アーティファクト
異相存在、というのは、『力ある隣人たち』とは違うものだ。
現在、『力ある隣人たち』の世界は、神界、魔界、竜星界、巨人界、精霊界、獣群界、蟲巣界、幻想界などがある。
だが、異相存在は、それらすべての世界のどれにも属さない存在だ。
どこから来るのか、『力ある隣人たち』にもわからない。
既存の技術ツリーから外れた文明の産物。
この世界の歴史には存在しない歴史の知識を持つ存在。
既存の法則に則らない何か。
結局のところ、世界の中で分類できない、判別できないすべてを放り込んだ分類が、異相存在である。
*****
魔術研究会の教室で、ルディランズは生徒役であるウィシアとベアトリス、ついでにブレアを前に、解説をしていた。
「で、実は、異界由来の存在の中には、たまーに、こういう異相存在が混じる」
「そうなんですか?」
「例えば、これな?」
ルディランズは、胸元からペンダントを引っ張り出した。
それは、目の形の元にしただろうデザインだ。
不思議な造形だから、妙に威圧感のようなものがある。
「それは、何なのだ?」
「おしゃれだと思ってました」
「センス悪いだろう」
ウィシアの感想に、ルディランズは苦笑する。
「これは、俺の弱点を補強するアーティファクトな」
「アーティファクト」
「一応言っておくが、アーティファクトは、基本的に異相存在だ」
アーティファクトは何か、と言えば、特殊な機能を持った器物全般を指す。
ただし、アーティファクトは、それを発生させる機構を持っていないのに、なぜか特殊な機能を持っている、という代物である。
例えば、魔道具なら、一見そうとは見えなくても、魔術効果を発揮するための詠唱式なり、機構なりが仕込まれている。
だが、アーティファクトには、それはない。
一見して、ただの棒にしか見えないものが、特定の人間が握った時のみ剣を発生させる、だとかそういうのだ。
なんでそんな機能を発生させるのかがわからないから、複製も改造も不可能。
ただ、あるものを利用するしかない。
「たまに、機能を知ることも難しいのもある。・・・・・・まあ、俺は割とわかるんだが」
「先生の『魔眼』ですか?」
「ズルイぞ!」
「アホ抜かせ」
ルディランズの『魔眼』は、ルディランズ自身が知識を持っていないと、見た対象の鑑定は難しい。
見て一発でわかるのは、魔術に関連した品か、そうでないか、ぐらいだろうか。
一応、『魔眼』で見て、魔術による調査やら何やらを経れば、機能がわかるものはある。
これでも、鑑定能力だけで言うなら、帝国内でもそれなりだろう。
ルディランズが、割といろいろな組織の上層部に、ひそやかに名前が売れている理由でもある。
魔術の研究費用のために、片っ端から鑑定しまくったことが原因だ。
正しい鑑定をできたものは、見たもの全体の一割にも満たないが、使い道のわからなかったアーティファクトを、正しい使い方かは置いておいて、使えるようにした実績がある。
今でも、新しいアーティファクトの鑑定依頼が、指名で入ることがある。
「そういう意味で、アーティファクトの機能の鑑定は、とても難しく、仮に十割の精度で鑑定できる人物がいた場合・・・・・・」
「いた場合?」
「その才能だけで、一生遊んで暮らせる」
「そこまでですか?」
ブレアは、ことの重大さがわからないのか、きょとん、とした顔をしている。
だが、ルディランズは、顔をしかめてうなづいた。
「そこまでだよ。今帝国内に、機能がわからないから封印されているアーティファクトが、どんだけあると思う?」
「ええっと・・・・・・」
「一説には、帝国にいるすべての冒険者の数より多い、とも言われているな」
うむ、とベアトリスが答え、ウィシアとブレアがまさかあ、という顔をしたが、
「マジだぞ? たぶん、潜在的にはそれ以上」
帝国が始まってからの歴史の中で、一体どれほどのアーティファクトが異界から発見されてきたか。
そして、その中で、機能の判別に成功したのは、本当に一握りだけなのだ。
それだけあって、だが粗雑に扱うわけにはいかない。
過去、機能のわからなかったアーティファクトが投げ売りされた挙句、大爆発を起こして都市を一個消し飛ばしたのは、歴史にきっちり記されている。
「つまり、それだけあるアーティファクトの機能を鑑定して、使い道を見つけることができるなら、まあ、帝国が国を挙げて保護するだろうし、そうでなければ・・・・・・」
「なければ?」
「その身柄に、いくらの値段が付くか、なんて、想像もできんな」
裏では賞金首な自分のことを棚に上げて、ルディランズは軽く笑うのだった。
*****
「・・・・・・やあ、見えて来たね」
「アビロアですね」
アルノーとアランの一行が、アビロアの壁が見えるところまで来ていた。
「まあ、礼儀として、一応領主殿のところに挨拶に行くところからだ。アラン君はどうするかね? ついてくるかい?」
「はい。お供します」
「そうかいそうかい。では、順番に用事を済ませていくとしよう」
ふっふっふ、とアルノーは笑った。
*****
がた、と荷物が揺れる。
馬車が止まり、わずかに声が聞こえて、また動き出す。
「・・・・・・」
しずかに、そっと、それは抜け出した。
・目の形のペンダント
ルディランズが首にかけているアーティファクト。
ルディランズのヘルメットと合わせて、スフィンクスの異界から回収してきたアーティファクトである。
当時回収されたアーティファクトの大半は、ルディランズの鑑定によって機能が解明されており、その成果もあって、莫大な財となった。
ルディランズが持っているこのペンダントは、機能は単純で、邪眼除けである。
『見る』能力に特化しているルディランズにとって、『見られる』ことによって発動する邪眼は、天敵と言える。
それを回避するためのこのペンダントは、ルディランズにとっては極めて重要な保険となっている。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




