
そして、魔術が終わった時、確かにそこには、ぼろ雑巾のようになったモンスターの残骸が残っている。
「・・・・・・素材とか、残らなそうだな」
その光景を見たベイナスは、のんびりとつぶやいた。
「相手、モンスターじゃない。核だけ残ってればいいわよ」
ノノが、言う通り、ぼろ雑巾になったモンスターの残骸は消え、モンスターの核となっていた結晶がいくつか落ちている。
それらを拾い集め、馬車へと戻る。
ノノの魔術の範囲に含まれなかったモンスターたちは、既にベイナス達の手によって討伐されていた。
「ノノの魔術は、相変わらず派手ですね」
ユリアの言葉に、ノノは肩をすくめた。
「別に、派手にしようと思ってたわけじゃないわよ。威力を追究すると、『なぜか』派手になるだけ」
「それは、別に『なぜか』ではないのでは・・・・・・?」
ユリアは苦笑するが、ノノはふん、と鼻を鳴らして、馬車へと引っ込んだ。
*****
「ノノ」
「何? ヴォー」
「アビロアという都市に、何かあるのか?」
「・・・・・・いきなりね?」
意外、と目を開いたノンの視界に、ヴォーの後ろに隠れるようにいるユリアが見えた。
そして、ノノは苦笑する。
「ユリアが気にしてるから?」
「そうだ」
「あ、あの、ノノ。わたくしは、別にですね?」
慌てて、わたわたとしているユリアに、ノノは笑いをこぼす。
「何を慌てているのよ?」
「いえ。なんだか、そういうのを聞いていいものなのかなって。なんだか、聞いてほしくなさそうでしたし」
「・・・・・・で、ヴォー?」
「彼女が気にしている。・・・・・・魔王との闘いは、一瞬の気の迷いが命取りになる。気になることがあるなら、解消しておくべきだ」
「生真面目」
からかうような視線に対し、ヴォーは静かに応じる。
表情を読み取ろうと思っても、被ったフルフェイスのヘルメットのおかげで、その表情は分からない。
その顔を見て、ノノはため息を吐いた。
「どうでもいいんだけどさ」
「何か?」
「馬車の中でくらい、そのヘルメット外したら?」
「どうでもいいことだ」
「そうだけど」
はあ、ともう一度、ノノはため息を吐いた。
そして、ちら、と馬車内を見渡すと、全員がそれとなくノノを気にしている。
そのことに、もう一度、はあ、とため息を吐いた。
「で? アビロアの話だっけ?」
「ええ。・・・・・・話してくれるんですか?」
「大したことじゃないのよ」
け、とノノは吐き捨てる。
「ただ、アビロアには、あそこを拠点にしている冒険者の一党がいるの」
「冒険者の、パーティー、ですか?」
「そ、『虹の飛島』っていうね」
「ふむ」
その名を聞いて、ベイナスが声を挙げた。
「聞いたことがある。確か、竜の番を討伐したパーティー、だったか」
「パーティー、じゃなくて、トリオ。・・・・・・実質三人で、竜の番を討伐してる」
ノノの訂正に、ベイナスは、むう、と唸る。
それにたいして、ソウタが首を傾げた。
「竜の番って?」
「単独の竜なら、このパーティーメンバーなら、一人でもおそらくどうにかなる。・・・・・・ユリアは少し難しいかもしれないが」
「おいおい。ワイかて、一人はきついで?」
ゼットが混ぜっ返すが、しらっとした視線を返されて、はあ、と肩をすくめるだけだった。
「これが、番となると、そうはいかない」
「うん?」
「番の竜は、何か魔力的なリンクでも発生するのか、能力が跳ね上がる。番だったら、パーティーでかかっても、場合によっては全滅を覚悟する」
「そんなか?」
ソウタの驚きに頷き、ベイナスはノノに視線を向けた。
「そのパーティーが、何か?」
「そのパーティーはいいの。その中の魔術師が嫌いなの」
「魔術師?」
「ルディランズ・マラハイト」
ノノが口にした言葉に、ゼットが思い当たったのか、ぽん、と手を打った。
「確か『百識』って二つ名ついてる、二等級冒険者だ」
「知っているのか? ゼット」
「教会には、聖遣隊へのスカウト候補のリストがあってなー。それに、載ってんだよ。ソウタと会う前、メンバー候補を探している時に、情報を見た覚えがあるぞ」
「でしょうね。・・・・・・たぶん、魔術師としてなら、あたしより上に載ってるんじゃない?」
「さあ? そこまでは見てないねえ~」
へら、と笑ったゼットに、ふん、とノノは鼻を鳴らす。
「それで?」
「そいつに、会いたくないの」
「・・・・・・元カレとか?」
「喧嘩売ってる?」
「・・・・・・スマン」
漏らしたコメントに、ノノからの殺気混じりの剣呑な視線を向けられて、ソウタはいさぎよく謝った。
「・・・・・・じゃあ、何?」
「単純に、ムカツクだけ!」
ふん、とノノは吐き捨てるのだった。
・呪文
ノノは、作中では何か意味ありげに唱えているが、実際には意味はない。
魔術の詠唱は、一定の決まりがあるが、この決まりは改変できないが故に、魔術師は詠唱から使う魔術を推測されないよう、暗号化する。
意味をなさない音の羅列になることもあるが、流派によっては、一定の意味を持つ文字列になる。
この意味に、魔術の効果と紐づけた意味を持たせることもあるが、逆に惑わせるための意味を持たせることもある。




