勇者一行(1)
教会において、実働戦力、というのは、聖遣部隊を意味する。
冒険者協会からの要請で、教会が行ったのは、近隣にいる聖遣部隊の招集だ。
「三番隊でしたか。一番近くにいたのは」
ゲオルグは、その結果を見て頷き、いくつかの書類に判を押す。
それは、聖遣三番隊に指令を出すための書類だ。
この後、指令の書かれた書簡が用意され、教会の保有する魔道具によって、聖遣隊に支給されている伝書筒に書簡が転送される。
「・・・・・・では、そのように」
部下に書類を渡し、ゲオルグは執務室の窓から外を見た。
「『啓示』では、『魔王』と出ている。・・・・・・であるならば、教会の仕事だな」
*****
「さて、移動中ではあるけれど、情報を整理しよう」
ベイナスは、移動中の馬車の中で、パーティーの面々に目を向ける。
「『魔王』について、ですね」
ユリアが確認すれば、ベイナスは頷いた。
「そう。・・・・・・今回は、少々厄介だよ」
勇者、というのは、平時は仕事がない。
ぶっちゃけ、勇者が倒すべき『魔王』というのは、そうそう現れない。
『魔王』とは、魔獣の王である。
それも、魔獣が成長してなるものではなく、突然変異的に出現する。
そして、その存在はただひたすらに危険だ。
基本的に、魔獣は危険な生物である。
その危険性が、『魔王』になると増大する。
特に危険なのは、『魔王』は同種の魔獣を率いて群れをつくることだ。
「今回の『魔王』は、混合獣種、キマイラの変異体と思われる」
「・・・・・・一番厄介なタイプなー」
ゼットが、辟易した口調で吐き捨てる。
それに対して、首を傾げるのはソウタだ。
「そんなに? 厄介なのか?」
「んー。ソウタも、今までに『魔王』討伐は二回目だっけな?」
「・・・・・・それが?」
けらけらとした笑いの混じった言葉に、嘲笑われている、とでも感じたか、ソウタの口調にとげが入った。
それに対し、ゼットはぱたぱたと手を振って、
「バカにしてるわけじゃねえよ。我がパーティーの勇者様でも、討伐した魔王は二体だ」
魔王は、そうそう出るものではない。
だから、三番隊は基本ユリアをリーダーとして、聖女の護衛をメインで活動しているのだ。
「で、ベイナスの初陣ってのが、まあ、混合獣種の魔王だったんだよ」
「強いのか?」
「厄介。・・・・・・ただ、それに尽きるね」
ベイナスは、肩をすくめた。
「混合獣、またはキメラ種。この種類の魔獣は、大きく分けて二種類いる」
「生殖で増えるタイプと、捕食と進化で増えるやつな」
「グリフォンとかは、前者。そして、今回のターゲットとなるキマイラは後者です」
ユリアは、説明を続ける。
「キマイラは、周囲の魔獣や神獣、あるいはモンスターなどを捕食し、その性質、力を取り込む。そして、その証拠に捕食した生物の一部が体に生える」
「・・・・・・最終的に、すごい化けモノが出来上がりそうだ」
想像したのか、ソウタが顔をしかめた。
それに対して、ゼットは首を振った。
「いやー。そんな化けモンになる前に、身体が分裂して、別個体になるんだよ」
単為生殖、とも違う、それが『魔獣』キマイラの増え方だ。
ただ、そういう生態だからこそ、キマイラには一つ、特徴がある。
「ふつう、キマイラは単独だ」
縄張り一つにつき、一頭。
それが、キマイラの特徴だ。
だが、ここに『魔王』の特徴が当てはまると、厄介なシナジーが発生する。
「『魔王』は、群れをつくる。そして、その中心にいるのは、他の生物を捕食して進化、あるいは分裂するキマイラだ」
「・・・・・・マジ、ヤバくね?」
そこまで言われて、ソウタも想像がついたらしい。
しかめていた顔が、真剣なものになり、さらに青くなる。
「それよ。ベイナスの初陣は、キマイラだった」
「周囲の群れをかたっぱしから捕食して、どんどん成長する、最悪の敵だった。他の勇者と力を合わせて、群れと魔王を分断して、一個ずつ生えてる頭を切り落として、それでようやくだったね」
げんなりとした表情を浮かべるベイナスに、ヴォーは、ぽんぽん、と肩を叩いた。
いや、その手の大きさから、ぼすぼす、という感じか。
「しかも、今回は、参加する聖遣隊は、我々三番隊だけだ。必要な戦力は、現地で冒険者を雇う必要がある」
「・・・・・・どうすんだ?」
「幸い。アビロアには、『紅炎遊撃隊』という、討伐専門のギルドがある。件のキマイラを最初に発見したのも彼ららしい。彼らをあてにできるよ」
力強く頷いたベイナス。
それに対し、目的地の地名を聞いて、ノノは声を挙げた。
「・・・・・・・・・・・・アビロアかあ」
「うん? ノノ。何かあるのかい?」
「別に。・・・・・・ただ、あそこを拠点にしている冒険者がいたはずでさ」
「有名な人かな?」
「魔術師の界隈では、ね」
ノノは、肩をすくめる。
フードを深く被って、
「寝る。休憩場所に着いたら起こして」
「ああ、分かった」
背を向けて横になったノノに、三番隊の面々は顔を見合わせ、首を傾げるのだった。
・啓示
かつて、神族魔族がいた時代は、文字通り『力ある者たち』から下される未来の情報だった。
だが、現在では、魔術を利用した、疑似的な未来予測になっている。
その本質は、一定範囲内の自然的な情報を広く収集し、分析した結果から起こる、高精度な未来予測となっている。
収集できた情報の質、量によって、その精度は上がる。
一方で、適性がある術者の場合、微かな情報から妙に正確な未来を見てしまうこともある。




