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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
123/206

123 バルゴの思惑とアフロの名受け

バルゴは軍議に出ていた。

まもなく始まるニューロック領への軍事侵攻を前に、幕僚達が行っている会議を特別に用意された席から聞いていた。

バルゴは普段軍議には参加しない。

そもそも単一国家であるこの星では国家間の闘争などというものはなく、せいぜい大型魔獣の討伐作戦や盗賊団などの撲滅にあたる程度が主だったからだ。

もっとも近年では、バルゴが王になってから国家に反逆する不穏分子が増えたためにその粛清に兵を動かすこともあったが、いずれもバルゴは大筋の采配をするだけで細部は部下に任せている。

今回の軍事行動は直属の王都軍をニューロックに向かわせるため、これまでとは違う大掛かりな遠征となる。

そのため、バルゴも軍議に同席して会議を聞いていた。


「既にニューロック領西方のセントロード領と東方のライオット領には軍事作戦に参加する要請をしております。三方から包囲すれば、前回グレース艦隊が敗れたような事にはならないでしょう」

「ライオット領は一時期ニューロック領に同調する動きを見せておりましたが、例の勇者が死んだ事でおとなしくなりました。何やら領地内で問題があったようで、今回の軍事行動に参加できるどうかは分かりませんが」

「王名での参加指示だ。領地内で何があったかは知らぬがもしも参加しないようならば次の粛清先がライオット領になるだけだ」


騎士団長のフラウスがそう答えたが、実のところ、フラウスもバルゴもライオット領で何が起こったかを知っている。

王都と内通していたライオット領太守次官のシュクリフ、そしてその息子であり騎士隊長であったベルノからの連絡によりニューロックの勇者がライオット領に出向いていたことを掴んだバルゴは、勇者抹殺のための指示を出した。

しかしシュクリフとベルノは領地内での勇者抹殺に失敗し、シュクリフは太守の城の崩壊に巻き込まれて命を落とした。

ベルノは最後まで勇者を追いかけ、勇者がニューロックに帰還する船に強襲をかけようとしたが力及ばすに果てた。

だがベルノは、あらかじめバルゴが与えておいた魔道具によって命と引き換えに火の精霊を召喚して勇者の抹殺に成功した。

勇者抹殺までの詳細は伏せたが、勇者が倒されたという事実のみを全領地には通達している。


・・・しかし本当に勇者は死んだのだろうか。


勇者は倒したと火の精霊から報告を受けたバルゴだったが、完全には信じていなかった。

せいぜい半々というところだろうか。

あの小生意気な小娘と、それに協力している精霊共。

小賢しい手を使って生きているような気がしてならない。

ニューロック制圧はバルゴにとってたいした興味はなかった。

勇者に同調しようとしていた者達へのみせしめにはなるだろうが、それ以上ではなかった。

バルゴが一番欲しているのは、他の精霊共を支配することだ。

そう考えたバルゴは、退屈な軍議に付き合うことをやめて腰を上げた。


「バルゴ陛下、どちらへ?」

「会議は任せる。俺は魔道師の研究室へ行く」


バルゴは会議室を出て階段を下り、城の地下にある研究室へと向かった。


「・・・火の。居るか」

(ああ。いるとも)


独り言のように呟いたバルゴに応えたのは火の精霊だった。


「あの異世界人の小娘、本当に死んだのか?」

(死んだかどうかはわからん)

「・・・倒したと言ったのは嘘か?」

(消滅させた事は間違いない。だが死んだとは限らんな。我は『倒した』としか言っていないが)

「どう違うのだ?」

(例えば影武者だった場合だな。だが奴は確かに自ら精霊由来の魔術を行使した。ただしそれ自体も巧妙な魔術だった可能性はある。例えば・・・いや、埒もないことだ)

「・・・まあいい。おしゃべりはここまでだ」


研究室に着いたバルゴは扉を開けて中に入ると、一人の男に声をかけた。


「どうだ。順調か?」

「これは陛下。ご機嫌麗しゅう・・・」

「挨拶はいい。順調か?」

「はい・・・ご依頼の魔道具ですが、まず精霊探知の魔道具については予定通り進んでおります。間もなく探知が可能となるでしょう」


満足のいく回答に小さく頷いた。

探知が可能となれば精霊の捕獲に必ず役立つだろう。


「次に精霊支配の魔道具ですが、こちらは陛下の指示に従って魔石回路を組んでおりますが、やや難航しております。必要な魔石がまだ足りていない事と、実証実験ができないため、確実に動作するかは分かりません」

「魔石は最優先で回す。まずは組み上げよ」

「承知しました。必要な魔力量も膨大となりますのでそちらの心配もありますが・・・しかし陛下はどこでこのような魔石回路の作り方を知ったのでしょうか。我々研究者としてはそちらにも興味が・・・」

「余計な詮索はするな」


バルゴが鋭い目つきで男を睨む。


「・・・失礼しました。最後に例の魔道具、と言いますか、もはや発動装置ですが・・・」


そう言うと男は部屋の奥にある装置にバルゴを案内した。


「まだ特定まではできませんが、干渉に成功しつつあります。先人の知識の深さには脱帽する限りですね。なかなか手強いですが必ずや成功させてみせましょう」

「うむ。期待している」

「・・・これが完成すれば、陛下は文字通りこの星の絶対支配者として君臨できましょう」


中間報告を一通り聞き終えたバルゴは、一応の満足を得て自室に戻っていった。



「えーと、アフロディーテちゃん。今なんて言ったの?」

「短縮されずに名前を呼ばれたのは久しぶりね。ワタシの真の名を受けなさいと言ったのよ。名前と言ってももちろん『アフロディーテ』ではないわよ」


明日、単身でライオット領の東部にあるロイドの町に向かうことにしたわたしは、早めに就寝をして明日に備えようとしていた。

そんな時にアフロがとんでもない話をぶっ込んできたため、眠気は吹っ飛ばされた。


「でも、アフロちゃん。アフロちゃんはわたしに名前なんて渡さないって。わたしに支配されるなんてまっぴら御免だって言ってたじゃない?」

「そこまで言った覚えはないけれども、大体あってるわね」


だからこそ驚いている。

何がどうしてどうなってこうなったのか。


「アフロちゃんよ。説明してもらって良いかの。妾とサラちゃんはユリを信頼しておる。ユリの精霊として共に命運を賭けることを良しとして真の名を受けてもらっておる。アフロちゃんはどういうつもりでそうしたいのじゃ?」

「わっ私は別にユリのためじゃないし!私の為なんだからね!」

「サラちゃんよ。ややこしくなるので少し静かにするのじゃ」


ディーネに嗜められてそっぽを向いたサラはほっといて、アフロの回答を待つ。


「・・・理由は三つよ。ひとつはミライのため。あなたが危険な目に遭ったらミライが悲しむわ。だからワタシの力を与えるの。ライオット領の戦いでも役に立ったでしょう?」


・・・本当にアフロちゃんはミライちゃんが好きなんだねー。

母性本能かな?

土の精霊といえばなんとなく大地母神的なニュアンスを感じるし。

それにライオットでは何度も土の魔術を使わせてもらって窮地を乗り越えたのも間違いない。


「それとアドルのためでもあるわ。あなたはワタシの恋敵よ。ワタシが手を抜いたせいであなたが死んだりしたら、ワタシはユリと競う資格が無くなるわ。ワタシは対等の立場でユリからアドルを奪いたいの。分かる?」

「ええ、正々堂々としすぎてアフロちゃんが眩しいわ」


でも昔、アフロは手段を選ばずに欲しいものは手に入れると言っていたような気もする。

人と生活してアフロの意識が変わったのか、あるいはあえてそんな言い方をしていただけだろうか。


・・・でも、今のアフロちゃんの方が素敵だな。


「最後の理由だけど・・・ワタシの義体だったとはいえ、ワタシは火の精霊に負けたことが許せないのよ。だからユリ、あなたを徹底的に鍛えるわ。その為にも、ワタシができる最低限の協力はするわ。そのためにもワタシの名を受けなさい」


アフロの理由には筋が通っている。

わたしに断る理由はない。

でも・・・


「いいんじゃない?ユリ。私だって最初はアキムの仇を討ちたかったからユリに協力したんだし」

「そりゃそうなんだけどね・・・」

「ユリよ。何を悩んでおるのじゃ?」


サラもディーネも私がなぜ逡巡しているのか分からないという様子だ。

今回の場合、二人の時とは少しだけ事情が違う。

だからそこだけは確認しておきたい。


「アフロちゃん。確かにわたしはディーネちゃんとサラちゃんを支配しているわ。でもわたしは支配しているというつもりはなくて、協力者というか・・・むしろ親しい友人という感覚のほうが強いの。わたしは二人を信頼しているし、大好きよ。だけどね、二人を支配することになった経緯は、どちらもそうせざるを得なかったからなの」


ディーネの場合は王城から脱出するために支配する必要があった。

サラの場合は攻撃されていたニューロックを守る為に力を借りなければならなかった。

しかし今のアフロについては、必要に迫られているかというと、必ずしもそうではない。

だからアフロの気持ちを聞きたい。


「わたしはアフロちゃんの本当の気持ちが知りたい。『本当は支配なんかされたくないけれども仕方なく』ということならば無理はしてほしくない。わたし自身がもっと強くなるように頑張る。もちろんアフロちゃんには力を貸してもらいたいし、親しい友人になりたいと思っている。もちろん恋敵であることも分かっているわよ。でも、それはアフロちゃんを支配をしなくてもできる事だと思うの」

「・・・ユリならそう言うと思ったわ。ワタシが無理をしてまで支配されるぐらいならば断る、とユリなら言うだろうとね」


アフロははあ、と右手を額に、左手を腰に当ててため息をついた。


「仕方ないわね・・・四つ目。いいこと?これが本当に最後の理由よ」


アフロは私に向かって人差し指を向けた。


「あなたの記憶、いろいろ見せてもらったわ」

「うっ・・・」

「人に言えないような恥ずかしいものもあるわね。なかなか楽しませてもらったわ」

「ホントやめてアフロちゃん・・・後生だから・・・」

「ユリの人となりをつまびらかに知った事で・・・ワタシはユリをとても気に入ったわ。それが最大の理由」


アフロがとても柔らかい笑顔でわたしを見た。

わたしの全てを知った上で、わたしに名を受けてほしいとアフロが言っている。

であれば、もはやわたしに断る理由などない。


「・・・ありがとう。分かったよアフロちゃん。わたしはあなたの名を受けます。そしてわたしを鍛えてほしい。アフロちゃんの期待に応えられるように、わたしは必ず強くなるよ」


そうしてわたしはアフロの真の名を知り、アフロを支配した。

なお、依代に関しては『ひとまず現状維持』ということで、今の姿のままの依代となった。


・・・少しその凶暴な胸を小さくしてやろうかと思ったが、アフロに察知されて余計なことをしないようにと釘を刺された。

ちくせう。



「ところでユリ、あなたの記憶を見て、分かったことがひとつあるわ」

「何?」

「あなたが最初の頃にワタシが『アフロ』と呼ばれるたびにちょっと笑っていたのは、あの髪型を思い浮かべていたからなのね」


・・・ヤベェ!気づかれたか!

これは怒られるかな?


「おかしな子ね。とても素敵な髪型じゃないの。ワタシは気に入ったわよ。ワタシの髪型もその『アフロヘアー』にしようかしら」

「いやいや、アフロちゃんは多分似合わないから!それに名前がアフロちゃんなのに髪の毛までアフロにしたら、本当にただのあだ名みたいになっちゃうし!」

「そう思うのはユリだけだと思うわよ?」


とりあえずアフロがアフロになるのはなんとか阻止した。


8/11に次話投稿予定です。


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