素材集め(2)
店には、『リーンマン商店』と小さく看板が掛けられていた。
その看板も、文字がかすれている上に、煤か何かで汚れていて、よく読めない。
入り口のドアも小さく、窓が付いているわけでもないので、中を窺うこともできない。
「・・・・・・」
その店構えを見て、胡乱な顔をしているブレアを引きつれ、ルディランズはドアを押し開いて、中へ入る。
ドアベルの音はしなかった。
代わりに、ぎぎぎぃぃ、とやたら大きくドアがきしむ音がする。
「ん?」
店の中は、狭苦しい。
奥行こそそれなりだが、両側には壁が迫ってきていて、両腕を広げれば突っ張ってしまう。
何もものが置かれていないから、部屋、というより、廊下、と言われた方がまだ納得できるかもしれない。
だが、意外、というべきか、内部は埃一つ落ちてはいない。
壁にかけられたランプのカバーガラスには曇りがないし、壁も床もワックスでも塗ったかのような光沢がある。
外側はボロイが、内側は綺麗だ。
これで、品のよい調度の一つでも置いてあれば、立派な屋敷の内装に見えるかもしれない。
店内の一番奥にカウンターがあった。
そのカウンターに、小柄な人間が一人、腰を下ろしている。
初老の男だ。
仕立てのいい服にも身を包み、身なりも綺麗な男だ。
ただ、小柄である。
頭ばかりが大きく、三頭身に見える。
モノクルをかけた顔で、手に持った何かを見ている。
と、ドアの開いた音を聞いたか、店主の男は顔を上げた。
「おや、ルディランズ殿」
「やあ、バークランさん」
顔を上げたバークランは、ニコリ、と笑った。
「いらっしゃい」
「ちょっと、注文したいものがあるんだ」
「ええ、ええ。伺いますとも」
バークランは、外見通りに穏やかにルディランズに対応する。
ふと、その視線が、ルディランズの後に続くブレアに向いた。
「ああ、こいつ。俺の新しいパーティーメンバーで、ブレア」
「おやおや。これはこれは。どうぞよろしくお願いしますよ」
その笑みはにこやかで、穏やかな紳士である。
『リーンマン商店』
三人のリーンマンという商人によって経営される店だ。
誰が店番をしているかは、訪れるタイミングによって異なる。
バーグランは、三人の中で一番紳士的だ。
「それで? 何がご入用ですかな?」
「魔力の親和性が高いのが前提。それで、硬度の高い金属が欲しい。・・・・・・あとは、なんか出物あれば見せてほしい」
「ふむ。そうですねえ・・・・・・」
しばらく考え、それからバーグランは一度奥に引っ込む。
それからしばらくして、一抱えほどの木箱を持って戻ってきた。
「とりあえず、今あるのはこのくらいでしょうか?」
箱の中には、様々な素材が入っている。
それを手に取っては眺め、
「・・・・・・モンスター素材は、少し不漁かい?」
「最近は、質のいいものの仕入れが滞っておりますねえ」
「おや?」
「ほら。この間、『天意の旅団』が少々大物を狩ったでしょう?」
「ああ。なんだっけな。グリフォンだったか」
こく、とバーグランは頷いた。
グリフォンは、猛禽類と獅子類の獣の混合獣だ。
キメラ種のモンスターは、どれもこれも一癖ある手ごわい相手ばかり。
グリフォンは、その中では、比較的危険度の少ない相手だ。
もっとも、それは、キメラ種の中では人間を襲うことが少ない、というだけで、強さという面ではかなりのものだ。
何せ、飛ぶ。
「だが、あれの討伐は成功したんだろう?」
「その際に、街道に少々被害を出したのですよ。損傷自体は、既に賠償金を払い終わっているのですがね? 街道の損傷は、そうそう直るものではありませんから」
「で、仕入れが滞ってる、と」
「ええ。そちら方面からの荷が入りづらくなってますね。もう一月ほどは、続くのではないでしょうか」
「なるほど」
そんな世間話をしながら、ルディランズは木箱の中を漁る。
「おかげで、いくつかの種類の鉱石も少し値上がりしております。・・・・・・もしそういうのを買うなら、しばらく待った方がお得ですよ?」
「いや。必要なものだからな。質がいいなら、ここで買うさ」
「質ならば、まあ、自慢できるものですがね」
ルディランズが箱から選び出したいくつかの鉱石や、モンスター素材。あるいは、樹木や、樹液などの入った瓶。
それらをカウンターに並べ、バーグランは値をつけていく。
「・・・・・・こんなもんかな?」
小さな山のように素材の詰まれたカウンター。
見れば、木箱の中身はほぼ空になっている。
「では・・・・・・」
それを見て、バーグランは木箱の中に残っていたものを出して脇に避けると、カウンターの上に出したものを全部木箱へと戻した。
そして、木箱そのものをルディランズの方へと押し出す。
「代金は、こんなところですな」
「はいはい」
バーグランは、丸い水晶のような部品のついた機械を、ルディランズに差し出す。
その水晶には、買い物の代金が表示されていた。
ルディランズは、ライセンスカードを浮かび上がらせた左手で。その水晶部分に触れた。
「・・・・・・・・・・・・はい。確かに」
協会にある銀行の口座から、ライセンスカードを通じて、代金が支払われる。
現金を持ち歩かなくても済む、とても便利な決済方法だ。
「いやあ。バーグランさん。さすがの見立てだぜ」
言って、ルディランズは木箱ごと買ったものを受け取る。
「いえいえ。また、ごひいきに」
そんな声に背を押され、ルディランズは店を出た。
・リーンマン商店
錬金術師や鍛冶師などの生産者が、その素材を注文する店。
店頭になにがしかを並べているわけではない、素材についてきちんと知識がないとまともに買い物はできない。
リーンマン、という三人の兄弟によって運営されている。
三人とも、小柄で初老の男。
日によって、店番は違う。また、店番によって、内装が違う。
休みだからといって、オフの店主を見たものがいないことから、実は一人三役説などもある、不思議な店。
見立てを頼むと、客が欲しているものを、ほぼ9割の確度で出してくる、『目利き』の確かな良店である。




