幕間:キマイラ変異種
モンスター、というのは、世界に溢れている。
この世界に生きている生物は、基本的に力ある隣人たちが、かつてこの世界にいる時にこの世界に合わせて創造した生命体か、そこから進化適応した種類である。
中には、異界が発生した時に、その内部で生まれ、そこからこの世界に出てきて、定住した種族もいる。
モンスターは、その中では、少々特殊な存在である。
まず、生命ではない。
見た目が生きているもののように見えても、その本質は何かしらの力の集まりだ。
近隣にいる生物なりなんなりの形を模し、また行動パターンもそれに類するものになるものの、生物ではないが故に、食事も睡眠も生殖もしない。
だが、モンスターは増える。
異界が発生する兆しとして、まず近隣でモンスターが出現するようになり、そして異界が発生した後は、異界の中で発生したモンスターが異界の外に出てくるようになる。
モンスターを放置しておくと、そこに異界が出現するようになることから、モンスターは小さな異界核である、とする学者もいる。
モンスターを討伐すると、モンスターを構築していた力がほどけて消え、その場にモンスターを構成していた核が残る。
この時、それ以外にもモンスター由来のアイテムが残るが、これがドロップ品となる。
モンスターの核は、異界核ほどではないにせよ、使い道が多く需要の高い素材だし、ドロップ品はドロップ品で、使い道が多い。
これらのモンスター素材は、冒険者の収入源の一つである。
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ごう、と燃え上がる音がした。
森の中だ。
吹き付ける熱風と、赤い光。
ごうごうと音を立て、炎が吹き付けられ、森が燃えていく。
その中を悠然と闊歩する影がある。
それは、獅子の姿をしていた。
それには、羽があった。
尾には蛇。背には山羊の頭。
キメラ種の、キマイラ。
かつて、魔族が生み出した、神族と争うための尖兵として作り上げた、生物兵器の野生化したもの。
だが、それは通常の生物ではない。
キメラ種のような複数の獣が入り混じった姿をする獣を、混合獣、と分類しているが、キマイラはその中でも特殊な生態をしている。
生殖などで増えることはなく、捕えた獲物を取り込み、自らの体に混ぜていき、ある一定のところで分裂する。
そうして増える。
総じて狂暴だが、住処に侵入しない限りは、食事時に運悪く遭遇した、とかでもない限りは襲われることはない。
一度食事をすれば、十年単位で眠りにつくため、それほど被害は多くない、魔獣、と称される獣だ。
「・・・・・・うへえ。きっつい」
ぼやきを漏らしたのは、一人の冒険者であった。
彼は、討伐専門のギルド『紅炎遊撃隊』に所属する冒険者だ。
彼のチームは、このキマイラの討伐依頼を受けていた。
キマイラは、その狂暴性や性質から、危険度は高く設定されているものの、強さとしてはしっかりと準備すれば殺せる、という程度の獣である。
そのため、準備もしっかりして、手順もしっかりと確認して、確実に勝てる、と踏んだ上で、この討伐に挑んでいる。
もともとの依頼では、キマイラによって、近隣の牧場の牧畜に被害が出ているため、どうにかしてほしい、という依頼だ。
基本的に、キマイラというのは、一度捕食を終えれば、十年単位での眠りにつく。
だから、もしそうなるなら、人間に被害が出ないようにし、近隣の野生の獣を狩って、囮の餌とすることで牧畜から注意を逸らし、牧畜を守る。
そういうやり方で、依頼は達成できるはずだった。
キマイラは、倒せる獣ではあるが、実際に倒すとなると、被害が大きくなりやすい。
仮に倒せたとしても、そのあとその縄張りに何が居座るのか、と考えると、多少手間でも餌をやって大人しくなってもらう方がいい、という判断である。
だが、その判断が誤りだった、となったのは、冒険者たちが牧場の警護についてから、十日が過ぎてからだった。
キマイラの襲撃が止まないのだ。
囮の餌と置いた野生の獣の肉を、すべて持っていく。
一体のキマイラが食べる量、と考えるなら、もう十分な量のはずだ。
だが、十分な量を食べさせた後でさえ、キマイラはやってきて食料を持っていく。
明らかに、異常事態だ、と判断した冒険者たちは、キマイラのねぐらの調査に向かった。
その結果明らかになったのは、キマイラが二体いる、という事実だ。
組成となっている獣の種類が違うことから、増えたのだろう、と分かる。
一体ならともかく、二体、となると、近隣への被害が今後も続く可能性はあった。
少なくとも、一体がこの縄張りからどこかへ移動する際に、移動先で被害が出る可能性がある。
最低一体は討伐する必要がある。
その結論を下した冒険者たちのリーダーは、準備を整え、キマイラの討伐に乗り出した。
『紅炎遊撃隊』に所属する冒険者には、農村の出身者が多い。
幼いころ、魔獣やモンスターの襲撃によって、自分の故郷に多大な被害を受けたものが、そういった被害から人々を救うことを目的として、『紅炎遊撃隊』に入隊するのだ。
だから、冒険者たちの士気は、高かった。
協会に、『紅炎遊撃隊』から、派遣した冒険者の全滅が伝えられたのは、それから三日後のことだった。
・境界壁
この世界は、境界壁、という力場の壁により隔てられている。
境界壁に囲まれた内部を領域と呼び、それぞれがかつてその領域を支配していた力ある隣人の影響を強く受け、内部で生まれる種族や異界の種類が偏る。
境界壁を越えるには、異界核を使用して作られた特殊なゲートを通る必要がある。




