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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
124/206

124 再出発、そしてそれも愛だと思う

目が覚めて、袖机に置いた懐中時計を見ると今は七時半。

想定外のアフロの名受けで程よく疲れたわたしはグッスリ眠ることができたようで、実に爽快な目覚めだ。

今日はこれから身支度と軽い食事をして、八時半になったらライオット領まで一気に向かう予定となっている。

あくびをしながら軽く体を伸ばしたところで、ヒョッとディーネとサラがこちらに顔を向けた。

寝起き早々に凛々しいハシビロコウと愛らしいカピバラを見られるのは大変喜ばしい。


「おはようユリ。お寝坊さんね」

「ユリよ。起きたかの。あと・・・一時間で出発じゃ」

「おはよう、サラちゃん、ディーネちゃん。そうね、ちゃちゃっと準備しましょうかね」


ディーネとサラは首輪がわりのチョーカーもどきに懐中時計をくくりつけてぶら下げている。

アフロが地球の時間基準を気に入って、工房で時計を作らせ、ニューロックで普及活動を行ってくれたおかげで時間の把握と共有がしやすくなった。

なお、ライオット領太守のジェイスも時計を気に入ったようで、持ち帰って普及させようと意気込んでいた。

どんどん普及させるといいよ!


着替えを済ませ、朝食を食べに行こうとしたところで部屋の扉がノックされた。

入室を促すと、入ってきたのはアドルだった。

アフロも一緒についてきている。

アフロは昨夜からこの部屋にいたはずなのだが、早起きしてアドルにちょっかいをかけにでも行っていたのだろうか。


「おはよう、アドル。朝食の案内かしら?」

「おはよう、ユリ。うん、まあ、そんなところなんだけど・・・」


そう言うとアドルは横を向いて口籠もった。

なんだろう、何か言いにくい話でもあるのだろうか。


「アドル?」

「ん?ああ、その・・・出発前に顔を見ておきたくてね。今回は一人で行くことになるから、心配もあって」

「それは・・・ありがと」


うう・・・嬉しいけど改まって言われるとちょっと恥ずかしい。


アドルはさらに何か言いたそうにしているが、少し周りを気にしている。

部屋にはわたし以外に誰もいないのに。


・・・いや、ディーネちゃん達がいるか。

それを気にしてるのかな?


「ねえ、アドル。何か言いにくい事でもあるの?ディーネちゃん達はわたしの身内みたいなもんだし大丈夫よ?それでもアレだったら場所を変えようか?」

「いや!大丈夫!それに精霊の皆にもお願いしたいし」

「お願い?」

「ああ・・・オレはユリを守ると誓ったのに、先日の戦いでは逃げることしかできず、アフロさんの分身だったとはいえユリを危険な目に合わせてしまった」

「いや、あれはさすがに仕方なかったし、アドルが無事だった事のほうが嬉しいし・・・」


相手があの火の精霊ではどうにもならなかった。

むしろ逃げ切ってくれて本当によかった。


「それに今回はユリ一人でライオットに行かせることになって・・・仕方ないことだと分かっているけど、オレはユリのそばでユリをいつも守っていたいのに、ついていけないのが悔しいんだ・・・」

「アドル・・・」


アドルの言葉に胸が熱くなった。

気持ちだけで十分嬉しい。


「だから、ディーネ、サラ、アフロさん。ユリの事をよろしくお願いします。オレがお願いするなんておこがましい事とは思いますが、ユリを守ってやってください」


アドルは深々と頭を下げた。


「アドルよ、頭を上げよ。妾とアドルの仲じゃ。もちろん任せよ」


アドルとディーネは、わたしがディーネと出会う前から親交があった。

わたし以上に付き合いは長いはずだ。

きっとディーネはアドルの気持ちを理解しているだろう。


「まあね、ユリに死なれたらこの先つまらないしね・・・って何よ、その目は」


サラはいつもの軽口で答えるが、それが照れ隠しなのは皆知っているので、皆、生暖かい目でサラを見ている。


「ワタシもちゃんとユリを守って連れて帰ってくるわよ。恋敵がいないとつまらないしね」

「アフロちゃんよ。今の二人のやりとりを見ていたであろう?ユリとアドルの間には割り込めないと思うのじゃ」


ディーネの言葉にアフロが首を横に振る。


「そんな事ないわよ。それにワタシは既にアドルの唇を奪っているし」

「唇!?アドル、わたし聞いてないわよ!?いつ!どこで!」

「えっ!?ええっ!?」


アフロの爆弾発言にわたしは驚かされたが、アドルも手と顔を左右にブンブン振ってキョドっている。

アフロはと言えば、とても嘘をついているとは思えない勝ち誇った顔をしている。

しかしいつの間にアドルの唇を・・・

前にわたしがアフロと試合をした後でアフロがアドルにキスをしたのは覚えているが、それは頬であって決して唇ではなかった。

なお、その時わたしもアフロから頬にキスをされている。


「・・・ねえ、アフロちゃん、いつアドルを襲ったのよ」

「襲ったなんて失礼ね。火の精霊との戦いの最中に唇を奪ったでしょう?」

「ん?あ、ああっ!いやいや、でもあれはアフロちゃんの義体だし、見た目はわたしだったし、そういう意味ならアドルの唇を奪ったのはわたしじゃないの!」


自分で言っててこっ恥ずかしいが、確かにあの時、アドルを安心させる為にキスをした。

そして『この体は偽物で、わたしの体はニューロックにあるから大丈夫』とアドルに告げた。


「義体とはいえ、あれはワタシの体よ。つまり、ユリがわざわざワタシをアドルにキスさせてくれたんじゃない。分かる?」

「分かるけど、違うし!み、認めないわ!」


その後、朝食の準備ができたと呼びにきたノーラに仲裁されるまで、ワタシとアフロの不毛な舌戦は続けられた。



行く前からいろいろと疲れることがあったが、朝食と出発の準備を済ませると、わたし達は中庭へ向かった。

中庭には見送りの人達が集まってくれていた。


「ユリ殿、健闘を祈る」

「師匠、同行できないのが残念ですが、頑張ってきてください」

「ありがとうございますカークさん。ノーラ、わたしが留守の間のニューロックを守ってね」


ノーラは本当に残念そうな表情を浮かべている。

わたしもできれば物理的な戦力として一級品のノーラについてきてほしいが、今回は時間との戦いになるので仕方がない。


「ユリちゃん、戦いの準備は任せておいてね。戦闘用魔道具もめちゃくちゃ量産しておくし、『星の船』号もできる限り再建しておくから!」

「うん、エスカ。よろしくね!」


エスカには引き続き、ニューロックでの開発責任者として対応してもらうことになっている。

なお、ニューロックの北側、西側への警戒も行うため、それぞれの方面の警備隊とも連携して、武器の製造方法の提供や物資の輸送も行うこととなっている。

そしてそれはニューロックだけではない。


「ユリ様、ご健闘をお祈りします。また、技術者の派遣協力、感謝いたします」

「ユリ殿。代わりといっては何だが、ライオット領への無断入領にならぬようこれを渡しておく。もしも帰りに時間があればアコニールを訪ねてくれ」

「ロティナさん、ジェイスさん、ありがとうございます。これは入領許可証ですね。助かります!」


どうやらジェイスが昨夜のうちに許可証を作っておいてくれたようだ。

これで不法滞在にならなくて済む。

今回は空から侵入するので、正直無くても構わないものではあるが、現地で無駄なトラブルを避けるために役に立つかもしれないのでありがたくいただいておいた。

なお、ジェイス達も今日のうちにライオット領に帰還するために出発する。

そしてジェイスと共に帰る船には、ニューロックの技術者も数名連れていく予定だ。

ラファルズやラプターなどの技術提供を行うためである。


その後も皆から激励の言葉を受け、最後にひとりの少女がスタタタと駆け寄ってわたしに抱きついた。


「ユリお姉ちゃん。無事に帰ってきてね。ミライ、ちゃんとそろばんの練習をして待っててるの!」

「ミライちゃん。もちろん無事に帰ってくるよ。約束する!」


ミライ的にはわたしがライオット領に行っている間もアフロが擬態したわたしに会っていたはずだから、今回の旅は久しぶりの別れになるのだろう。

寂しい思いをさせて申し訳ない気持ちと、愛おしい気持ちが押し寄せてくる。

わたしもミライを抱きしめようとしたその時、

ミライは素早いフットワークで私の後ろに回り込むと、私の後ろにいたアフロに飛びついた。

アフロは身を屈めてミライをしっかりキャッチし、その凶暴な胸でミライを抱きしめた。


「アフロお姉ちゃん、早く帰ってきてね!ユリお姉ちゃんは少し心配なところがあるからちゃんと守ってあげてほしいの!」

「任せて、ミライちゃん。ワタシがちゃんとユリのお守りをするわ」


ちょっミライちゃん!?

アフロちゃんへの、その絶対の信頼感は何!?

逆にわたしは心配そうに見えていたとは・・・


アフロがミライの頭を優しく撫でる。


「ミライちゃん、ワタシが教えた加護を与えるお祈りの言葉、ちゃんと覚えてる?」

「うん。ミライ、ちゃんと覚えてるの!」

「だったら大丈夫。ワタシもユリもすぐに帰ってくるから安心して待っていらっしゃい」


嬉しそうに頷くミライ。

ドヤ顔でわたしを見るアフロ。

ものすごい敗北感を感じるけれども、本当に嬉しそうなミライの顔を見れて安心したのも確かだ。

アフロには母性を感じるところがあるし、もしかしたら亡くなったミライの母親に重なるところがあるのかもしれない。


・・・動物の依代にしなくてよかったわ。


アフロはアドルにちょっかいをかけるけど、なんとなくそれは愛とは違う気がしている。

なんというか、ただ好きなだけ。

でも、アフロのミライに対する接し方は、紛れもなく愛だと思える。

そんなアフロとミライを見て、とりあえず必ず結果を出して無事に帰ってこようと心に誓った。


「じゃあ、みんな、行ってくるね!」


わたしは全身に風の魔力を纏わせる。

ディーネとサラとアフロが空に舞い上がる。

わたしも風の魔術を発動し、ライオット領に向けて飛び立った。

慌ててディーネ達が追いかけてくる。

いや、ディーネだけがなんとかわたしに追いついたが、サラとアフロはのんびり飛んできている。


「遅いよ、ディーネちゃん、サラちゃん、アフロちゃん!」

「ユリよ!・・・逆じゃ!ライオット領はそっちではないのじゃ」

「・・・」


ミライの心配はいきなり的中した。



「ユリよ。島が見えてきたのじゃ」

「うん、わたしにも見えた。今日はここまでにして、また明日飛びましょう。わたしがもう限界だわ」


飛行すること約十時間。

さすがにくたびれた。

目的地まではおおよそ二千二百キロあり、現在はせいぜい中間地点を過ぎたぐらいだろうか。

それでも百キロ程度で飛行を続けていたので、この世界での移動時間にしては驚異的な速度だ。

風の魔術による高速飛行、そして水の守りによる防風、防塵処置。

そのおかげで風の抵抗にも負けること無く、高速飛行が続けられた。

ちなみにアフロはこれほどの速さでの飛行はできないので、サラに乗せてもらっている。


「アフロちゃんも鳥の依代にすればよかったのじゃ」

「だったら、『ペンギン』というものがいいわ。ユリの記憶で見たけど、あれは可愛いわ」

「アフロちゃん、それ飛べないから・・・」

「貴方達、そろそろ島に着くわよ」


サラが高度を下げて島に向かう。

わたしとディーネもサラについて行く。

島はまあまあ大きいが、全体的に緑色で、森もちらほら見える。

浜辺付近にはゴツゴツした岩も見えるが、人工的な建造物はなく、穏やかで自然のままの無人島のように見えた。

しかし島に近づくに連れ、浜辺付近に人のような姿が見えてきた。


「待ってサラちゃん、島に誰かいるみたい。無人島じゃないみたいだね。ディーネちゃん、なにか分かる?」

「・・・小動物の気配はするが、人の気配や魔獣の気配は感じないのじゃ」

「そうなの?じゃああれは動物かな・・・ああっ!」


わたし達は浜辺付近から島に上陸した。

そして人だと思ったものに近づくと、それは『なんとなく人の形をした像』の群れだった。

そしてこの像、日本では百科事典や有名なシューティングゲームでおなじみのアイツに似ている。


「それ・・・それモアイだと思う。うん、モアイだよ。ここ、イースター島だよ!」

「イースター島とはなんじゃ?」

「地球に『イースター島』という小さな島があるんだけどね。そこにはこんな像が沢山あるの。ここのは少し小さめだけど、本物はもっと大きくて、巨石文化だったかな?誰が何の目的で作ったのかも分からなくて、でも日本にも友好のためにってモアイ像が運ばれたり・・・いてっ!」

「落ち着きなさい」


アフロに見えない腕で殴られたでござる。


「ユリが興奮しているのは伝わったけどね、ここはあなたの星ではなくてよ」

「うう、そうですね・・・それにしても、なんでモアイが・・・」


この星は地球を模倣して造られた星であることは知っている。

そして縮尺は小さく、地形は海岸線だけ模倣して内陸部は超適当だ。

富士山もなければ、エアーズロックもない。


「理由はわからないけど、ここだけ中途半端にコピーされたのかな・・・」


モアイがあるのはここ一帯だけで、他には見当たらなかった。

本当にたまたま中途半端に模倣されただけなのかもしれない。


「でもユリよ。中途半端とはいえ、ユリの星に馴染みのあるものなどこれまで無かったのであろう?良い発見じゃの」

「そうだね、ちょっと郷愁を感じるよ。まあ、本物は見たこと無いんだけどね」


・・・モアイを見て、少し忘れかけていた地球のこと、日本のことを思い出してしまった。

わたし、地球に帰りたいのかな?

もしもこの星が平和になったら、やっぱり帰り方を探すべきなのかな?

そしてもしも帰れるとしたら、わたしは・・・


その時が来たらわたしはどうするべきか、今はまだ自信を持って答えられそうもなかった。

8/15に次話投稿予定です。


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よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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