アルノーの悪癖
帝国内にある各都市は、大体の構造は同じだ。
一番外に、大外壁。
これは、切れ目が多く、侵入しようとすればいくらでも入る道はある。
ただし、この切れ目から入ってくると、一定のルートを通らざるを得なくなる。
魔獣やモンスター、竜種などといった、人類の生活圏を脅かしかねない怪物の侵攻ルートを限定するための仕掛けだ。
都市の領域を示すものでもある、都市周辺で農地などは、すべてこの大外壁の中にある。
大外壁は、むしろこれら農地を守るためにある、と言ってもいい。
なお、大外壁の各所には見張り台が設置され、外敵の侵攻をいち早く知らせる機能も持っている。
都市部を囲むのが、都市壁。
一番高く、一番強度の高い壁だ。
都市外からの侵入を防ぐための防壁だ。
四方に巨大な門を備え、都市への入出は、すべてこの門を通じて行われる。
一般に、都市、と聞いて一番最初に思い浮かぶ壁は、むしろこの都市壁だろう。
大外壁と都市壁の間は、農地、または郊外の家屋敷がある。
都市内に暮らさない人や、あるいは、大型ギルド、クランのホームなども、これらの場所に建てているところも多い。
土地代が安いのだ。
都市壁の内部は、都市の住民のための住居区画だ。
住居や、商店などが立ち並ぶ。
四つの門をつなぐ形で、大通りが存在し、中央に大広場がある。
大通りの周囲に網の目のように側道がつながり、都市で生きている人々が行き交っている。
そして、都市壁の中。
さらに高い壁がある。
城壁だ。
都市運営の重要施設が集中し、それを区別するための壁である。
高さはそれほどではないし、強度もそれほどではない。
単純に、人の行き来を制限するための壁だ。
この城壁は、中央大広場に面する入り口に門を持ち、大体の場合は大広場の北西側に位置する。
これが、大体の都市構造である。
*****
都市の領主の館、というのは、城壁の外で、都市壁の中にある。
城壁の中にあるのは、あくまでも公共施設だ。
だから、領主の仕事部屋もあるとはいえ、領主自身の屋敷は、あくまでも都市にある。
「やあ、突然の訪問で、申し訳ないね」
「とんでもございません。名高き宰相閣下をお迎えできて、名誉なことです」
「ははは。そういわれると面映ゆいものがある」
アルノーは、アビロア領主であるアンヘル・フェルナンデスとにこやかに挨拶を交わしている。
そして、アルノーは、アランを呼び寄せた。
「こちらは、アラン・レビエナス君」
「ほう。かの名高き『剣聖』のお孫様ですか」
「は。アラン・レビエナスであります」
「固くならなくとも結構ですよ。『剣聖』殿とは、以前帝都で酒宴をともにしたことがありましたが、今もお元気ですかな?」
「は! この間も、黒竜を討伐していました」
「・・・・・・相変わらずですな。あの御仁は・・・・・・」
ははは、とアンヘルは苦笑いを浮かべた。
「しかし、閣下。今回は、何か御用がおありですか?」
「うん。観光、とは思わないかな?」
「いや、あなたまだ任期の途中でしょう。帝都から離れられるとは思えないのですが」
「おっと、確かにそうだった」
はっはっは、とアルノーはのんきに笑っているが、アンヘルとしては冷や汗をぬぐうほかない。
「アラン君。実はね。アンヘル君は、領主になる前に宰相補佐の仕事をしていたことがあるんだ」
「そう、なのですか?」
アランが問うと、アンヘルは遠い目をした。
「激務でした・・・・・・」
あまりにも様々な感情がこもった声に、アランが引いた声を出す。
「帝国は、巨大だからねえ」
「それにしても、同僚が三十人もいて、仕事の量が人外でしたな」
「一応、仕事は毎回整理しているんだけどね」
「冒険者が新しい異界を攻略すると、それで仕事が増えますからな」
「あれは、困ったよねえ」
ははは、と二人で笑い合う。
「ああ、そうだ。小生の用事だったね」
そうだ、とぽん、と手を叩く。
「実は、小生のひ孫がこの都市で冒険者をしていてね」
「ほう?」
「それで、冒険者になってから、そのひ孫からはじめて手紙をもらったのでね。会いに来たのさ」
「・・・・・・本当に観光ですな」
「ふ。小生は、いつでも嘘はつかないとも」
ははは、とアルノーは笑い、アランはなんとも言えない顔で、アルノーを見た。
*****
「アラン殿」
アルノーとアランに、館の中で客を止める客館を貸したアンヘルは、途中でアランを呼び止める。
「どうか、お気をつけを」
「は? 何をでしょうか?」
「閣下です」
「ええっと・・・・・・」
「ああ、いえ、悪事、とは言わないのですが、決して何も企んではいない、ということはないと思いますので」
「それは・・・・・・」
「あの方は、長く生きただけに、様々な経験を積んでおられます」
それだけに、
「時に、あの方は常人には見えないものを、ごく当たり前に見通すことがあるのです」
アンヘルは、苦笑する。
「一つの行動で、二つ三つの結果を導く、などごく当たり前のようになさる方だ。気を付けないと、気づかないうちに無理難題を吹っ掛けられることもありますので」
経験談です、とアンヘルは冗談めかして肩をすくめた。
「まあ、ともあれ、ただの観光で終わることはないでしょうから。気を緩めないようにしてください」
「は。ご忠告、感謝いたします」
「ええ。・・・・・・あと」
ふ、とアンヘルは笑った。
「あの方は、ご年配らしく、若者には過剰な期待をかける悪癖がありますから。苦労なさるでしょうが、どうか、心折れませぬよう」
「・・・・・・頑張ります」
引きつった顔でうなづいたアランの肩を、アンヘルはやさしくたたくのだった。
・都市の構造
帝国では、都市構造については、大体同じ構造になっている。
これは、各都市構造を同じにすることで、兵力の展開などがしやすいようにする、という目的がある。
他には、壁に仕込む都市防衛用の魔術機構は、都市構造に由来する部分も大きいため、同じにしないと利用できない、ということもある。
だから、都市構造は大体同じなのだが、それでもそれぞれの都市は、建築物の流行などで、都市ごとに特色がある。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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