虫の知らせ(悪寒)
その日、ルディランズはなんとなく不調だった。
「はて?」
どうしたことか、と首をひねるも、不調の原因がつかめない。
これは、ルディランズにとっては、奇妙なことであった。
ルディランズは、魔術師として、自分の体調管理には特に気を遣っている。
この場合の気を遣っている、というのは、体調を崩さないように健康に気を付けている、という意味ではなく、今の自分の調子を客観的に確実に把握する、という意味だ。
だから、例えば病になれば、自力でそれはわかる。
怪我をしていれば、たとえ小さい傷でも自覚できる。
毒などもそうだ。
それらはすべて、魔術を使うときの力の流れに影響するため、繊細な魔術を使う上では、確実に把握しておかなければならない。
だから、ルディランズにとって、原因のわからない不調、というのは、奇妙な事態であった。
「ブレア。お前、調子悪くないか?」
「特には」
ブレアは現在、ルディランズの自宅に住んでいる。
空いている一室を与えられ、こまごまとした家事をこなしながら、ルディランズに使い魔として仕えている状態だ。
今日の服装は、紺色のドレスにエプロン。要は、メイド服である。
ちなみに、二人は基本的に同衾はしていない。
ここら辺、ルディランズはそういう欲求が薄い。
かわいい、美しい、麗しい、という観点で他者を愛でることは楽しむが、性欲に関しては薄いのだ。
これは、寿命が長い種族にはよくある話である。
ルディランズの場合、ドライアドの血がある。
ドライアドは、種族としては、最長命な種族の一つである。
閑話休題。
ともあれ、同居している二人は、生活のほぼすべてを共有している。
ルディランズの魔術の研究には、使い魔であるブレアが協力することも多い。
魔術的なつながりも深いため、ルディランズの不調は、ブレアに伝わる可能性もある。
付け加えると、使い魔としてのブレアの感覚を通じて、より精度の高い客観的な健康診断もできるのが、今のルディランズである。
「・・・・・・ふうむ?」
念のため、とルディランズはブレアに対し、簡易の健康診断をしてみるが、特に異常はない。
「ご主人様。何か、あるのでしょうか?」
背中を見せるために、半脱ぎにしていた服を着なおしながら、ブレアはルディランズに問う。
「んー・・・・・・」
その頭の上の耳を、さわさわといじりながら、ルディランズは唸る。
「虫の知らせってやつかねえ?」
要は、ただのカン。
なんとなく、悪い予感がする、ということだ。
「・・・・・・ブレア。ホームに行く」
「かしこまりました。準備します」
ルディランズは、一度クランホームに顔を出すことにした。
*****
「我が来た!」
「ここ最近毎日来てるが、暇なの?」
「ひどいぞ!」
ルディランズが、クランホームについてからしばらくして、ベアトリスがやってきた。
かしましくきゃあきゃあ騒ぎながら、ソファに腰を下ろして茶をすするルディランズの隣に腰を下ろした。
「今は、いろいろ調整中なのだ」
「何が?」
「む。ルディランズが誘ったのだろ? ・・・・・・『ウチにこないか?』」
妙なキメポーズとともに、キリっとしたキメ顔(ベアトリスが自分で思っているだけ)で、ベアトリスはルディランズの声真似をした。
似てない。
「調整?」
「うむ。ジェシカに話をしたら、いつでもいいわよー、と」
「お前、どこかのクランに入ってなかったっけ?」
「帝都にあるギルドに名前だけ置いていた。我の血族が大体入るところだな」
アルノーの血族が帝都で冒険者になる場合、大体入るギルドである。
曲りなりにも、帝国の影の頭ともいえる、アルノーの血族だ。
下手なところに入れて、問題を起こされると厄介だ、という理由で、時の皇帝によって設立されたギルドである。
なお、問題、というのは、血族に問題が発生した場合に、アルノーがどれだけ暴走するかわからないことである。
「抜けられるのか?」
「問題ないぞ? 『アドベンチャラーズ』みたいに、他に入りたいギルトとかクランとかあったら、抜けていいことになっている」
『アドベンチャラーズ』は、アビロアにある最大手のギルドだ。
人数が最大だが、その理念は冒険者の新人補助と、相互補助である。
新人を多く勧誘し、冒険者としてやっていくための教導や、パーティーの斡旋などの補助業務を手厚く行う。
独立や、他のクラン、ギルドに入る、というのなら、特に引き留めないどころか、サポートまでしてくれる。
そういうギルドだ。
もっとも、同ギルドに所属している者同士で組んだ方がメリットは大きいため、一人前になってもギルドに残る冒険者が半数以上だ。
ちなみに、ジェシカ、アガット、ルディランズも、一時期所属していた。
「ただ、ギルドがあるのが、帝都だからな。手続きにちょっとかかってる」
「なるほど」
「あと、我だからな!」
「うん?」
「血族の上の方で、『虹の飛島』に任せていいのか、と調査しているらしい」
「・・・・・・大丈夫かよ、おい」
「問題なかろう。二等級に三等級も何人かいるし、実績も豊富。何より話題性があるからな」
冒険者に、社会的信用を求めるのは酷である。
ある程度の規模のギルドならともかく、大体の冒険者は収入も不安定だ。
いつ死ぬかわからないし、おまけに割と移動も自由なこともあって、一所に居着かないことも多い。
稼ぎのいい異界がある、と聞けば、あっさりと拠点を変えてしまうのも、冒険者としてはよくある話だ。
ベアトリスも冒険者なのだし、仲間に社会的信用を求める、というのも間違いではないか、と思うが、ベアトリスは先に述べたアルノーの血族である。
変なところに所属されて、問題でも起こされた日には、帝国の屋台骨が揺るぎかねない。
そういう点から、慎重になるのは、わからない話ではなかった。
「それでな。ひい爺様がわざわざ検分に来られるそうだ!」
「・・・・・・・・・・・・何だって?」
「ひいおじいさま、だ」
ルディランズが聞き返したのは、そこじゃない。
ただ、
「来るの? ここに?」
「うむ! らしいぞ?」
「・・・・・・厄介な」
悪い予感はこれかよ、とルディランズはうめく。
うへえ、とルディランズはソファの背もたれに体重を預け、天を仰ぐのだった。
・血城
帝都に拠点を置く、ブラドアート家管理のギルド。
一応、アルノーがギルドマスター、ということになっているが、実際の実務は持ち回り。
ブラドアートの血族が冒険者をやるときに、いろいろサポートをするためのギルド。
所属者は、血族の他は、同様の魄猟種か、血族への奉仕者。
ブラドアート家の私兵戦力でもある。
推薦がなければ入団できない上、所属者で冒険者として熱心に活動する者は少ないため、『冒険者ギルドとしては』あまり名は知られていない。
ベアトリスは、籍だけ置いていたものの、活動は外でやっているため、ほぼフリー状態。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




